第1064話 魔王騎
ベルに乗った俺が飛び立てば、それに続いてラグナ空戦隊も順次、発艦してゆく。
ラグナ空戦隊はダリアニス・ルフト公爵の率いる飛竜型の黒竜で編成されている。地竜型と比べて装甲こそ薄いが、飛行に特化した飛竜骨格の姿は、黒竜ベルクローゼンと並んで空中戦をするに相応しい。
逆に言えば、今回の飛行用戦人機を相手にするには、ラグナ空戦隊で最低ラインなのだ。竜騎士や天馬騎士といった、戦場の空を支配するエース部隊でさえ、この戦いにはついてこれない。
故に、伝令以外には竜騎士も天馬騎士も戦力として起用しなかったが――――
「おぉーほっほっほ! ついに黒竜の背に乗った、このパァーフェクトォ、クゥリスティーナが参りますわよぉーっ!!」
「クリスうるさい……振り落とされたいの」
「うふふっ、伝説の黒竜たる者、それくらいの気位が無ければいけませんわね。けれど、それを乗りこなしてこそっ、私は完璧な竜騎士、そう、パーフェクトクリスティーナになれるのですわっ!」
「もうっ、魔王陛下の命令じゃなかったらアンタなんて乗せないんだからね!」
随分とやかましいが、『帝国竜騎士団』団長のクリス、彼女だけは唯一、この空中戦に参加する竜騎士だ。
それはクリスだけが、黒竜に乗るだけの価値を示したからに他ならない。
黒竜はそもそも生体兵器だ。ベルの姉妹達は契約者という乗り手とセットで戦うスタイルだったが、ラグナ大隊は黒竜単独で戦う設計となっている。
故に地竜型、飛竜型、そしてベルとよく似た黒竜のヴィンセント達も、そのまま戦う。サリエルが使徒時代に倒した、竜王ガーヴィナルも、単独で十全な力を発揮できていたワケだ。
故に、彼らに乗り手は必要ない。
もしも誰かを乗せるならば、主たる俺自身が乗り込むくらいしか、誇り高い彼らは許さないだろう。
しかし、そうであることを承知で、クリスは黒竜に乗ることを申し出た。
黒竜に乗る竜騎士になることは、彼女自身の夢でもあるようだったが――――それ以上に、戦人機相手に戦うには、これが最善。すなわち、自分が乗ることでさらに黒竜の力を引き出し、強くなると主張したのだ。
俺もクリスにそこまで強く言われれば、無碍にはできない。そこで黒竜の中でも一番若い、それこそ初手でリリィに喧嘩売ってボコられたガーヴィエラに任せることにした。
クリスがガーヴィエラを乗りこなせれば良し。ダメなら通常通り、黒竜単独で戦うのみ。幸いにも、俺の加護のお陰でこの上ない実戦形式で特訓が出来るのだ。
最初は全く上手くいかなかった二人だが……
「陛下、お背中はどうぞ私にお任せくださいませ」
「ふん、しっかり働きなさいよね。魔王陛下に無様なとこ、絶対に見せられないんだから」
クリスは見事に結果を出したことで、ガーヴィエラに乗ることが許されたのだった。
今でもそのことを不服そうには言うガーヴィエラであるが、こうしてちゃんと背中に乗せているのは、クリスのことを認めているからでもある。
「ああ、頼んだぞ」
竜騎士としてはクリスの方が遥かに先輩である。
そんな彼女が黒竜ガーヴィエラの騎乗に挑戦したからこそ、俺もこれまで以上に、ベルクローゼンを乗りこなすための技量を磨けた。
今回の特訓を経て、俺はようやく一端の竜騎士を名乗っても良いと納得できる力を身に着けたと思っている。
まずは竜騎士としての力を、存分に披露させてもらおう。
「――――みんな、準備は万端ね」
「リリィも大丈夫か?」
「勿論、クロノと一緒に実戦するのは、久しぶりだし。張り切ってるわ」
最後に『ヴィーナス』に乗ったリリィがやって来て、こちらの航空戦力が勢揃い。
シモンが砲手を務める天空戦艦エルドラドを中心に、俺達が直掩機として、敵航空戦力を迎え撃つ。これを殲滅し、戦場の制空権を握るのだ。
「来たか」
俺達が展開して程なくすると、方々から敵機の姿が見えてくる。
現れたのは、やはり空戦仕様の『エール・スプリガン』。
