20.まだ足りない
俺とレミリアは王座の間へ向かう。
激闘を終え、疲労を抱えながら歩いている。
今日の夜はぐっすり眠れそうだ。
だけど、それはもちろん、この後が上手くいけばの話。
「準備はいいかしら?」
「うん、いつでも」
「そう、なら開けてちょうだい」
俺は重く煌びやかな扉を開ける。
ここへ入るのは、実を言うと数か月ぶりだ。
「失礼しますわ」
「レミリアか。それと……」
「先ほどはありがとうございました。陛下」
俺はそう言って頭を下げる。
顔を見なくてもわかるが、王様は不機嫌な表情を浮かべているだろう。
「何の用だ?」
「お父様、私たちは二年前の話の続きをしにきました」
「二年前? はて、何か話したか?」
とぼける国王様。
もちろん忘れているはずはない。
「大丈夫よ、覚えているわ」
「うっ……またお前は勝手なことを」
この流れもよくあること。
王様は観念して、俺に視線を向ける。
その様子を確認したレミリアが、話を続ける。
「お父様は以前、フランには私と共にいる資格がないとおっしゃいました」
「そうだな。平民と王族が婚姻するなど、有ってはならないことだ」
「ええ、ですが今はどうでしょう? フランは先の武術大会で見事勝利をおさめ、王国最強の称号をえました」
「……そうであったな」
王様は認めたくなさそうだ。
表彰式の時と同じ顔をしている。
「この称号は、貴族とも並ぶ栄光ある証です。それを持つものならば、私の相手にも相応しいのではありませんか?」
「む……」
王国最強の称号も、俺たちにとってはただの切符だ。
俺たちが目指す場所は、最強の頂じゃなくて、二人で幸せになれる場所。
それを手に入れるために、俺は二年を過ごした。
地獄を抜け、ここまで来たんだ。
大勢の前で戦い、俺という存在を認識させた。
さすがの王様も、知らないなんて言えない。
これなら頑固な王様も認めて――
「確かに、あの戦いは見事であった」
「では私たちを――」
「しかし! 王族のなる者が、武だけに秀でている……というわけもにいかぬ」
王様は話を切り替えた。
認めてくれそうな感じだったけど、これは逆だ。
王様は続けて言う。
「王族たる者、武だけではく学も必要なのだ。それなくして、新たな王にはなれんよ」
学、ときたか。
要するに、強いだけじゃ認められませんよ、ということ。
今さっき思いついたような表情に、レミリアは不機嫌になる。
彼女はキレ気味に問う。
「……ではどうすれば良いでしょうか?」
「そ、そうだな。フラン、お前も今年で十六になるだろう?」
「はい」
「ならば、我が国最高の教育機関【王立魔法学園】へ入学し、首席で卒業して見せよ」
次なる課題を提示された。
王立魔法学園。
聞いたこともあるし、見学したこともある。
多くの貴族や優秀な人材が集められている場所だ。
「それくらいは出来てもらわぬと困るな」
「わかりました。では、手続きは私がしておきますので」
「う、うむ……レミリアよ」
「失礼します」
明らかに怒っているレミリアは、俺の手を握って王座の間を出ていく。
残された王様と王妃様は、しまった扉を見つめていた。
「もう。そろそろ認めてあげてもいいのではないかしら?」
「ふんっ、何を言う。婚約すれば、あいつは次の王となるのだぞ。この程度の壁も超えられないようでは、辛い思いをするだけだ」
「あらあら」
「何だ?」
「いいえ、ただ意外だっただけ。今の貴方は、王ではなく人の親ね」
王座の間を出た俺は、ぷんぷん怒るレミリアと廊下を進む。
「お父様ったら! 子供みたいなことばっかり!」
「まぁまぁ。何となく予想できてたし」
「何よ、フランはそれでいいの?」
「別に良いよ。どれだけ壁があろうと、俺たちが一緒になる。そのことに変わりはないんだし」
レミリアはピタリと立ち止まる。
我ながら、少し気障なセリフを吐いてしまった。
言った後から恥ずかしくなる。
それを聞いたレミリアは、小さく微笑む。
「フラン」
「何?」
「男らしくなったわね」
「お陰様でね」
俺たちの物語は、次の幕を開ける。




