お祖母ちゃんもいろいろおかしい
須藤律斗:本編の主人公。元々母親とは死別して、父との2人家族だった。
美月とは幼馴染だったが、親同士の再婚により義理の兄妹に成った。
校内ではゲーム好きで有名。
朝の準備を済ませた俺と美月は、ホテルのロビーで両親と落ち合った。
とりあえず、ホテルのレストランでモーニングセットを食べながら昨日の顛末を説明する。
父親は食後のコーヒーを一口飲み、口を開いた。
「お前達がそこまで準備したなら、最後までやってみろ。病院には俺から説明しておく」
「うん。着付けとかあるから、病院に行くのは昼過ぎかな」
「そうか。父さんと母さんは先に病院に行くから、向こうを出る時に連絡してくれ」
父親はあまり感情を表すタイプでは無い。
ただ、こうして協力してくれると言う事は、俺たちの行動を応援してくれているのだろう。
「わかった。あと、衣装を手配してくれた式場が、俺と美月の事を宣材に撮影したいって‥」
「夜遅くまで世話して貰ったなら、礼はせんとな。ちゃんとした式場らしいし、お前達の判断に任せる」
「ん、ありがと」
と、そう言えば肝心な事を忘れていた。
「母さん、そう言えば俺たちの部屋、ダブルベッドなんだけど‥?」
「あら、そうなの? ‥‥まぁ、仕方ないわね、それしか空いてなかったんだから」
「いや、さすがに年頃の男女を一部屋は‥」
「大丈夫、大丈夫。お兄ちゃんの事、信頼してるから!」
母親はそう言って俺の肩をポンポンと叩いた。
いや‥信頼してもらって有難いけど、かなりギリギリの状態だったんだけどな‥。
「まぁ人間、くっ付く時はなにをしてもくっ付くものだし。その時は諦めなさい」
そう言ってバンバンと肩を叩く。
‥‥こう言う人だった‥知ってたけど。
母親は再婚するまではむしろ美月と俺を積極的に結婚させようとしてた人だ。
今でも微妙に諦めていない気配がある。
「あ兄ぃ、そろそろ行こ」
美月が声をかけてきた。
「んじゃ、行ってくる」
俺達は両親に声をかけて式場に向かった。
式場に着くと、やけに大勢のスタッフが待ち構えていた。
カメラマンや照明、メイク、ビデオや音声担当まで。
「えーと、少し撮影するだけなのでは‥?」
俺はその場を仕切る高見さんに尋ねた。
「いやー、支配人が妙にやる気出しちゃって‥お二人は気になさらず」
「あの、俺達、病院に行かなきゃならないので、そんなに撮影出来ないと思いますけど‥」
「はい、こちらで勝手に撮影しますので、その辺は大丈夫ですよ」
高見さんが言う通り、スタッフの人達は手慣れた様子で準備を進めていた。
撮影しながらも衣装の着付けやメイクが、着々と進んでゆく。
たまに支度の手を止めての写真撮影とかもあったが、それも僅かな時間だった。
‥美月の方でもこんな感じなんだろうか。
髪をセットして貰いながら、何となくそう考えた。
準備が終わり、結婚式風景を撮影するためにウェディングホールへと向った。
昨晩も通った通路だが、お祝いのフラワースタンドまでちゃんと準備されていた。
「凄い、よくこの短時間で準備できましたね、これ」
フラワースタンドを指さして聞く。
「こういう手配はいつもの事ですので」
高見さんはにこやかに答えた。
もしかしてこの人、目茶苦茶有能なのでは‥。
ホールに入った所で美月を待つ。
驚いたことに来賓の人達もちゃんと揃っていた。
もちろん、俺達の親族ではない。
「‥この人達は?」
「手の空いているスタッフや知り合いに声をかけて来てもらいました。やはり、空席では雰囲気が出ませんからね」
「ここまで本格的にやるとは思いませんでした」
「たまに有るんですよ、席埋めのゲストの手配を頼まれること」
「な、なるほどぉ」
結婚式場なりの、こういった人脈があるのだろう。
「律斗!」
感心している俺に美月が声をかけた。
「おっ、来た‥」
振り向いた俺は途中で声を失った。
差し込む陽光のハレーションの中に煌めく花嫁姿の美月が居た。
美月のウェディングドレス姿は昨日も見ているはずなのに、想像をあっさりと超えられる。