通常のスプリガンと比べると、青いカーリングが目立つのは、空戦用装備を纏っているからだ。最も目立つのは、大きなX型の翼。淡い水色のエーテルラインの走る翼は、魔法効果によってただの翼以上に空を飛ぶ機能を強化されている。
そして一回り以上大きなメインブースターが増設されたバックパックが、飛竜に勝る速度と機動力を与える。
盾は持たないが、その代わりに両肩のアーマーが大型化している。ミアに聞くところ、あれはシールド機能を持つ増設装甲なのだとか。
空中だと盾を構えても、体勢的にあまり有効にならないので、総合的な防御力は落ちるが、全身を守れるシールドタイプが空戦機の主流だったという。
そりゃあ人型で空を飛べば、盾で守るより、妖精結界のように包まれた方が確実だ。
しかし純粋な魔力のシールドを展開する以上、その分のエーテルを消費する。空戦機は空を飛ぶ分のエーテルも必要なので、基本的により出力の高いリアクターを積んでいるが、それでもシールド張りっぱなしというワケにはいかない。
必要な時に、必要な分だけシールドを張って凌ぐ、というのが空戦機の防御のセオリー。両肩のシールドアーマーは、それぞれ左右の半身ずつに展開できるようで、攻撃を受ける片側だけ展開したり、出力を集中させることも出来るという。
そういった運用方法を素直にミアが語ったということは、当然、オルテンシア軍はそれが出来るようしっかり訓練されているワケだ。
古代と比べてどれほどの練度にあるかは未知数だが……それでもこっちは、神様が操る本物を相手に特訓したのだ。相手の手の内は分かっているが、向こうはこっちが実戦形式の訓練を積んでいることは知らない。
アドバンテージはこちらにある。
「それじゃあシモン、まずは一発デカいのを頼む」
「了解! 全砲門、開け!!」
この空で最もデカい大砲は、エルドラドの主砲だ。当然、そのサイズに応じて射程も長く、敵機の標準装備であるエーテルライフルを遥かに超える。
これぞ大艦巨砲主義とばかりに、遠くから一方的に砲撃を叩き込む先制攻撃はできるが、向こうはそれを大した不利ではないと思っているだろう。当然だ、単発の大砲を超長距離から、正確に20メートルサイズの戦人機に直撃させられるか、という話である――――できるんだな、それが。
ズドォオオオオン――――
遠雷のような砲声を轟かせ、我らがエルドラドの主砲が火を噴いた。
寸前に敵は編隊を瞬時に崩して散開。流石、パイロットは戦女神と呼ばれるスーパーエリートだけある。第六感で発射の瞬間を見切って、回避行動に移っていた。
余裕をもって避けたはずだが、離れた砲弾の内、一発が敵機に直撃。
『嘘だろっ、当たった!?』
『はぁっ、あんなのに直撃とか、どんだけ間抜けよぉ!』
『いや、あの軌道は狙って当てていた……』
『爆発範囲が広い! もっと大きく避けろ!』
『くっ、カリーナ2、小破』
リリィと天空戦艦にいる妖精達のお陰で、敵機の通信を拾うことが出来る。大砲を一発で当てて来るとは流石に彼女達も想定外だったようだ。
「ごめんね、全然落とせなかった」
「いや、仕方ない。敵機も動きがいい」
第一、第二、第三主砲からソレイユ弾頭を同時に撃って、直撃で一機撃墜、爆発に巻き込んで三機ほど小破、というのは驚くほど少ない損害だ。初撃で三機は確実に落とし、爆風でさらに複数機にダメージを当てておきたかった。
ソレイユ弾頭は強力だから、乱戦時に撃ち込むわけにはいかない。彼我の距離がある開幕でぶっ放して、出来る限りの損害を与えたかったところだが、相手の危機察知が鋭かったと諦めるしかない。次弾以降はさらに警戒もされる。
「なら、私達が頑張らないとね?」
「勿論、俺達が今日の主役だからな」
エルドラドの砲撃を潜り抜け、いよいよ敵機との交戦距離に入る。
エール・スプリガンは揃ってライフルの銃口をこちらに向け、次の瞬間には一斉発射の構えだ。
無論、それはこちらも同じこと。
互いに殺意を向け合いながら、間合いに入る瞬間を見極め、
「――――ブレス」
最初の一撃は派手にかます。ベルの口から、赤黒い破壊の奔流が解き放たれる。
