ファイル10 遊園地デート
「悠斗さん! あれ乗りましょう! あれ!」
秋になった。
僕達は遊園地にデートに来ていた。
サユキが指差したのは大きなジェットコースターだった。
「ジェットコースターか……良いね。乗ろう」
「やった!」
僕達は手を繋ぎながら歩いていた。
隣を歩くサユキは白いワンピースに身を包んでいる。いつもの白い着物姿ではないため、とても新鮮だ。おそらく動きやすい服装を選んだのだろう。さらに下ろした長い氷色の髪が秋風にあてられてサラサラと揺らいでいる。とても綺麗だ。
「──今日のサユキの服、可愛いね」
「へ?」
彼女は顔を真っ赤に紅潮させた。
「あ、ありがとうございます。この間ショッピングモールで買ってきたんです。似合いますか?」
彼女は繋いでいた手を解き、僕の前でくるりと回ってみせた。遠心力によってスカートがふわりとクラゲのように持ち上がる。
「うん。似合ってる。めちゃめちゃ可愛いよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです! 買った甲斐がありました!」
サユキは満面の笑みでそう言った。
「よし、悠斗さんに服も褒めて貰いましたし、ジェットコースター楽しみましょう!」
「うん、そうだね!」
***
ジェットコースターに乗った後、僕はベンチで枯れ果てていた。
「悠斗さん、大丈夫ですか?」
サユキが自動販売機でペットボトルの水を買ってきて、僕に手渡してくれた。
「ありがとう……いやぁ、久しぶりに乗ったから、ちょっと気持ち悪くなっちゃった……僕、三半規管弱いんだよね……すぐ車酔いしちゃうし」
「そうなんですね……知らなかったです」
彼女は僕の隣に腰掛けた。
「少し休みましょうか」
「うん……ごめんね。僕が不甲斐ないばっかりに」
「いえ。そんなことないですよ。それに、弱ってる悠斗さんはなんか新鮮で可愛いです」
「可愛いかは分からないなぁ……あと、せめて『かっこいい』って言ってもらいたい……」
「いつもかっこいいので、たまには味変ですよ」
「味変か……」
僕はサユキが買ってきてくれたペットボトルの水を飲み、「ふぅ」と息を吐いた。
「まあ、それもたまには悪くないかもね」
僕はそう溢した。
そして二十分ほどベンチに座って休憩した後、「よし、行こうか」と僕は立ち上がった。
「もう大丈夫なんですか?」
「うん。全回復したよ。ごめんね? せっかく遊園地来たのに……いっぱい楽しもうね」
「はい!」
サユキも立ち上がり、そっと手を差し出してきた。
そして潤んだ瞳で僕を見る。
「……」
僕は即座に彼女の思考を察し、その華奢な細い指に自身の指を食い込ませた。
「ふふ」
彼女はにっこりと笑ってご機嫌になった。
「悠斗さんと恋人繋ぎしちゃった……嬉しい」
「確かに付き合って二年経つけど、僕達まだ恋人繋ぎしてなかったね。遅くなっちゃってごめんね?」
「まさか恋人繋ぎよりも先に初夜が来るとは思ってませんでしたけどね」
彼女は僕の顔を覗き込んで揶揄うようにそう言ってきた。
「……ヘタレよりかは良いかなと思いまして」
僕は彼女から視線を逸らしてそう言った。
「ふふ、確かにそれもそうですね」
「でしょう?」
「でも、あれから悠斗さん、何もしてこないですよね?」
「……何かしてほしいの?」
「まあ、ご想像にお任せします」
「決してしたくないわけじゃないからね? ちょっと時間が取れなかったり、体力がもたなかったりしてるだけだからね? 僕、全然ヘタレじゃないからね?」
僕は思わず饒舌になってしまう。
彼女は困ったように笑う。
「別に気にしてませんよ。お互い忙しいのは分かってますから……」
「もう……あんまり揶揄うといつか襲っちゃうよ?」
「それは楽しみです!」
──どうやら、彼女の方が一枚上手らしい。
僕は今夜こそは彼女を襲おうと心に決めたのだった。
そして僕達が遊園地内を歩いていると、キッチンカーを見つけた。どうやらクレープが売っているらしい。
隣の雪女の少女を見ると、クレープのキッチンカーに釘付けになっていた。
「──クレープ、食べる?」
「良いんですか⁉︎」
彼女は食い気味に反応してきた。
その圧に思わず圧倒される。
「う、うん……お昼ご飯もまだだし、ちょうど良いかなって」
「私、イチゴのクレープ食べたいです!」
「はいはい。分かったよ」
私達はキッチンカーの前にやってきた。
「すみません。イチゴホイップクレープとチョコチップホイップクレープを下さい」
悠斗さんがキッチンカーの中でクレープの生地を伸ばしている女性の店員さんに向かってそう注文した。
「はい。お会計、千六百円です。出来上がるまで少々お待ち下さい」
「分かりました」
彼はそう返した。
数十分後、店員さんは「お待たせしました」と二つのクレープを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
悠斗さんはそう礼を告げた。
「ありがとうございます!」
私も彼に続いた。
「よし、あそこのベンチで食べようか」
悠斗さんは少し遠くのベンチを指差してそう言った。
「はい!」
私達は各々が注文したクレープを片手にベンチに座った。
そして私はイチゴとホイップクリームがたっぷりと挟まったクレープを頬張った。
「おいひい!」
思わずそう叫んだ。
隣に座る私の彼氏はクスクスと笑っていた。
「どうひまひた?」
私はクレープにかじりつきながら、もごもごと言葉を紡いだ。
「ほっぺにクリーム付いてるよ?」
「え、ほんろでふか? はふがひい」
「ちょっと待ってね……」
ふと、悠斗さんが顔を近づけてきた。
「へ?」
何をするつもりなのだろう?
