56.ローラの戦い
56.ローラの戦い
ウィルメッタがまだロブザンヌの森に潜んでいる頃、アルバータたち連合軍はローラとテオドラ、ヴァルトラウトの三機に攻めたてられていた。
「よし……行けるわ。私たちが完全に押してる!」
「お待ちくださいリヒトホーフェン中尉、これ以上進むと山の麓から離れてしまいます。大尉にもここからは南下せぬよう厳命されていたはず」
「ですが、今こそザクセンベルク中尉の恨みを晴らす絶好のチャンスです!」
「…………」
テオドラとヴァルトラウトが機体の顔を見合わせる。この二人とて、ゲルトルートの仇であるアルバータたちを逃がしたくなどないのだ。
「大丈夫、このショーネンブール通りをあの三機に通らせさえしなければ、敵を城に近づけないという私たちの任務は果たせます」
「……了解しました」
「私たちもやつらを生かして帰す気など毛頭ありません。ここで引導を渡してやりましょう」
「はいっ!」
ローラたちはなおも激しい攻撃を加え、連合軍を追い込んでいく。アルバータたちはすでにケッフェナッハの近くまで後退していたが、敵はなおも追撃を止めようとはしなかった。
「や、野郎……調子に乗りやがってぇ……」
「アルバータ、もうちょっとだよ。頑張って」
「そうは言うけどな……そろそろ傘のほうが限界だぞ。やつらが持ってるあの武器、銃口が四つもありやがるから銃撃の激しさが今までの比じゃねえ」
アルバータたちのガンブレラは二層目の防弾繊維までがズタズタに裂け、三層目にも弾が食い込んでいた。このまま銃撃を受け続ければ、数分もしないうちに防弾傘が用を成さなくなるだろう。
「これで終わりよアルバータ・ボール!」
「ゲルトルートの仇、取らせてもらう!」
「死ねぇぇっ!」
ローラたちが最後のとどめを刺さんとガンランスを構え、連合軍の三機に向かって一斉攻撃を仕掛けようとする。だが次の瞬間、彼女たちの耳に大きな爆発音が響いてきた。
―― ドゴォォォン…………! ――
「な、なんなの今の音は?」
「わ、分かりません!」
それはクリンバッハ城の方角から聞こえてきた音だった。だがローラたちにはなにが起こったのか分からない。空を飛びながら地上の敵を攻撃するため、飛行部隊のAMには胸の下に補助カメラが装着されるようになったが、左右にしか動かない元々のアイカメラではもっと遠くまで離れないと城が見えないのだ。飛行しているときなら機体そのものを傾けることである程度上を見ることもできるが、この位置からでは前面ハッチを開けでもしない限り山上の様子は確認できない。
「テオドラ、リヒトホーフェン中尉、少しやつらを抑えていてください。私がハッチを開けて城の様子を確認します」
「「了解!」」
テオドラとローラがヴァルトラウトの機体の前に立ち塞がり、その姿を隠すようにしながら銃撃を行う。その隙にヴァルトラウトは敵に背を向け、前面ハッチを開けて肉眼で山の上にある城を見上げた。
「なっ……!」
ヴァルトラウトが鋭い目を猫のように見開いて絶句する。その青い瞳には、城門付近から黒煙を上げるクリンバッハ城の姿が映っていた。
「どうしたヴァルトラウト! 一体なにがあった!」
「し、城が……城が攻撃されている!」
「なんだとっ!?」
「そ、そんな! 一体どうして? 敵は私たちがここで抑えているはず!」
「分かりません。東に向かった部隊が破れたのか……ともかく、こうなっては敵に構っている場合ではありません。すぐに城へ戻らなければ」
「そうね……お姉ちゃんたちも気になるけど、今は城の救援に向かわないと」
ローラたちが攻撃を止め、慌ててショーネンブール通りを退却していく。
「やったぜ! 作戦成功だ!」
「バーカー中尉がやってくれたようですね」
「喜ぶのはまだ早いよ。敵は城に戻ろうとしてる。このままじゃウィルメッタが危ない」
「そうだな、あいつらを追うぞ!」
「「了解!」」
それまで劣勢だったにもかかわらず、アルバータたちは果敢にも敵を追う。
―― ズキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュゥン! ――
―― スタタタタタタタタタタタタタタタ! ――
「くうっ……邪魔するなぁっ!」
スピードでは自分たちが上だが、背後から銃撃を浴びせられては真っ直ぐ走るわけにもいかない。ローラたちは仕方なく背後の敵に向き直って応戦する。
「くそっ! 死に損ないのくせにしつこいやつらめ!」
「このまま時間を稼がれては城が落とされてしまうぞ……」
背後にも回る可動式のカメラを持たないゲルマニア軍のAMでは、木々の多いこの場所で素早くバック走するのは不可能だ。退却は遅々として進まず、その間にもウィルメッタは城の中で暴れ回っていた。そしてローラたちがようやくアイカメラで城を視認できる場所まで辿り着いたとき、クリンバッハ城はあちこちから炎を上げて燃え盛っていた。
「駄目ですリヒトホーフェン中尉! 城が完全に炎上しています!」
「な、なんてことなの……!」
「こうなっては城に戻ることは不可能です。どうされますか?」
テオドラが指示を仰ぐが、ローラにもどうしていいか分からない。状況的にはアネットと同じように北へ逃げるしかないのだが、それではクルプルで戦っているマルグリットたちを見捨てることになってしまう。
「姉君を心配される中尉のお気持ちは分かります。ですが、フライヤーユニットを持たない我々ではここから救援に向かうことも……」
遠回しに退却を勧めてくれるヴァルトラウトの言葉は正直ありがたい。ローラとて、あえてここで踏み止まることのリスクは重々承知しているのだ。しかし彼女はそれほど姉を愛していないとはいえ、見殺しにできるほど情がないわけでもない。
「こうなったら、目の前にいるやつらだけでも倒しましょう。そうすればお姉……大尉が敗走してきたとしても、ショーネンブール通りからの退路を確保できる」
もしもここで姉を見捨て、そのせいで姉が戦死するようなことになったとしても、それで自分が姉を超えられたことにはならない。ローラは姉や仲間のため、そして自分自身の誇りのため、この場所での徹底抗戦を決意した。
「そうですね……ここで退いてはあの世でインメルマン少佐やゲルトルートに合わせる顔がありません」
「私もお付き合いします」
「二人とも……ありがとう」
そして、ローラたちの孤軍奮闘がはじまった。