大きな黒竜に跨った俺の姿は目立つので、敵機から飛んできたエーテルの光弾も殺到するが、それらを飲み込んで黒竜のドラゴンブレスは虚空を奔り抜けて行く。
『ちいっ、避けきれ――――』
狙ったのは隊長機と思しき機体。
オルテンシア軍の戦人機部隊は、基本的に5機編成となり、部隊のコードネームと番号が割り振られ、肩に大きく描かれている。で、分かりやすく1番機が隊長というワケだ。
『ブレンダ1』と書いているヤツを狙ったのだが、伊達に隊長をやっていない。見事な回避行動だ。
自分が狙われていると察したブレンダ1は射撃を中断、瞬時に急加速して回避に移っていた。それを追うようにベルのブレスが薙ぎ払われ、今まさに飲み込まれようという時、
『シールド全開!』
ブレスの当たる側へシールドを集中展開。最早被弾は避けられないと悟り、そのままブレスを突っ切って離脱するのを選択したようだ。
ベルとてブレスをいつまでも撃ちっ放しにはできない。だから後ほんの数秒間だけでも、シールドが耐えてくれれば切り抜けられる。
だから、このタイミングで俺も撃つ。
構えたのは『ザ・グリード』、ではない。今、俺が両手で抱えているのは『ザ・グリード』を上回る長大な砲身を持った大砲だ。
ダンジョンから発掘された戦人機用の粒子砲タイプのブラスターをベースとして新造した、荷電粒子砲。
その名は、『ギルフリート』。
「――――『プラズマブレス』」
黒と蒼の雷を束ねたようなプラズマの奔流が放たれる。
ドラゴンブレスに劣らぬ野太い火線はブレンダ1を挟みこむように襲い掛かり、
『クソッ、シールドが――――』
切羽詰まった声が途切れると共に、大爆発を起こした。
片側にシールドを集中させたところに、反対側を狙い撃ったのだ。一瞬の逡巡の末に、シールドを反対側にも展開させたが、それで両方を防げるほどの防御力は失われ、ドラゴンブレスとプラズマブレスの両方に貫かれ爆散した。
『あれが、魔王クロノ……』
『ホントに戦人機落とすとか』
『侮るな、伝説の黒竜に魔王が乗ってるんだ。戦人機と同等以上の戦力だと思え』
『この力は影武者なんかじゃない、アイツが本物に違いないわ』
『大将首は目の前だぞ!』
『アレを仕留めれば、褒美は思いのままね』
『早い者勝ちだな――――行くぞ、カリーナ隊! 全機、我に続け!!』
まずは一機叩き落としてやったが、怯むどころから、さらに戦意を上げて迫り来る。
そりゃあ間違いなく本物の総大将が前線に出張って来れば、王手も同然の状況。これ幸いと群がって来るが……いつも通りのこと。臆することも、気張ることも無い。
「ここからが本番だな。頼むぞ、ベル」
「うむ、存分に暴れさせてもらおう」
「ああ、サポートは任せろ」
俺なりに編み出した、竜騎士としての戦い方。その最善は、乗り手たる俺自身が戦う事ではなく、騎竜の力を最大限に引き出すことにある。
本来、竜騎士は騎竜に乗ることで、自ら空で戦うことのできる、精鋭中の精鋭だ。不安定な空中であっても、十全な攻撃力を発揮する実力が求められる。
一方、騎竜となる飛竜は空を飛ぶための手段に徹する。接近戦となった時には、獰猛な気性によって牙や爪で自ら襲い掛かることもあるが、それをメインの攻撃手段とはしていない。騎竜にとって一番重要なのは、乗り手たる騎士の思い通りに飛ぶことだ。
しかし、単独で強大な生物兵器である黒竜に乗るならば、話は変わって来る。
ベルの姉妹であるローゼンシリーズは、一見すると竜騎士と同じように、飛竜に人が乗る形になっている。だがその運用思想は真逆で、乗り手は自ら戦う騎士ではなく、契約者という竜に力を与えるための存在。
電池と言えばそれまでだが……黒竜という強力な兵器の力をどこまで引き出せるかは、契約者の献身にかかっている。
ならば黒竜ベルクローゼンに乗って戦うならば、最も相応しいのは竜騎士スタイルか、契約者スタイルか。考えるまでも無い。
いいだろう、ベル、お前に乗る時だけは、俺は電池に徹する。
だがただの電池じゃねぇぞ……超ド級の電池だ!
