9話
この廃墟にきて約半年が過ぎた。
この半年間でできることが大幅に増えた。
まず、鑑定眼鏡は和訳効果もついていた。
魔力操作の訓練をする合間に書斎にあった書物を読み理解し、この世界の知識を勉強した。
森の中に入り、薬草や獲物を捕り解体して食事を作ったり保存食を作ったり、また回復薬も低級ながら作ることができるようになった。
さすがに鍛冶をしたりすることは設備的にできなかったが、もともとあった道具を修理したりして扉や家具を少しずつ作ったりもした。
さすがにぼろかったからね。
ほかにも全般的に魔法も使えるようにはなった。
実際にはまだ熟練度が達していないのか、効率が悪いのかわからないがそこまでの威力はない。
おそらくではあるが、後者の可能性が高いような感じはある。
書斎にあった魔法の書には初級から上級までさまざまな魔法が載っていたが、どれだけ魔力を注いでも攻撃力は上がらなかった。
ただただ魔力を注ぐだけでは威力は上がらず、改良しようともがいてはいるが成果は上がっていない。
あっ、一応リミッターは1段階開放しているよ?
そんな中で一番効果があったのが、付与魔法だ。
付与魔法は色々と便利だ。
物に魔法陣を描くだけの広さが必要なのと、魔法陣を描くための魔法薬、魔石が必要になるが、そこまで苦労はしなかった。
最初は大きな魔法陣しか描けず、小さくても50cm程度の大きさまでしか小さくできなかったし、ミスも多かったためまともに作動するものも少なかった。
だが数をこなしていくと少しずつ小さくすることもでき、また魔法陣の解析で無駄なところをそぎ落とし、最適化していった。魔法陣はこの世界の言葉で書かれていたが、この世界の言葉ではない、日本語を使用することで文字数が減り、さらに縮小化することも可能となった。
だが、それに伴い、以前のものに比べ魔力消費が激しくなってしまった。
元々魔法陣には周囲の魔素を集めて魔力を変換し魔法を行使するための回路が組み込まれていた。そのため、魔力消費はすくなかったものの、陣の大半を回路が占めてしまい最低限の威力しかだせなかったのだ。
陣を小さくするために回路を使わない魔法陣をつくったが、今度は消費が激しすぎる。
そこで魔石の出番だ。
魔石は周囲にある魔素又は己の魔力から作ることが可能だった。
ただ、空気中にある魔素は濃度が低く必要な大きさにするまでに時間がかかりすぎ、周囲にも影響を与えてしまった。
具体的には、半径500m以内の魔物や動物が死滅してしまったのだ。
いろいろと実験を繰り返し検証した結果、周囲にある魔素濃度が急激に少なくなり、魔素を取り込めなくなった結果、死んでしまったのだ。
この世界では、魔素は生命活動に必要な要素のようだ。地球でいう酸欠状態だな。
なので、魔石を作るのはもっぱら魔力を使って作成している。
自然にできている魔石を使ってもいいのだが、この周辺では発見できなかった。
書斎にあった地図ではかなり離れた鉱山などでとれるらしい。
魔石を作るには、そこまで難しくはなかった。魔力を込めるためのものを準備するのが面倒なだけだ。
それは宝石類。地球でもおなじみのダイヤモンドやルビー、サファイヤなど。
まぁ当然のことながら希少品であり、発掘もできていない。
ただ、宝石は結晶だ。そこには人工合成物質や鉱物、象牙、水晶なども入る。
ものは試しにと持っていたものや川などから拾ってきた結晶を使って魔石を作ってみた結果、ホーンラビットの角と、琥珀が今のところ効率よく作ることができた。
加工と採取がめんどくさいけど・・・
なにせホーンラビットはあれ以来遭遇できていないし、琥珀も5cmほどのものが3個と10cmほどのものが1個しか確保できていないのだ。できればホーンラビットの角はとっておきたい。
なので、作るものも優先順位をつけざるを得なかった。
一つ目はナイフに硬化と振動を付与。
硬化魔法は固くする魔法ではなく分子などの位置を固定する魔法だ。振動は超高速で振動させて切れ味をよくできないかと考えたのだ。ハーモニックカルペルのように超音波でできればなと考えたがうまくいかなかったので振動で対応したのだ。
二つ目はリュックに空間魔法と時空魔法を付与。
一人で暮らすにしてもある程度の食糧を備蓄していないと暮らしていくのに不安があったし、そのまま保管するのはさすがにまずかった。肉が腐ったりもするし、大き目の動物を狩った際にも運搬に一苦労する羽目になった。なので、容量を大きくするのと時間を止めてしまえば鮮度も保たれるんじゃね?と思い作ってみたのだ。ただ難点としては、魔石の消費が激しいことだろうか。一番大きな琥珀を使って現状保有している魔力の大半をつぎ込み、ギリギリまで琥珀に入れたのに一ヶ月も持たないのだ。なので月に1回は魔力をつぎ込まないといけないし、魔力を込めているときは付与魔法が働かない。そのため、このリュックには魔石が3個使っており、一番大きな魔石へ魔力を注入する際は他の魔石で代用する形式をとっている。
ちなみにだが、ナイフの方はこの半年間で魔石の魔力をほとんど使っていない。
切りつけるときにしか魔法を使っていないし、普段は魔力操作の訓練の一環で自身の魔力をつかって起動させているからだ。
まぁそこまで魔物や動物と戦う機会も少ないけど。