えくすとら みすずDays
今回のえくすとらは藤原さんのお話です
こういう、本編は完結してるけど外伝描きたい時、いちいち連載中に設定しないと駄目なのが面倒ですね(汗)
泊りがけでの海水浴。
台風のため延泊する事になったが、夕方には嵐が収まり雨も上がった。
何とか明日は帰れそうだ。
ホテルのエントランスから出て空を見ると、綺麗な虹が出ていた。
「おお、虹なんてひさしぶりだな」
「ええ、綺麗ですね」
柔らかな声が答えた。
「え?」
見ると藤原さんが隣に立っていた。
「あ、おかえりなさい」
「はい、ただいま帰りました」
にこやかに微笑む藤原さん。
どうやら道路が復旧してホテルに戻って来れたようだ。
「大変でしたね」
「はい、急に雨が激しくなって…」
話しながら荷物を持って部屋へと向かう。
2人で一階の大浴場の脇の廊下を通った時だった。
『ピヨピヨピヨピヨ』
ヒヨコの鳴き声の様な音が聞こえた。
俺は一瞬耳を疑った。
え、まさか⋯?
「ちょ、ちょっと待ってて下さい」
藤原さんを押し留めて、廊下の曲がり角から先を見る。
日が傾き、少し薄暗いホテルの廊下。
そこをヒヨコの人形が列を作って歩いていた。
『ピヨピヨピヨピヨ』
もちろん誰も操作したりはしていない。
ヒヨコ人形が勝手に動いて列を作って歩いている。
あれは、七海があの時に使った人形だ。
⋯⋯つまり、本物の怪異。
七海がバッグに付けて管理していたはずなのだが、逃げ出した?
ま、マズい⋯。
あれは藤原さんには見せられない。
「律斗さん? どうかしましたか?」
「あ、いや⋯ちょっと⋯」
「廊下の先になにか?」
藤原さんは俺の肩越しに先を見ようとした。
「ち、ちょっと、待って」
俺は必死に藤原さんを押し留める。
何か理由を考えないと⋯。
「藤原さん、こっち⋯」
「え?」
俺は反射的に廊下に有った扉を開き、藤原さんと入った。
「えっえっ?」
藤原さんは戸惑いながら一緒に部屋に入り、後ろ手に扉を閉めた。
『カチャン』
扉の鍵が落ちる音がした。
すこしの間、藤原さんは戸惑った様な表情を浮かべていた。
「あの、律斗さん、本気⋯ですか?」
「え?」
「その、ここに入ったと言う事は⋯その⋯そういう?」
俺はその時に成って初めて周囲を見渡した。
幾つもの棚に積まれた布団、枕、シーツ⋯。
ここは⋯布団部屋?
「あの、布団部屋に女性を連れ込むのは⋯その、男性が女性を求めて⋯」
もじもじとしながら俺の顔をちらりと見る。
「ち、違いますっ、えと、あの⋯」
俺は何とか言い訳を考える。
「な、何か立ちくらみが⋯あー、少し横に成りたい。成りたいなー」
「だ、大丈夫ですか、律斗さん! こ、こちらへ⋯」
藤原さんは俺を慌てて抱きとめ、広げた布団の上に寝かせた。
「す、すみません、何か急に⋯」
「いえ、少し休んで下さい⋯あ」
藤原さんは一瞬驚いた表情をした。
「? 藤原さん?」
「い、いえ、そういう事でしたら」
「??」
何か藤原さんの挙動がおかしい気がする。
落ち着きが無いと言うか⋯。
もうそろそろ廊下に出ても良い頃合いなんだが、引っ込みがつかなくなってしまった。
「疲れが出たのかも知れませんね⋯少しほぐしましょう」
「ほぐす?」
「はい。うつ伏せに成って下さい」
俺は藤原さんに言われるまま、布団にうつ伏せになった。
その、俺の背中を藤原さんは指先でゆっくりと押し始める。
背中の張っていた筋肉がゆっくりとほぐれていく。
「おお、気持ち良い⋯これは指圧?」
「はい⋯我流なんですが」
「十分ですよ」
そうしてゆっくりと背中を押して貰う。
段々と体の緊張が解けてゆく。
「もう、痛くは無いのですか?」
暫くして藤原さんはシャツの上から優しく俺の脇腹に触れた。
数ヶ月前に暴漢に刺された場所だ。
今は縫合跡が赤くミミズ腫れの様に残っている。