ドレスが柔らかなウエーブを描き、アクセサリーが光を受けてキラキラと輝きを振りまいた。
デコルテから肩口、背中にかけての繊細なラインが微かな蠱惑を放っている。
美月はその場でふわりとターンしてみせた。
まるでスローモーションの様に周囲の時間を止めて一回転する。
そのまま俺の隣に来て、腕を取った。
「どう? 素敵でしょ?」
「ああ‥美月もドレスもな」
「お祖母ちゃん喜んでくれるかな?」
「これなら文句ないだろ」
俺はターンで乱れた美月の前髪を指先で揃えた。
「律斗も‥」
美月はチラリと上目遣いで俺の顔を見る。
「ん?」
「律斗も嬉しい?」
「そりゃまあ、もちろん」
俺はあさっての方を見つつ答えた。
真正面から見つめて答えるには、今の美月はあまりに魅力的過ぎた。
「じゃ、このまま式挙げちゃう?」
「いや、それは無い」
「ぶぅ! 花嫁には優しくしてよ〜」
ふくれて軽く肘打ちしてくる。
「本番なら優しくするよ」
「え! それって!?」
途端に俺を見つめる美月の瞳が潤んでくる。
しまった! 言い方が悪かった。
これは誤解を解かないと後でマズい事になるやつ。
「いや、待て待て、そう言う意味じゃない。あくまで一般論だ」
そう言われ、美月は自分の早合点に気が付いたらしい。
みるみる頬がぷっくりと膨れる。
「ええ〜! からかったのぉ〜っ?」
ポコポコと握った手で俺を叩く。
もちろん本気で叩いている訳では無くて、照れ隠しみたいなものだ。
ただ今回は俺の言い方も悪かった。
叩かれるのは潔く受け入れよう‥。
「あのー、そろそろ‥」
様子を見ていた高見さんが声をかけてきた。
「このままだと、お二人に当てられて、来賓が溶けてしまいますので‥」
「あ‥す、すみません」
俺と美月は慌てて前方を向き直す。
それから30分ほど。
まるで本番の結婚式の様に、バージンロードを2人で歩き、神父さんの前での宣誓や指輪の交換を行った。
もちろんカメラやビデオに撮影されながらだったけど。
「それでは、お祖母様へのお披露目、頑張って下さい」
高見さんは俺達を送り出しながら言った。
式場の出口にはちゃんと黒塗りのリムジンが停まっていた。
これで病院まで送ってくれるらしい。
ただ‥
「これ、何とか成らなかったんですか?」
俺はリムジンの側面に描かれたピンクのロゴを指差した。
そこにはデカデカと、“Just Married!”なんて描かれている。
「結婚式場の車なので」
高見さんはにこやかに言った。
もう最後まで結婚式の体で進めるつもりらしい。
まぁ、空き缶が付いていないだけマシだと考えよう。
「行ってきます」
「ありがとうごさいましたっ!」
俺達は挨拶をしてリムジンに乗り込んだ。
リムジンは市内を進み、病院の通用口に横付けた。
父親からの連絡で、正面から花嫁姿で入っては騒ぎになる、ということで関係者入口から入る事になった。
普段の病院の通路とは違い、配線や配管が天井に剥き出しの無機質な廊下。
その、雑然とした通路を結婚式衣装の俺達は看護師さんの先導で病室に向った。
途中で幾人かの病院関係者とすれ違ったが、皆、初見はギョッとし、その後微笑んで通路を空けてくれた。
中には小さく拍手してくれる人も居て、ますます恐縮してしまう。
関係者用の大型エレベーターを降りれば、あやめお祖母ちゃんの病室は目前だ。
病室のドアの前には昨日と同様、両親が待っていた。
「‥見違えたな」
父親は俺たちを見て、一言そう言ってドアを開けた。
開けたドアの正面にはベッドがあり、あやめお祖母ちゃんが上半身を起こして、こちらを見ていた。
病室は小さいが個室なので、他には誰も居ない。
「お祖母ちゃんっ!」
美月は病室に入ると、ベッドに駆け寄った。
「美月ちゃ? あれまぁ、こんなに綺麗になって!」
お祖母ちゃんは目を丸くした。
美月の伸ばした手にお祖母ちゃんも手を伸ばし、2人は抱き合った。
「ね、約束した花嫁衣装‥」
「うんうん、ありがとね‥綺麗だよぉ。律斗ちゃも」
