第零話 外回り
私は歩道を歩いていた。交通量の多い道路だった。煉瓦造りの家々は皆、窓を閉め切っていた。夏の日差しは暑く、肌を汗ばませた。ひたいから垂れる雫を拭う。太陽は真上にいた。服はスーツを着込んでいたので、体感とても暑かった。ペットボトルから水を飲めば、ぬるくなっていた。
こんな日に限って外回りとは、なんとも辛い。だが、拒むわけにもいかない。私は雇われた側だから。腕時計を見れば、ちょうど十二時を指していた。スマートフォンから着信音がした。恋人からのメッセージだ。こんど、海にでも行きましょうね、とのことだ。たしかに、こんな暑い夏には海水浴がぴったりだ。それに、彼女の水着姿も見たい。私は「そうだね」とだけ返し、ポケットにしまった。
刺すような日差しが頭をガンガンさせる。地面ではハエが死んでいる。だんだんと気分が悪くなって来て、ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。吸えば、だいぶマシになる。最後の一本だったので、空き箱をゴミ籠に捨てた。横に自販機があったから、冷たい飲み物でも買おうと立ち止まった。喉の渇きを癒せるものが欲しい。数枚の硬貨と、ミネラルウォーターを交換した。キャップを外し、口をつけ、ペットボトルを少し傾ければ、冷たい感覚が喉を通り過ぎていく。すぐに空になってしまったボトルを、先ほどタバコを捨てたゴミ籠に捨てた。暑い日差しがいくらかマシになった気がした。
前方から、刺青を入れた男が走って来た。サングラスをかけ、アロハシャツに身を包んでいる。私も知っているスポーツブランドの靴を履いていた。彼は私と肩がぶつかると、悪態をついて去っていった。私は吐き捨てられた言葉を聞き逃し、なんと言ったのか悩むことになった。ポケットには冷たい金属の手触りがあった。
ポケットの中で、スマートフォンが強く揺れた。電話だろう。私はまた画面をつけると、通知に来ていた通話ボタンをタップした。友人の慣れ親しんだ声が聞こえる。
「カルロス、急いでいるんだ。俺の身が危ない。お前が友達なら、すぐに大聖堂前の広場に来てくれ。」
どうやら彼は焦っているようだった。いつも飄々としていて、おちゃらけたような男だったから、私は驚いた。切れてしまった通話と、随所で鳴るサイレンの音が、何か始まる不穏な気配を孕んでいた。私は足を早め、大聖堂前へと急いだ。
大聖堂前には、奇怪な光景が広がっていた。私の二、三十メートル先、何人かの男たちが、それぞれ睨み合っている。彼らは皆、手にピストルを握っていた。何かの組織の抗争だろうか、ともかく、関わりたくないと思った。私は周囲を見渡して、友人を探す。黄色い髪で体格のいい、スラブ系の顔立ちのあの男は、目立つはずだった。周囲の人々は、慣れているのか、広場からぞろぞろと落ち着いて立ち去っていった。その中に友人はいない。そうやって探しているうちに、広場の中央の方から、あの男たちがいた方から、銃声が響いた。それに続くように、また一発、もう二発。私はそちらを盗み見た。そこには、銃弾に胸を撃たれ、力無く膝をつく、友人の姿があった。
私はポケットに忍び込ませたハンドガンに銃弾が装填されていることを確認し、友人を撃ったアロハシャツの男目掛けて銃を放った。一発甲高い音が響いた後、その男は倒れることなく私の方を向いた。仕留め切れなかったことを確信し、もう三発ほど追加で射撃する。汗が垂れる。太陽の日差しが肌を焼く。その三つの弾丸が男を貫くのと、男の放った銃弾が私の頭を貫くのは、ほぼ同時であった。