私が固まっていると、彼は私のほっぺについたクリームを舌で舐め取ったのだった。
「ッ⁉︎」
私はあまりの衝撃に固まってしまう。
そしてかあっと頬を赤く染める。
クレープから口を離し、私は悠斗さんの顔を見た。彼は「してやったり」という表情をしていた。
「悠斗さん……今……」
「ね? 僕、ヘタレじゃないでしょ?」
彼はそう言って笑ってきた。
「も、もう……気にしなくても良いのに……」
「ごめんごめん。ただ、サユキの反応が見たかっただけだよ」
悠斗さんはそう言い残して自分のクレープを食べ始めた。
私はヤキモキした気持ちを抱えながら残りのクレープを食べるのだった。
やがて私達はクレープを食べ終え、包み紙を園内のゴミ箱に捨てた。
「次、どこ行きたいとかある?」
悠斗さんはそう訊いていた。
「そうですね……」
私は唇に手を添えて考え込む。
メリーゴーランド……いや、コーヒーカップも捨てがたい。怪異の身だが、お化け屋敷なるものも気になる……。
しかし、今は悠斗さんと二人きりになりたい。遊園地にデートに来ておいてかなり無茶な願望だが、それが良い。
どうしたものか……。
ふと、私が視線を上に向けると、大きな遊具が目に飛び込んできた。丸い遊具に無数の鉄箱が付いており、ぐるぐると回転している。
観覧車だ。
あれだ。
観覧車であれば必然的に悠斗さんと二人きりになれる。
「あれ! あれに乗りたいです! 観覧車!」
私は彼のパーカーの袖を引っ張り、観覧車を指差した。
「観覧車か……良いね」
彼は笑って快諾してくれた。
「それじゃあ、乗りましょう!」
私は彼の手を引いて、観覧車乗り場まで走った。
「ちょっ──走ると転ぶよ?」
「大丈夫ですよぅ」
私達は観覧車乗り場にたどり着いた。
ふと、女性のスタッフさんが声をかけてきた。
「すみません。もしかしてカップルさんですか?」
「え、は、はい。そうですけど……」
「実は今、『カップル限定フォト』というものを企画しておりまして、もしよかったら、記念撮影していきませんか?」
「え、えっーと……」
記念撮影……。
撮りたい。遊園地にデートに来た思い出を残したい。しかし、悠斗さんの気持ちを無視することはできない。
私は悠斗さんを見た。
隣に立つ白髪の彼氏は私のほうを見てウインクしてきた。
オーケーの合図だ。
私はぱあっと表情を明るくし、「お願いします!」とスタッフさんに返した。
「それじゃあ、撮りますよ〜」
スタッフさんはスマートフォンを構えて写真を撮ってくれた。
「後で写真はエアドロップしますね〜」
「えあ……どろっぷ?」
初めて聞く言葉だ。
ふと、悠斗さんが「はい。分かりました。ありがとうございます」とフォローしてくれた。
記念撮影を終えて、私達は観覧車に乗ることになった。
初めは少し高い景色を眺めるだけだったが、やがて観覧車は頂上にゆっくりと上がっていく。それに比例して、景色は徐々に高くなり、遊園地全体を眺望できるようになる。
「すごく高いですね!」
「そうだね」
悠斗さんは笑ってそう言った。
「サユキ、隣、座っても良い?」
観覧車の中。
ふと、悠斗さんがそう訊いてきた。
「はい。良いですよ」
私はそう返した。
「それじゃあ、失礼します」
悠斗さんは立ち上がり、私の隣に座った。観覧車の中は狭いため、私達は密着状態になった。
「なんだか、ちょっと恥ずかしいですね」
私は照れ隠しで彼にそう言った。
「……」
ふと、彼は私の手を握ってきた。
「──これでも、恥ずかしい?」
悠斗さんはそう言ってきた。そして私の手をにぎにぎと動かす。
「は、恥ずかしいです……」
私は顔を真っ赤にしてそう答えた。
「──じゃあ、これは?」
「え?」
