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7.狼族

目を覚ますと既に見慣れつつある木製の天井。

天蓋付きだった屋敷のベッドとは違い、硬いマットレスだが寝心地は悪くない。

ブランケットではなく、ヴィルがよく羽織っているオークの毛皮で出来たマントが掛けられていたところを見るとあの後、彼が運んでくれたのだろう。


「目ぇ覚めたか。」


「ここまで運んでくれたんだね。ありがとう。」


「俺を頼れや。」


「…私のせいで怪我するのとか見たくないし。」


「しねえわ。お前、俺を何だと思ってる。」


「山賊の頭領でしょ。」


「それだけじゃないよ。あの緑の怪物、ゴブリンっていうんだけど。普通の人間じゃ身体に腕を貫通させることなんて出来ない。」


「え、それじゃあどうして…。」


ワオーーーン。

そこら中から遠吠えが聞こえ始め、窓から見えた景色に目を見開いた。

グレッグ達の身体に毛が生え狼の姿へと変わっていったのだ。


「…何が起きて…。」


「ロザンナが目を覚ましたから皆興奮しているんだよ。」


「私?」


「君が美味しい料理を作ってくれるからね。オーク肉の丸焼きは嫌みたい。」


「っ。」


いきなりロザンナの瞳からぽろぽろと大粒の涙が流れ始める。

ヴィルヘルムとギルバートは泣かせてしまうとは思わなかったようで、困ったようにオロオロと視線を彷徨わせていた。

彼らが獣化したことで怖がらせてしまったかと早く人間の姿に戻るよう指示を出せば、皆焦ったのか。

首以外の部分だけを人間の姿に変えてじっとこちらを眺めている。


「そっちのほうが断然怖い…あはは。」


「ロザンナ?」


「ごめん、なんか色々馬鹿らしくなった。私、何のために生まれたんだろうね…。」


「俺の嫁になるためだろ。」


「それは違うと思う。」


「なら僕はどうかな?頭領には負けるけど、さっき見た通り強いし優しいよ。」


「え、それなら俺も立候補して良いっすか!?嫁さん欲しいっす!」


「お前ら俺に喧嘩売ってんのか…。」


「選ぶのは彼女だからね。アプローチを掛けても何の問題もないでしょ。いっそのこと皆のお嫁さんになってくれてもいいよ。」


「「「「「「「「「賛成!!」」」」」」」」」


皆の声が揃ったことで山にこだまする言葉にロザンナは驚いて止めどなく溢れていた涙が引っ込んだようだ。


「ということだよ、頭領。賛成多数で可決された。文句はないね?」


「…ッチ。」


「賛成多数?可決って…私の意志は…?」


「諦めろ。狼族は愛情深くて一途な奴ばかりだ。嫉妬深いところがあるからここの男以外に触らせるなよ。」


ヴィルヘルムはそういうとゴブリンに掴まれたことで手跡の付いていた腕を掴むとペロペロと舐め始めた。

擽ったいと抵抗してみても力で勝てるはずもなくされるがままで、暫く黙って見ていたギルバートまでも舐め始める。


「ちょ、やめ…っ。」


「無理っすよ〜。頭領とギルバートの兄貴は嫉妬深いを体現してるようなお人なんで。ゴブリンの臭いが付いてるのが我慢ならないんす。俺だって本当は…。」


「…グレッグ…?」


「…っそんな顔ずるいっす。」


そう呟いたグレッグは地面を蹴ると二人から奪うようにして外へと出ていった。

力では勝てないが素早さでは勝ったようで助け出されたロザンナは涙目のままグレッグを見上げている。

彼女に見られていると思うだけで顔に集まる熱を感じ、一瞬近付いてくる般若の顔をした二人の存在を忘れてしまうほどだ。


「「グレッグ!」」


「っやべ。」


「今返せば優しいお仕置きで済ませてあげるよ。」


「怖がるこたぁねえ、一発殴る。それだけだ。」


「頭領に殴られたら死んじまうっすよ!ギルバートの兄貴もその注射器何が入ってんすか…?すごい色してる…。」


近付いてくる彼らに顔を青くする。

グレッグを巻き込んでしまったのは自分なだけあって申し訳ない気分になったロザンナは立ち塞がった。


「二人ともやめて。グレッグは何も悪くない。お仕置きなら私に…。」


「そう、じゃあもう逃げないでね。」


「俺は気が短え。」


そう言ってグレッグから奪うとすんすんと匂いを嗅いでゴブリン臭が消えたことを確認していく。

首元だけ狼の姿だったグレッグはやっと人間の顔に戻ったようで、二人を羨ましそうにじっと眺めるのだった。

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