日本国憲法もいろいろおかしい
俺は、学園一の美少女、藍染春香に週末自宅へ招待された。
藍染と話した後、俺はずっとメールの内容を気にしていた。
もちろん、藍染と遊べるのは嬉しい。
しかし、お互い本格的に話したのは今日が初めて。
いくら何でも距離の詰め方が激しくないだろうか?
こういう時、幸運を喜ぶより裏を勘繰ってしまうのはネガティブ思考なんだろうか‥。
考え込んでいて、どうやって家に帰り着いたか覚えていないほどだった。
玄関のドアを開け、リビングに向かう。
「あ兄ぃ!」
リビングに入ろうとした俺は突然、美月に呼び止められた。
ドアの前で俺を悲しそうな顔で見つめている。
「お、おう‥どうした? そんな顔して?」
「こんな顔は生まれつき‥じゃなくて!」
「違うのか?」
「これから、警察行こう。自首、しなよ」
「は? なぜ?」
「そんなの、自分の胸に手を当てて見れば、分かるでしょ?」
言われて、胸に手を当てる。
「‥‥分からん」
美月はここで大きく息を吐いた。
「‥自白を拒否する?」
「さっきから、何を言っているんだ?」
「藍染さん‥」
美月はぽつりと呟いた。
「えっ?」
「図書室で藍染さんに、酷いことしたでしょ! 目撃者だって居るんだからねっ!」
「な、何でお前が図書室での事を‥」
知っているんだ、と言いかけて止めた。
交友関係の広い美月の事だ。
さっきの図書室に友人が居たとしても、おかしくない。
女子の噂の速度は光より速いと聞く。
「出して」
俺に向けて手を差し出す美月。
「な、何を?」
「ナイフ! それで藍染さんを脅したんでしょ!」
「え? ち、違っ」
「藍染さん、泣きながら図書室から出て行ったって‥あ兄ぃ、それは駄目だよ」
「いや、それは‥誤解だ」
予想外の話に思わず混乱した。
誤解され過ぎてどこから訂正すれば良いのか分からない。
どう説明したらいい?
「なんでそんな事したの? 欲求が不満だったの? ひとこと言ってくれれば私が‥」
「何でそうなる」
「私なら藍染さんに出来ない様な事でも‥」
ぐっと身を乗り出す美月。
「わわわ、落ち着け! あと、お前とんでもない事言ってるぞ」
俺は美月の肩に手を置き、じっと美月の顔を見つめた。
「えうっ?」
急に見つめられてキョトンとする美月。
すかさず説得を試みる。
「藍染にはゲームの攻略方法で相談をされただけだ。ナイフと言うのはそのアイテムな。あと、藍染が急いで帰ったのはその後予定が有ったからだ」
ここはチャンスと見て一気にたたみかける。
「じゃ、じゃあ、あ兄ぃがナイフで藍染さんを脅して交際を迫った訳じゃ‥」
「いや、お前は俺を何だと思ってるんだ」
「‥凶悪系鬼畜ゲーマー」
「おい!」
「だって、夜中に部屋から『いい加減くたばれ!』だの『息の根止めてやるコイツ!』だの聞こえてくるし‥」
「うぐっ」
それは、心当たりしか無い。
「だからてっきり、私‥」
「それは、ゲームの敵モンスターに言っただけだ」
‥しかし、ゲームに熱中するあまり、大声で発声するのは今後控えよう‥。
「ほ、ホントに‥? 分かった」
ようやく美月は納得したようで、キッチンに行き、冷水をコップに入れて飲み始めた。
「あー、良かった。私てっきり藍染さんに‥」
「いやいや、その発想は酷くないか」
「だって藍染さんだよ? 学園のアイドルだよ? そんな人があ兄ぃとなんて‥ねぇ?
「いやいや、自慢じゃないが、今回は藍染の方から連絡してきたんだぞ」
「へぇー、そうなんだ。 ふーん。 いいもん。私なんてあ兄ぃと兄妹だもん。いつまで経っても肉親だもんね」
若干唇を尖らせながら美月は言った。
‥いや、お前は何と競っているのだ。
「まぁ、仮に親達が離婚したら他人に戻ると思うが」
余にも自信満々なので、軽くからかってみた。
『ガチャン!』
カン高い音共にコップが床に落ち、割れた。
美月がコップを持っていた手を滑らしたらしい。
「おいおい‥」
「‥嘘」
「ん?」
「嘘、だよね? 私とあ兄ぃはずっと、兄妹だよね?」
振り向いた美月の顔は血の気が引き、手が震えている。
「んーと、‥親が結婚して兄妹に成ったんだから、もし離婚したら他人に戻るんじゃ?」
「‥そんな‥酷い」
「いや、そんな事言っても‥」
「一度、兄妹の盃を交わしたら、ずっと兄妹でしょ? 」
「どこの任侠映画だそれ」
「ヤダ。やだやだやだ。ずっと兄妹がいい」
「俺もそう思うけど‥法律的には‥」
見ると、美月の瞳には涙が浮かんでいた‥。
流石に言い過ぎた?
「み、美月‥あのさ‥あくまで一般論だからな?」
そんなに気にするとは思わなかった。
「う‥」
「う‥?」
「うわーん、日本国憲法なんてぶっ殺してやるーー」
物騒な事を言いながら、美月は自分の部屋に走り去って行った。
後には割れたコップが残されていた。
「‥え、これ俺が片付けるの?」
溜め息をつきながら掃除機を取りに行く俺だった。
その後、夕飯時になってようやく美月はリビングに出てきた。
瞼が少し赤い。
そんなに悲しむと思わなかった。
食事が終わってから声をかけた。
「美月、さっきの事だけどさ‥」
「‥ゲーム」
「ん?」
「藍染さんがやってるゲームって、ここのゲーム機でも出来る?」
美月は予想外に真剣な目で俺を見た。
リビングにある家庭用ゲーム機を指さす。
「あ、ああ、インストールしてあるから、美月のアカウント作ればすぐにでも‥」
「やる! 遊び方、教えて!」
「良いけど‥お前、ゲーム苦手じゃなかったか? コントローラー使うの面倒だって‥」
「いいの、そんな事言ってる場合じゃない」
「そうか? えと‥」
俺は美月に“ファンタズム・ワールド”の基本的な操作や遊び方等を教えた。
実際にやってみると、元々運動神経の良い美月は、1時間ほどでチュートリアルをクリアした。
「これなら、暫くすれば、一緒にプレイ出来るレベルになるかも知れないな」
俺がそう言うと、美月はようやく笑顔になり、Vサインで答えた。
どうやら機嫌は治ったようだ。
だがこの時の俺は、悪い噂を耳にしたのが美月だけでは無いことを考えて居なかった‥。
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