夏休みの思い出もいろいろおかしい
長野に住む祖母の“あやめ”さんが倒れたと聞き、俺と美月はお見舞いに駆けつけた
両親がホテルを予約したので、病院を出てチェックインに向った。
ホテルのフロントで手続きをした母親からルームキーを受け取る。
「あれ、私は?」
美月がたずねる。
「お兄ちゃんと一緒よ。一部屋しか空いてなかったの」
「「え?」」
なんかニュアンスは違うが、俺と美月の声がハモった。
「あんた達、こっちではいつもお祖母ちゃん家の部屋で一緒に寝てたじゃない」
「それ、3年前‥」
「ちゃんと2人用を取ったから‥とりあえず‥」
母親は目を擦りながら言った。
昨日から一睡もしてないらしい。
「とりあえず、一息つきましょう」
溜め息をつく母親は、かなりしんどそうだ。
「そうだな、まずは荷物を置いてこようか」
父親も同意し、俺達は部屋に向かった。
借りた部屋は両親が2階、俺達は4階。
エレベーターで両親と別れ、美月と部屋へ入った。
俺達の目前には大きなベッドがあった。
‥部屋の中央に一つだけ。
「おお、大っきい!」
言うが早いか、勢い良くベッドにダイブする美月。
『バフッバフッ』
「ふわふわっ!」
弾むベッドに歓喜していた。
「お、おい、待て。これダブルベッドじゃ?」
「んー? たぶん?」
「寝る時どうするんだ」
「一緒で良いじゃん?」
「まずいだろ、それは」
「一昨日も一緒だったのに?」
「それはお前が寝ちゃったからだろ‥」
じわじわと既成事実化されている?
気の所為だろうか。
「ちょっと確認してみる」
母親に電話してみる‥10コールしても出ない。
父親に電話するが‥こちらも出ない。
どうも二人とも寝てしまった様だ。
「‥寝ちゃったらしい」
「私は気にしないよ?」
美月はベッドに寝転びながら平然と言った。
「俺が、まずいんだよ‥」
先日以来、美月の事を意識していないと言えば、嘘になる。
義理の妹と言う事を外して考えれば、美月は本当に魅力的な女子だった。
優しく、表情豊かで人懐っこい。
それでいて信じた事は最後までやり抜く行動力もある。
親同士が再婚するまでは、幼馴染としてお互いを心のどこかで意識していたのも確かだ。
だから、一つのベッドで寝たら‥俺は自分の行動に自信が持てない。
万が一、美月を傷付ける事になるくらいなら、床で寝た方が100倍マシだ。
俺の様子を見ていた美月は自分の隣を指差す。
「ここ、来て」
「?なんだ?」
美月は隣に座った俺の太腿に頭を載せ、俺を見上げた。
「じゃぁ、私、いつまで待ったら良い?」
「いつ?」
「私、あ兄ぃ以外と一緒に成るつもり無いんだよね。だったら早い方が嬉しいんだけどな」
俺の膝に触れながら美月は言った。
「いやいや、お互いに将来は他の相手が見つかるかも、だろ」
「うーん、私は絶対に無いけど‥あ兄ぃは有るかもね。藍染さんとか?」
「今は、想像もできないけど。まぁ、仮の話として。もしそうなったら、美月はどうするんだ?」
「そりゃ残念だけど仕方ないよ。諦める」
「なんだ、だったら急がなくても‥」
「でも、そうなってもあ兄ぃの赤ちゃんは欲しいなぁ。お祖母ちゃんに会わせたいから、なる早で」
美月は俺の顔を真剣に見つめ、言った。
「そっ、ま、まて。 美月、言ってる意味分かってるか??」
俺は動揺して、それだけ言うのがやっとだった。
「もちろん」
「子供を産むのだって、育てるのだって大変な事だぞ。それは‥どうする気だ?」
何とか言葉を繋ぐ。
驚きのあまり、思考が上手くまとまらない。
「学校を休学して産むよ。慣れない内はお母さんにも助けて貰うけど、頑張って育てる」
美月は拳を握り決意を表した。
「む、無茶‥だろ」
美月自身まだ幼い所だってある。
朝起きるのが苦手だったり、料理に失敗してふてくされたり。
その美月が子供を産んで育てる?
しかも俺との子供を?
駄目だ。
全然イメージがわかない。
「‥大体、子供を作るって事は俺と、その‥」
「する‥んでしょ。当たり前じゃない」
美月は言いながら、俯いて顔を隠す。
それでも、耳まで真っ赤になっているのが見えた。
「お前は‥それで良いのか?」
「あ兄ぃしか考えられないって言ったよね? もちろん、そう言う意味だよ」
「それは‥」
美月は本当にそこまで考えていたのか?
一体いつから‥‥?
美月は身を起こすと、更に言い淀む俺の耳元に囁いた。
「私、今日ちょうど“良い日”なんだよね。今から‥する?」
「ばっばか! 何言ってる」
そう言い返すのがやっとだった。
「あ兄ぃ顔真っ赤!」
「お前だって‥いや、それより貸し衣装探さないと」
美月は慌てて身体を起こすと、スマホを取り出した。
「確かに‥つい盛り上がっちゃったよ」
「ったく」
俺はそう言いつつも、話題を逸らせた事に内心安堵していた。
それから俺達はあちこちの貸衣裳店に連絡をしたが、さすがに予約無しで翌日にウェディングドレスを貸りるのは無理だった。
時刻は既に夕方過ぎ。
店の営業時間もそろそろ終わる。
もはや手段は選んでいられない。
俺は意を決して、ある人に連絡することにした。
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