38.新たなる武器、新たなる力(連合軍SIDE)
38.新たなる武器、新たなる力(連合軍SIDE)
アーサリンがウィルマとの戦いに勝利し、一人前のAMパイロットとして認められたその日の午後、インゴルスハイム基地の格納庫にはパイロットたちが勢揃いしていた。
「さて、アーティさんが一人前のパイロットとして認められたところで、私からも重大発表があります!」
一列に並んだパイロットたちを前に、作業着姿のトマサ・ソッピースがてくてくと歩きながら語りかける。彼女の後ろには、一機のAMが丸々入りそうなほど大きな布の包みが置かれていた。
「そっぴーちゃん、それってもしかして……!」
トマサの“重大発表”に期待を膨らませたアーサリンの顔がぱあっと明るくなる。
「むぅ……とうとうアーティさんまで私をそっぴー扱いに……もういいですけど……」
「だったら早く続きを話せって。重大発表ってことはついに……“アレ”ができたのか?」
後ろの包みを見れば、みなが大方の予想はできるのだろう。それを心待ちにしていたアルバータも、アーサリン以上に目を輝かせてトマサの言葉を待っている。
「はいっ、できましたよ。AMの腕を改造することなく、上空の敵を攻撃できる武器……これですっ!」
トマサが叫びながら、後ろにあった大きな包みの布を取り払う。
「おお! ……って…………え? な、なんだこりゃ?」
一瞬感嘆の声を上げそうになったアルバータだったが、それを見た途端にぽかんと口を開けて固まってしまった。
そこにあったのは、巨大な傘であった。半球状の傘はAMの半身をすっぽりと覆ってしまえるほどの大きさで、柄の先端が銃口になっている。持ち手の部分は本物の傘と同じように曲がっていて、弾丸を発射するためのトリガーもついていた。
「これって傘……ですわよね?」
アルバータだけではなく、シャルロットや他のパイロットたちも目を丸くしている。
「そうですよ? これぞ防弾傘とステッキ型機銃を組み合わせて作られたガン・アンブレラ、略して『ガンブレラ』です!」
「いやいやいや、聞いてるのは名前じゃなくってさ。これをどう使えと?」
「え? アルバータさん、傘を使ったことないんですか?」
「そんなわけねーだろ! ってかそういう意味じゃねーよ!」
「もう、しょうがないですねえ。分かりやすいように本物の傘を使って説明してあげます」
どうせそうしなければならないと予想していたのか、トマサは用意していたピンクの傘を取り出して広げ、肩にかけるように差してみせた。こうしてみるとやはりプライマリー(小学生)にしか見えない。
「まず、ガンブレラは今までの機銃と同じように撃つことができます」
そう言いつつ、トマサは広げた傘を前に突き出す。
「今までと違うのはもちろん傘の部分があるかないかです。この傘は薄いように見えますが、装甲にも使われているフェライト系とマルテンサイト系のステンレス層で防弾繊維の層を挟んであります。しかも柄の部分にサスペンションが組み込んであって着弾の衝撃も吸収するので、ちょっとやそっとの弾丸を浴びたぐらいでは貫けません。なので、同時に撃った場合はこっちが一方的にダメージを与えることができます」
「おお、そりゃすごいな! でも、自分の姿を完全に隠しちゃったら敵の姿も見えないだろ。どうやって照準つけるんだ?」
エダが正直に感心しつつも、パイロットであれば誰もが思いつく疑問を口にする。
「よく見てください。こっちの傘にはありませんけど、ガンブレラの傘部分にはちゃんと敵の姿を視認するための覗き窓がついてます」
「あ、ホントだ」
トマサの言うとおり、ガンブレラの傘にはトーチカによくあるような細長い覗き窓が二箇所に開けられていた。
「覗き窓からはガンブレラの先端が見えるようになっていますが、傘の先端自体を照星、覗き窓を照門として撃てば照準が合うようになっています。もちろん敵との距離にもよりますから、みなさんのほうでその都度修正してもらう必要がありますが」
「な、なるほど」
「今までの機銃で上空の敵を攻撃できなかった理由って、要は照準の問題ですからね。肘を曲げれば撃てるんですから、こうやって普通に傘を差すように構えれば上空の敵だって……」
「そうか! アイカメラが可動式になったんだから、覗き窓のある場所にカメラの位置を合わせて撃てばいいんだ!」
「エダさん正解! もしも敵が上空から襲ってきたら、まずガンブレラの傘で敵の弾を防いでからカメラをそっちに向けて、覗き窓から敵影が見えたらそこで引鉄を引けばいいんですよ。しかもこれなら真上だけじゃなく、後ろを取られてもそのまま撃つことができます」
そう、これなら雨の降ってくる角度に合わせて傘の角度を変えるように、ほぼあらゆる方向に銃口を向けることができるのだ。しかも防弾傘のおかげでこちらはダメージを受けないので、高速で飛び回る敵に対してアイカメラを向けるのが遅れがちになったり、攻撃が後手に回ることがさほど深刻な問題にならない。
「これ……何気にすげえ発明かもな」
「そうね。速さでは圧倒的に向こうが上回っているから、こちらが完全に有利になることはないと思うけど……」
「少なくとも、飛行していることによる敵の優位性をかなり殺ぐことはできますね。これで時間を稼いで敵を地上に引きずり下ろすだけで、少なくとも互角の勝負に持ち込むことができるでしょう」
エダだけでなく、隊長のルネと副隊長のラモーナもガンブレラの有用性には文句の付けようもないらしい。
「うーむ、しかしこのデザインだけはなんとかならんのか? 八角形ならともかく完全な半球状の傘とか、オシャレさの欠片もないぞ」
唯一、あらゆるものはデザインと芸術性こそ命というフランチェスカだけが文句を言う。
「だから見た目は問題じゃねえって言ってんだろうが!」
「なにを言う! かつての旧イタリアの時代から、我がローマ共和国の銃は機能もデザインも芸術的なのだぞ!」
またもエダとフランチェスカの不毛な言い争いが始まる。しかしルネとラモーナはそれを完全に無視して、これからの方針について話し合っていた。
「隊長、これで敵と互角に戦える算段がついたわけですが……どうされます? すぐにでも決戦を挑まれますか?」
「そうね……でも、この新型武器が実戦でどれほど有効なのかを一度試しておきたいわ。総力戦を挑むのはその後ね」
「ならばまず数機で攻撃パトロールに出て、敵の飛行部隊が出てきたら一戦交えてみる……という方針でよろしいでしょうか」
「ええ、明日にでも――」
クリンバッハ城で明日の出撃が決まったのと時を同じくして、インゴルスハイム基地でも出撃は明朝と決まった。