「おおぉ……力が……力が漲るぞぉーっ!」
ベルの巨躯を全て黒化で覆うように、黒色魔力を流してゆく。
黒竜のエネルギー源として、黒色魔力が最も相性が良いというのは、最初に契約を果たした時に分かっていたことだ。魔力を流す俺も、地面や建物よりも遥かに馴染む感覚を覚えるし、ベルも気持ちよさそうである。
けれど、ただ力を与えるだけで満足していてはいけない。
馬に跨る騎兵は皆、人馬一体こそ極意と言う。竜騎士たるクリスティーナも、人竜一体を目指していると。
俺はただ容量デカいだけの電池に甘んじるつもりはない。人竜一体の境地へ踏み込むのだ。
「ふふっ、今なら分かるぞ、契約者を持つお姉様達の気持ちが……こんな力を知ったなら、妾なぞ戦場へ連れて行けぬ小娘と見るのも当然じゃあ」
「けど、今はベル、お前が戦の先駆けだ。攻めることだけ考えて行け」
俺の言葉に天に轟く咆哮でもって応えたベルは、さらに加速をして敵戦人機部隊へと間合いを急速に詰めて行く。
大きく回避に動いていた敵機は散発的な牽制射撃をしながら、確実に仕留められる多角攻撃を行うために陣形を戻しつつある。回避の分散と攻撃の集合が、実にスムーズで、流石の練度だな。
そうして突っ込んでくる俺達の前方を包囲するように展開した敵部隊が、一斉射撃で仕留めにかかると同時に、ベルもブレスを繰り出した。
『拡散型!』
『違う、追尾してくるぞ!』
放ったブレスは先のようなビーム型と異なり、リリィの『光矢』のように何十もの光弾となって敵を追尾する誘導弾だ。
正面火力で大体の敵を圧倒できる黒竜は、あまり使わない技である。演算力もそこそこ高いので、牽制で使うには負担が大きく、小さく素早い面倒な相手に撃つくらいにしか使用するタイミングはないのだが――――黒竜の魔法演算は、契約者が代替することが出来るのだ。
感覚としては、テレパシーで強く結びついているといったところ。
『妖精合体』ほど一心同体とはならないが、テレパシー通信で繋がる以上の一体感はある。言葉を交わさずとも、互いにどうしたいか、を瞬間的に共有できる状態だ。
ベルの姉貴は契約者の演算能力と合わさせることで大技を放ったともいう。
だが必殺技を使う時しか、契約者が演算しちゃいけないルールはない。かつての契約者達は、黒竜と適合するためだけに作られた人造人間だか改造人間だったという。適合する魔力の性質が最重要視されているため、当人の戦闘経験や才能は考慮されない。すなわち、ただの少年少女が選ばれることになっていた。
しかし、俺は実戦経験だけは豊富な『黒魔法使い』だ。9割我流だが、魔法の扱いにはそれなり以上に習熟しているという自負もある。
俺にはかつての契約者達には無い、自分なりに確立した魔法戦闘の実力があるのだ。これを活かさない手はない。
そうしてベルは俺が演算を肩代わりすることで、小型の火球を連打する感覚で誘導弾を連射することができる。
敵機の練度は十分で、完璧な整備状態にあるエール・スプリガンは機動力も兼ねた強敵。牽制するにしても、火球だけでは不十分なので、誘導するくらいじゃないと効果的ではない。
『全弾発射』のように同時発射された誘導弾は、それぞれ敵機に襲い掛かり、陣形を乱し回避行動に動かした。