そう言って俺の方にも手を伸ばした。
俺もその手を軽く握る。
相変わらず細くて小さな手だったが、昨日よりも温かく元気に感じた。
「美月ちゃの花嫁姿見れて、婆ちゃん幸せだぁ」
お祖母ちゃんは溢れる涙を何度も拭った。
「喜んでくれて、私も嬉しい‥」
美月もお祖母ちゃんの頬を優しく拭った。
「もう思い残す事無いよぉ。いつお迎えが来ても‥」
「駄目っ!」
美月はお祖母ちゃんの言葉をきっぱりと遮った。
「美月ちゃ?」
「まだまだお祖母ちゃんには見て欲しいもの沢山あるの。赤ちゃんにだって会わせたいの‥だからそんな事‥そんな事言わないでよ‥」
言いながら美月の目から大粒の涙が溢れる。
「あれれ、ごめんな、美月ちゃ‥」
「うん、だから‥だからさ‥」
美月は涙でそれ以上言葉が続かない。
俺はもう一度お祖母ちゃんの手を取った。
「お祖母ちゃん、今まであまり来れなくてごめん。近いうちにまた来るからさ‥それまで‥」
「そだな、婆ちゃも頑張らないと駄目だなぁ」
「うん、今度は色々とお土産とかも持ってくるからさ」
お祖母ちゃんは俺の言葉に静かに首を振った。
「なんにも要らんから‥律斗ちゃと美月ちゃの顔見るのが一番だからさ。また見せに来て?」
「うん、約束するよ」
「美月ちゃ‥」
お祖母ちゃんは美月を見た。
「お祖母ちゃん‥」
「花嫁衣装見せてくれてありがとぉ。本当の式ができる様に、お祖母ちゃも応援してるからな」
「え、お祖母ちゃん、知ってた‥の?」
「兄妹の事は気にしなさんな。いざとなればお祖母ちゃんが何とかするからさ」
「ありがと、お祖母ちゃん‥」
もう一度、美月とお祖母ちゃんは抱き合った。
‥それじゃ、お祖母ちゃんは全部知っていて?
記憶が混乱してるとかじゃ無かったんだ。
「お前達は許婚なんだから‥一緒になるのが一番さぁ」
お祖母ちゃんは懐かしむ様にそう言った。
「「ええーーーーーっ?!」」
衝撃の言葉に俺と美月は声を揃えて互いの顔を見た。
「し、知ってた‥?」
「い、いや初耳‥」
いくら親同士の話と言っても、当人が全く知らないなんて事あるだろうか。
「でもさ、そう言えば子供の頃に家族皆で長野の神社に行ったことあったよね‥」
美月が思い出しながら言った。
「ああ、一緒に座って何かを飲んだけど。いやでも、その後も何も無かったし‥」
今の今まで、あれは田舎によくある季節行事だと思っていた。
言われて見れば子供の頃、美月と一緒に遊んでいると周囲の親戚達が、
「律斗と美月は将来は一緒になるんだよね」
とか、
「早く花嫁姿が見たいねー」
とか言われていたのは確かだ。
でもそれは、幼い俺達をからかって言っているのだと思っていたが‥。
「あれ、マジだったのか‥」
「あ兄ぃ、どうしよう‥私‥ビックリして‥力入らない‥」
美月が泣き笑いの顔でこちらを見た。
慌てて抱きとめ、椅子に座らせる。
「美月ちゃ、大丈夫?」
「う、うん。ちょっと‥ビックリしただけ」
「あれれ‥知らなかったのかい。言わない方が良かったかねぇ」
俺達の反応にお祖母ちゃんは戸惑っているみたいだ。
「いや、思い出せて良かったよ。ありがとう、お祖母ちゃん」
「そうかい? だったら良かった」
頷くお祖母ちゃん。
その一方で俺は動揺を抑えるので精一杯だった。
美月が許婚?
親戚や両親もその事を知っていた?
世界が丸ごとひっくり返った様な感覚に襲われ、思わず足に力を入れ直した。
モチベーション維持のためにもぜひぜひ感想とか教えて下さいませ。
気に入った部分だけでは無く、ここが“読みにくかった”“分かりにくかった”も、とても参考に成ります。
感想書いて下さる人には本当に感謝です。
また、連載形式で数日ごとアップしますので、読み逃し無いようお気に入り登録も宜しくです。
他にも小説家になろうに色々作品アップしてますので、良かったら見てみて下さい。
ファンタジーからSFまで色々揃えてます。
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