これからどうしたいんだ?
「……………おかみ、これは一体」
「おや!ジオさんじゃないかい、久しぶりだねぇ」
「いやせいぜい三、四日ぶりだが」
髭のおっさんが変な顔をしている。それもそのはずだ、昼間から酒場が空いていて何事かと覗いてみたら、ピンクのモヒカンチンピラを中心に人だかりができ、キラキラした銀髪にーちゃんがウロウロしてるんだもの。
「オイオイどいつもこいつも、大したことねーなァ!??かかって来いよォ!オラオラ!」
「アオイ、だったか?お前さん、これは何の騒ぎだ」
「腕相撲大会。あいつに勝ったら一晩飲み食いタダだよ。参加費取るけど」
「で、あの銀の髪のは」
「アストランティアさん。頼めば魔法で手品してくれるよ、見物料取るけど」
ティアさんがす、とジオさんに水を出す。
「ようこそ居酒屋『ルド』へ。俺の手にかかれば、水はこのように、球体になる」
ティアさんの手のひらの上でコップの水はボールになって浮き、ティアさんがぱちん、と指を弾くとコップへびしゃり、と落ちていった。
「何だお前か、ジオ」
「何だじゃねえよ、お前さん何やってんだ。Aランクの魔法使いともあろう者が」
「異世界転生のために働いている」
「はぁ?」
俺が考えた催しは、初日にして大成功の予感だ。何せ既にひっきりなしに腕相撲に挑む客が訪れ、それを見物している客が料理を注文していく。ティアさんは女性に、何故かおばあちゃんたちに人気だ。孫みたいに見えるのかな、ポケットにねじ込まれたチップがはみ出している。
「こりゃ参ったねえ、休む時間がなくなるよ」
そう言いながらゆるんだ顔で料理を作り続けるルドさんと、ひたすら運ばされてるそめちゃん。俺はテーブルの片付けと洗い物担当だ。
「成程、上手いこと考えたな、アオイ。しかしどうやってアストランティア程の奴をを招き入れたんだ?」
「俺は別に……そめちゃんがあの人を『綺麗!』って誉めそやしたらなんかついてきた」
「へぇ、あのおっさんが」
言うてそめちゃんはあんたよりずっと年下だよ多分、と思ったが黙っておいた。
「金を稼ぐのは悪くねえな。そこから強い装備を買ったり、よりランクの高いギルドに登録したり、旅にも何かと金はかかる。で、お前さんはこれからどうしたいんだ?」
ジオさんの問いかけに、何となく言葉がつまる。とりあえず生きていくことしか考えてなかったからだ。
黙っているとジオさんは笑い出した。
「おいおい、無欲だなあ坊主。勇者になって名を立てたい、とか、美女にモテまくりたい、とかねえのかよ」
そう言われると、こちらの世界で夢を持ってもいいのかも知れない。俺が欲しいものは何だろう。
冷房の効いた部屋で麦茶飲みながら、ひたすら『クラフト』してえ。ポテチがあれば最高。
……俺のやりたいことって、何なんだ。
「帰りてぇ……」
「なんだガキだな、結局かーちゃんか」
「だって別に今までの生活に不満なかったもんよ、宿題多いなーとか掃除めんどくせーなーとかはあったけど」
ふと、ジオさんの手が俺の頭に置かれる。
「幸せな家に生まれたんだな」
「?普通の家だけど?」
「帰りたい家を持った奴らばっかじゃないぞ、世の中は」
ジオさんに言われて、何となくチンピラやティアさんを見る。彼らは家に帰らないのだろうか。
「じゃな、また夜来るよ」
「ジオさん、俺、弟子諦めてないから」
「無駄な努力はやめとけ」
振り返らずに手をひらひらと振る、その後ろ姿が悔しいけどカッコいい。俳優みたいだ。




