8. 日々
皆のお嫁さんという謎の案が可決されたことで、今までより一層近くなった距離に戸惑いながらも日々を過ごしていた。
いつものように目を覚ますと床を覆い尽くす狼達。
これを見ても驚かなくなってしまった自分に呆れながら彼らを起こさないようにと静かに動いてみるが、耳が反応してピクピクと動いている。
「おはよう、ロザンナ。」
「くぁぁ。ねみぃ。」
両隣から聞こえる声はヴィルヘルムとギルバートで。
当然のように同じベッドで眠る彼らにすら何も思わなくなってしまった。
頭上にはハンモックから落ちそうな状態で器用に眠るグレッグが見える。
「おはよう。朝ごはん何がいいかな?昨日ライ麦パンが届いたけど…サンドウィッチだと物足りない?」
「君が作ってくれる料理なら僕は何でも大歓迎だよ。」
「俺ぁ肉が入ってりゃなんでもいいぞ。」
「オーク肉のローストビーフ作っておいたからそれを入れるつもりだよ。本当は粒マスタードが欲しいところだけど…。」
「俺買ってくるっすよ!」
「おはよう、グレッグ。起きこしちゃった?」
「ロザンナさんが起きたら自然と目覚めるっす!それより、粒マスタードっすよね?確か村に売ってたんですぐ行って…。」
「「それなら僕達が行きますよ!ついでにロザンナ様の新しいお洋服が届いたか聞いてきます!」」
アイヴィーとバートは満面の笑みを浮かべてそう言うと直ぐ様出て行ってしまった。
せっかく役に立てると思っていたグレッグはいじけてしまったようでシュンと耳と尻尾を下げ、トボトボと歩き出すその姿があまりにも可愛くてつい後ろから抱きしめる。
「っ!?」
「その気持だけで十分嬉しいよ。だからそんなに落ち込まないで。」
「…手伝いたかったっす。」
「今から手伝ってくれる?」
「うっす!」
まだ起きる気のない彼らを避けながら厨房に移動すると昨日作っておいたオーク肉のローストビーフを取り出していけば、いい匂いにグレッグの口元からよだれが垂れるのが見えた。
「あはは、そんなにお腹空いてるの?」
「すげえいい匂いっすもん!」
「ということは上出来だね。手伝ってほしいのはこれなんだけど…。」
骨付きのそれは巨大で元々硬い肉質というだけあってロザンナの力では少量ずつしか切り取れず、諦めたのだ。
何をすべきか理解したようで、獣人の姿になると近くにあった包丁を片手にいとも簡単に切り分けていく。
それを野菜と潰したゆで卵を挟んだバンズに入れればサンドウィッチは完成である。
ローストビーフを取り出した際の匂いにつられて皆外の席に座り始めていた。
まだ眠たいのか。
狼の姿や獣人の姿と様々だが、ヴィルヘルムとギルバートだけは人間の姿のままこちらを睨みつけている。
グレッグとロザンナは自分達より明らかに距離が近い。
見た目は人懐っこい彼だが、帝国に家族を殺された過去を持つため人間は嫌いだと嫌悪感を示していたはずなのに、彼女に懐きすぎだ。
「ありがとう、これがグレッグの分だよ。」
明らかに大きくカットされたそれに満面の笑みを浮かべながら受け取ると嬉しそうに自分の席についた。
「おい、てめえのだけデカくねえか!」
「ロザンナさんがくれたっす!」
「お手伝いしてくれたお礼だよ。他の皆もおかわりはたくさんあるから食べてね。」
大皿を机に並べる彼女にヴィルヘルムはこっちに来いと手招きすれば、何の用だと首を傾げながらこちらへと近付いてくる。
腕を掴み胸の中に閉じ込めると首元に擦りつけば甘えたいのだと理解したロザンナは抵抗することなく背中をぽんぽんと優しく叩けば強張っていた体の力が抜けていくのを感じた。
最近気付いたのだが、ヴィルヘルムは頭領というだけあって常に気を張り詰めているようで皆には見せないが疲れているようだ。
「…頭領とはいえ、妬けるものだね。」
「?」
「僕にも後でしてくれる?」
「いいよ。ギルバートもお疲れ様。昨日は二人が見張りしてくれてたんでしょ?」
「どうして知ってるの?」
「横に居てくれたけど、二人ともずっと起きてたからかな。」
「君は本当に…。」
「ん?」
「おい。」
「ヴィル?どうしたの?」
「今は俺の番だろ。」
「ちょ、わかったから噛まないでっ。」
「他を見るな。」
今だけでも自分のものにしたいヴィルヘルムはそう言うとぐりぐりと鼻先を押しつけている。
そんな彼を見ているギルバートは引き攣ったような笑みを浮かべていたが、急に狼の姿に変化すると彼女の足元に摺り付いた。
黒い毛並みはふわふわでヴィルヘルムとはまた違った感触。
「…ギルバートさん?」
「頭領のことを呼び捨てにするなら僕のこともギルって呼んでよ。それに、僕は頭領より嫉妬深いんだ。構ってくれないなら遠慮なく襲わせてもらう。」
「今は俺の番だと言ったはずだ。待てを覚えろ。」
「ふふ、その言い方何だか飼い犬みたいだね。」
楽しげに笑う彼女に見惚れた二人は反論することもなく、撫でてくれている手を気持ち良さそうに目を細めるのだった。