「あ、はい。強く押したりしなければ⋯」
「話を聞いた時は⋯驚きました」
藤原さんは背中を押しながら言った。
「心配をかけてすみません」
「いえ、もちろん、怪我をされた事にも驚きましたが⋯」
「?」
「まさかナイフを持った暴漢に挑むとは」
「はは、あの時は夢中で⋯」
「聞いています。美月さんを守ろうとしたのですよね」
「まぁ、結局、刺されてしまいましたが⋯」
「いえ、律斗さんらしいなと」
「え、そうですか?」
「はい、体育館の時も、スマホを必死に奪ってくれて」
言われて、藤原さんと初めてあった時の事を思い出した。
と、藤原さんが俺のうなじを優しく撫でる。
「嬉しかった⋯です」
「藤原さん」
「今までお嬢様を守る事はあっても、誰かが私の為に戦ってくれるなんて⋯」
「大げさですよ」
「それなのに、あの時はちゃんとお礼も言わず、申し訳ありません。驚いてしまって⋯お恥ずかしいです」
藤原さんはうなだれていた。
「今更、気にしなくても」
「いえ、ずっと気になっていました⋯あの、何かお礼をさせて下さい」
「そんな、これまでも度々助けて貰ったのは俺の方ですし」
一瞬、戸惑った様な空気が流れた。
「で、では、お互いに相手の希望を一つ聞くと言うことでどうでしょう?」
「はい、それなら」
俺はそう答えた。
こんなの、意地を張るような事じゃない。
「では律斗さんのご希望は⋯?」
藤原さんは俺の背中をゆっくりと撫でながら聞いた。
緊張がほぐれ、体がポカポカと温かくなってきた。
「えと⋯護身術を教えて貰えませんか?」
「護身術?」
「はい、本格的な武道とかでなくて良いので⋯何かあった時に、自分や周りの人を守れる位の」
「律斗さん⋯貴方はそんな怪我をしてもまだ⋯?」
「まぁ、次は怪我しない程度に成りたくて」
それを聞いた藤原さんはゆっくりと俺の背中に頬を寄せた。
「そんなの⋯いつでも⋯お願いじゃなくても教えます」
「ありがとうございます」
「私も律斗さんに怪我してほしくないですから。だからこれは⋯お願いに成りません」
「え?」
「どんな事でも⋯良いです⋯よ」
背中越しに藤原さんの体温が伝わった。
あれほどの武道の達人⋯でもやっぱり一つしか違わない女の子。
もっと⋯知りたい。
好きな事や今までの思い出とか、もっと。
「えとそれじゃ⋯」
俺は体を起こして藤原さんと布団に向き合って座る。
「はい⋯」
「みすずって呼んで良いですか。その、藤原さんって、他人行儀だなって。2人だけの時とかでも良いので⋯」
「!」
「だ、駄目ですか?」
みすずはゆっくりと何度も首を振った。
「良いに決まってるじゃないですか⋯」
瞳が潤んでいた。
やっぱり、可愛い。
「あ、私からのお願い⋯決まりました」
そう言って俺の方に身体を寄せる。
「どんな事?」
「キス、教えて下さい。まだ⋯したこと無いので」
そう言いながら、潤んだ瞳で俺を見た。
「俺が初めて⋯で良いの?」
「律斗が⋯いい」
そう言って更に少し顔を近づける。
「ゆっくりで大丈夫⋯」
「うん」
そう答えて、また少し。
少し唇が触れて、驚いた様に少し離れて、また近づいて。
そうやって少しづつ、時間をかけてキスをした。
それが俺達らしいと、みすずの背中に手を回しながら思った。
その後、部屋に戻ってから⋯。
『今日お礼をしないと2度とチャンスが無い』と七海に言われた事をみすずが教えてくれた。
作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)
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ファンタジーからSFまで色々揃えてます。
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