57.捨て身の秘密兵器
57.捨て身の秘密兵器
クリンバッハ城から少し西の森で繰り広げられている戦いは、今のところゲルマニア軍がやや優勢だった。ローラたちも多くのかすり傷を負い、ミサイルポッドなどのサブウェポンはすでに撃ち尽くしたのだが、敵の持つガンブレラのほうが先に限界を迎えそうなのだ。防弾傘さえ破壊してしまえば、機銃に比べて火力が飛躍的にアップしたガンランスで圧倒することはそう難しくない。
―― バギャギャギャギャゥン! ――
―― ズバガガガガガガガガガガ! ――
「くそっ! あいつらまだやる気かよ!」
「まさか城が炎上していてもなお抗戦してくるとは……」
「こっちも防弾傘がもう限界だ。こうなったら秘密兵器を見せてやる!」
「あれをやる気ですか? 使ってしまえばやつらの銃撃から身を守る術がなくなりますよ」
「どうせこのままじゃバラバラにされちまうだけだ。それなら捨て身の一発を食らわせてやったほうがいいだろ」
「……分かりました。他の二機からの攻撃はこちらで引きつけますから、ボール中尉は目の前の敵に集中してください」
「ああ、頼む。よぉし……行くぜぇっ!」
アルバータがガンブレラを構え、一番近くにいたヴァルトラウトの機体へ突進していく。
「馬鹿め……一直線に突っ込んでくるとは、いい的だ!」
機体のスピードは凄まじいが、あまりに勢いがありすぎる。これではカウンターを合わされたときに避けるのは不可能だ。ヴァルトラウトは突きの構えをとり、アルバータにとどめを刺そうとした。
「食らえアルバータ・ボール!」
「これがガンブレラの切り札だぁっ!」
―― バシュン! ――
ガンブレラの手元には銃弾を発射するための引鉄の他にもう一つ、ジャンプ式の傘を開くためのボタンと同じような物が付いている。アルバータが手元のスイッチを操作してそれを押すと、防弾傘をステッキ型機銃に固定しているロックが外れ、傘の部分がヴァルトラウトの機体に向かって勢いよく発射された。
「なっ!?」
これこそがガンブレラに隠された秘密の機能、『アンブレラ・イジェクト』である。傘の部分をショックアブゾーバーになっているサスペンションの力で発射し、飛んできたミサイルに当てて誘爆させたり至近距離で敵にぶち当てるなど、役に立たなくなった防弾傘に最後の働きをさせるのだ。
「ぬぅっ!」
―― ギャリィン! ――
ヴァルトラウトはいきなり飛んできた防弾傘に辛うじて反応し、ガンランスで叩き落とした。しかし、そのすぐ後ろからアルバータの機体が迫っている。
「せぇぇいっ!!!」
アルバータが両腕にマウントされたパイルバンカーを振りかぶり、空手でいうところの双手突きをくり出す。本来は両拳を同時に出すことで相手の防御を惑わせ、左右いずれかの拳が当たればいいという技だ。しかし防弾傘を叩き落すためにガンランスを振り抜いてしまっていたヴァルトラウトは防御が間に合わず、左右のパイルバンカーを両肩に食らってしまった。
―― バギャゥン! ――
「ぐぁっ!」
両肩を鉄の杭で貫かれたヴァルトラウトの機体が突き飛ばされ、後ろに大きくバランスを崩す。
「ヴァルトラウトっ!」
テオドラが慌てて背後から支え、ヴァルトラウトは危ういところで転倒を免れた。だが機体の両肩は破壊され、腕が動かないどころかガンランスを保持することもできない。これではとても戦闘を継続することなど不可能だ。
「リヒトホーフェン中尉、これでは……!」
アルバータの機体も防弾傘を失い、あとは回避と装甲の厚さ頼みで戦うしかなくなっている。とはいえ、彼女は連合軍のAMがガンブレラを持つようになる以前からトップレベルの腕前を持つエースだ。ヴァルトラウトが戦闘不能になってしまった今、三対二という戦力差はあまりにも大きい。
「どうしよう……これじゃあいつらを撃破して大尉たちの退路を確保するなんて……」
ローラたちは自分たちがウィルメッタに出し抜かれたせいで城を落とされたことに気付いていないが、そうでなくても東のヴァイセンブルクからはエルネスティーネの部隊を撃破したラモーナたちが迫っている。このうえさらに敵の増援がやって来れば、もはやここに留まるどころではない。
「……仕方ないわ。悔しいけど、ここを放棄して逃げましょう。お姉ちゃん……大尉たちのことも心配だけど、こうなったらあの人たちの腕を信じるしかないわ」
「くっ……すいませんリヒトホーフェン中尉…………私のせいで……」
「ブルーメ中尉、自分を責めないで。私はもう、これ以上戦友を失いたくないの。あなたを死なせるぐらいなら、敗戦の恥を忍んだほうが何倍もましよ」
「……ありがとうございます」
ローラとテオドラはヴァルトラウトの機体を庇うように前に出ると、弾幕を張りながら後退をはじめた。そして敵が自分たちを追ってこないとみると、まだ炎を上げているクリンバッハ城を背に、北へと向かって逃げていった。
「やったぜ! 俺たちの勝ちだ!」
「まだですよボール中尉。クルプルとヴァイセンブルクで戦っている全員が、生きてここに集ってこその勝利です」
「そうか……そうだよな」
「おーい! アルバータ! ジョルジアナ! ロベルタぁーっ!」
無線から声が聞こえる。この声はウィルメッタのものだ。アルバータたちが城のほうへと振り返ると、坂の上からウィルメッタのキャメルが走ってくるのが見えた。
「ウィルメッタか! 城はちゃんと落とせたのか?」
「うん、敵はもう一人も残ってないみたい。ついさっきヴァイセンブルクからラモーナ大尉たちも合流したよ。今はお城の消火活動してもらってる。ちょっと私が暴れすぎちゃったからねー♪」
「ああ……すんげぇ燃えてるのがこっちからも見えてたよ」
「ほらほら、戦いが終わったんならアルバータたちも消火を手伝って。弾薬庫に火が回ったら、せっかく落とした城が跡形もなく吹っ飛んじゃう」
「ああ!? なんで俺たちがお前の尻拭いをしなきゃなんねぇんだよ! そんで暴れた張本人のお前がなんでこんなところで遊んでんだよ!」
「ええー、心配だから様子を見にきてあげたんじゃーん。それに、少佐には『城は後で修理すればいいから、とりあえず今回は派手に暴れちゃって』って言われたんだもーん」
「『もーん』じゃねえよこの馬鹿! お前はもう一ぺん入院してろ! 今度はアバラじゃなくてアタマのほうを診てもらえ!」
「やれやれ……騒がしい人たちですね」
「まあ、とりあえずコリショー大尉たちも無事でよかった」
「そうですね……あとはクルプル方面にいる少佐たちが無事ならいいのですが」
ジョルジアナとロベルタが南西の方角にアイカメラを向ける。薄暗くなりはじめた山の影には、未だ決着のつかない戦いの銃火がいくつも交錯していた。




