第15話 二律背反する思い
「瑛人とは中学校を卒業してから全然話せてなかったよね」
「まあ、お互いにタイミングが合わなかったっていうのもあるとは思うけど」
陽葵が会話を続けそうな雰囲気だったため、ひとまず俺はそれに合わせる。高校の卒業式の日に見た姿よりは少し幼く見えるため、陽葵も高校三年間で大人びたということだろう。
「それなら学内で会ったらもっと話しかけてくれてもいいのに」
「友達と一緒にいたら話しかけづらくてさ」
その言葉は半分本当だった。話したこともない女子と一緒にいる陽葵に話しかけるのは普通にハードルが高い。だから学校ですれ違ったりしても話しかけないのはあまり不自然ではないはずだ。
「てか、一緒にいたメンバーはどうしたんだ?」
「トイレに行ったり飲み物を買いに行ったりしてる感じかな」
なるほど、それで今は一人になっているらしい。それでたまたま近くにいた俺に話しかけてきたといったところだろう。
「それより最近ずっと一緒にいるあの背の高い美人な子は誰なの?」
絶対に聞かれるとは思っていたが、予想通り天音についての質問が飛んできた。ひとまず聞かれた時用に考えていた回答を口にする。
「ああ、あの子はクラスメイトだ。出席番号が一つ前だから話してるうちに仲良くなってさ」
「ちなみに瑛人から話しかけたの?」
「いや、向こうからだな」
「やっぱりそうだよね、瑛人からああいうタイプの女の子には絶対話しかけないと思うし」
やはり陽葵は昔からの付き合いということもあって、俺の生態にはかなり詳しいようだ。流石は俺の幼馴染を何年もやってきただけのことはある。
「……ちなみに、本当にただ仲が良いだけのクラスメイトなの?」
「どういう意味だ?」
「上手く言葉に言い表せないんだけど、その子が瑛人に向けてる視線ってただ仲の良いクラスメイトに対してのものにはちょっと見えないからさ」
それは確かにそうだと思う。天音は初対面の時から距離感がバグっていたが、それは誰に対しても同じだと思っていた。だが、あんなふうに天音が他人に接している姿はこの二週間で一度も見ていない。
つまりクラスメイトの中で天音の距離感がおかしいのは俺に対してだけだ。そんなことを考えていると突然体に寒気が走る。それに驚いた俺が思わず顔を動かすとこちらを見つめる天音の姿が目に入ってきた。
今の天音は朝のバスの座席の提案をした時の表情に似ている。だが、朝とは比べものにならないほどのプレッシャーを放っていた。当然俺の様子に気付いた陽葵もそちらに視線を向ける。次の瞬間、張り詰めていた空気が一瞬で離散した。
「……宮川さんだったのね」
「えっ、私達どこかで会ったことあったかな?」
陽葵の顔を見た瞬間、天音はそう口にした。宮川という苗字を知っており明らかに会ったことがあるような口ぶりだったが、一方の陽葵はというと特に心当たりがなさそうな様子だ。そして、先程までの凄まじいプレッシャーは完全に消え失せていた。
「宮川さんのことは私が一方的に知っているだけだから、実際に会うのは今日が初めてよ」
ひとまず天音の言葉を聞いて一応納得はしたようだか、陽葵的にはまだ色々と気になることはありそうな様子に見える。だが、友達が戻ってきたため陽葵はそのまま俺達の前から去って行った。
「天音って陽葵とも知り合いだったんだな」
「さっきも言ったように私が一方的に知っていただけよ、その証拠に宮川さんの下の名前が陽葵っていうのも今初めて知ったくらいだから」
確かに入学初日に母さんの口から陽葵という名前が出てきた時も知らない様子だったため、今の言葉にはおかしなところはないと思う。ただ、天音が陽葵のことをどういう経緯で知ったのかは結構気になる。
陽葵は普通の女の子であまり目立つようなタイプではない。恐らく過去に何かがあって陽葵のことを知ったのだと思うが、どういう接点なのか本当に分からない。するとそんな俺の様子を見た天音は口を開く。
「宮川さんは私にとっては恩人のような人よ、向こうは絶対に覚えていないけど」
「恩人って、何か助けられたのか?」
「彼女のおかげで私は大切な気持ちに気づくことができたの、宮川さんがいなかったら今の私ではなかったかもしれないわ。それでも私の前に立ち塞がるなら容赦は出来ないけど」
陽葵がいなければ今の私ではなかったかもしれないと言う言葉は、あまりにもスケールが大き過ぎて正直あまりピンと来ていない。だが、そう口にした天音の表情は真剣そのものだったため、嘘をついていないことだけは分かった。
幼馴染である陽葵に対して、天音はかなり複雑な感情を抱いています、ヒントは第3話です。