だが、俺の仕事はこれだけではない。
「『魔弾・『黒煙』」
ダークストーム作戦と全く同じ煙幕を魔弾で放つ。
ベルは攻撃のためにただ真っ直ぐ突っ込んでいるだけで、その軌道に合わせて敵の一斉射撃の光弾が殺到してきている。
それを俺が黒煙で狙い撃ち、防ぐ。
空域全体に拡散させると、こっちの攻撃も無効化されるので、防ぎたい弾をピンポイントで狙う。広く充満させるよりは薄いので、光弾は早々に煙幕を突破してくるが、それでも威力は半減するほど減衰させられる。
そこまで威力が落ちれば、元より強靭な竜鱗で守られた黒竜には、カスリ傷もつきはしない。
「はぁーっはっはっは! 空で近づかれるのは初めてかぁ!」
俺が誘導弾と黒煙の防御によるサポートで、ベルは真っ直ぐにターゲットへと接近。
最早、射撃の間合いではないと瞬時に察した敵機カリーナ4は、ライフルを手放し剣を抜いたが、
「遅いわ、木偶が――――『黒凪』」
ベルが振るった前脚の爪による斬撃に、俺が最も得意とする武技『黒凪』の動きをトレースさせる。
城壁さえ容易く引き裂く黒竜の爪に、武技の威力が乗った斬撃が敵機へ襲い掛かる。
右手の一薙ぎで、剣を振り上げた右手ごと首を飛ばす。
続いて左手の一閃で、腰から真っ二つに。
両断された機体が完全に制御を失い翻ったところで、背中のバックパックを叩き割る勢いで尻尾を振り下ろす。
金属の悲鳴とエーテルのスパークを派手に散らしながら真っ逆さまに墜落した敵機は、地面に激突するよりも前に爆散した。
「ふん、戦人機もこの程度か……エルフの小娘共よ、古代兵器を手にしたくらいで、魔王に歯向かったこと、とくと後悔させてくれる」
黒色魔力で酔ったか。ベルがいつになく威勢のいい声を挙げている。
だが、勢いは確実にこちらにある。
ヴァルキリー達が俺達の戦いに慣れて対応してくる前に、このまま出来る限り数を削らせてもらうぞ――――
◇◇◇
「あ、ありえない……我が航空部隊が、押されている……」
旗艦『クリームヒルト』のブリッジにして、クルー達は映される空中戦の様子を愕然として見つめていた。
次々と届く撃破の信号。今まで無敵を誇った戦人機が、いとも容易く撃墜されゆく光景に、誰もが気圧されていた。
これが魔王の力かと。
「ふむ、流石と言うべきか。寄せ集めの軍勢で、よくもここまで善戦したものだ」
そんな張り詰めた空気の中、女帝エカテリーナは鷹揚にそんな感想を語った。
これまでは黙って艦長席へと座した彼女がゆっくり立ち上がる。
「魔王クロノ、そなたは確かに、我が試練に相応しい」
エカテリーナはモニターの中で大暴れする黒竜を見つめ……それから、別な画面で赤い彗星のように空を駆ける妖精女王の姿も確かめた。
空の戦場は、クロノとリリィ、この二人によって支配されつつある。
戦人機部隊の中でもさらに精鋭で固めた航空部隊は、初見の相手に何とか対応しつつあるが、体勢を立て直すよりも前に致命的な損害を被るだろう。
「時は来た。『ブリュンヒルト』で出る」
止める者は誰もいない。いいや、神の試練に挑む者は、誰にも止めることは出来ない。
かくしてエカテリーナは、ウィンダムの首都を制圧した、巨大な鋼鉄の竜へと乗り込み、魔王と女王の待つ空へと飛び立つのであった。