私が彼の方を振り向いた刹那、彼の唇が私の口を塞いだ。
「ん⁉︎ んう……んっ」
思わず声が漏れる。
長い長いキスを終えた後、彼は笑った。
「サユキ、顔真っ赤だね」
しかし、それは悠斗さんも同じだった。
「悠斗さんこそ……顔、真っ赤ですよ?」
「え、嘘……」
彼が私から目を逸らした瞬間、私は悠斗さんの頬にキスをした。
「サユキ……今……」
「今のキスと、さっきのクレープの仕返しです。甘んじて受け入れて下さい」
彼はゆでだこのように顔を真っ赤に紅潮させた。
「は、はい……」
悠斗さんはそう返すのだった。
やがて観覧車は一周した。あっという間だった。キスをしていたからか、観覧車に乗っていたのが一瞬の出来事のように感じる。
私達は観覧車から降りた。
「あ、さっきのカップルさん。写真、エアドロップしますね?」
ふと、先程写真を撮ってくれた女性のスタッフさんがスマートフォンを持って声をかけてきた。
エアドロップ……。
未だにどのようなものなのか分からない。
「ありがとうございます」
悠斗さんは咄嗟にスマートフォンを取り出し、スタッフさんと何やら操作をしていた。
「はい! ちゃんと送れましたね! それでは、楽しんで下さいね〜」
彼女は手を振ってそう言ってくれた。
「は、はい」
私は戸惑いながらも手を振り返した。
悠斗さんも隣で手を振っていた。
外はすっかり夕暮れ時になっていた。
「やっぱりデートしてると、一日経つのが早いですね」
私は身体を伸ばしてそう言った。
「そうだね。楽しいから……かな?」
「確かに。そうかもしれませんね」
そして私達はどちらからともなく手を繋いだ。
「よし、良い時間だし、帰ろうか」
彼がそう提案してきた。
「なんだか、少し寂しいです……」
私が俯くと、悠斗さんが私の頬を触ってきた。
「あとは家で楽しもう? ね?」
彼はそう言って笑いかけてきた。
──あとは“家で”楽しもう?
つまり、“そういうこと”だと捉えて良いのだろうか?
「──分かりました」
私は少しの淡い期待を胸に帰路についた。
家に着くと、私達は一緒にお風呂に入り、同じベッドで横になった。
今回のデート。振り返ってみると、完全に悠斗さんに主導権を握られていた気がする。
少し解せない。
こうなれば──。
「サユキ──」
彼が私の腰に手を回してきた次の刹那、私は彼の手を掴んでその身体に跨った。
「──へ?」
「今回は、私がします」
「え、えっーと、こういうのは男がリードするもの──」
「問答無用!」
私は彼の服を脱がした。
シャツのボタンを外し、ズボンを下ろす。
「サユキ……どうしたの? 急に……」
「今日、私はずっと悠斗さんにやられっぱなしでした。なので、仕返しです」
私はパジャマを脱いで、下着を外した。
上裸になって、彼の下半身に自身の股の中心を擦り付ける。
「ん……サユキ……」
彼は顔を真っ赤にしている。
快感と背徳感に溺れそうになるが、今回は私がリードするのだ。意識を保て。気合いだ。
私は彼の片手を掴み、自身の胸に押し付けた。
「サ、サユキ…………」
「──揉んでも良いですよ?」
「え、えっーと」
「はい。時間切れです」
私はパンツを脱ぎ、彼の興奮して大きくなった性器を自身の性器の中に挿れた。
「んっ……」
悠斗さんの艶っぽい反応が、さらに私の気持ちを昂らせる。
「それじゃあ、動きますね?」
「え、ちょっ、待って! 今、動かれたら──」
「ダメでーす。止まりませーん」
私は腰を上下に動かした。
「んあっ……サユキ」
「ふふ。悠斗さん。可愛いです」
私は彼の鎖骨にキスをした。
「そんな悠斗さんも、大好きです」
その夜は、私の圧勝で幕を閉じたのだった。




