第11話 感情の爆弾
いつものように二人で登校し、学校に到着した俺達は一旦自分達の席に着く。ただし、出席番号順で決まった席で俺は天音の一つ後ろとなっているため、先程までの会話についてはそのまま続行だ。
「そう言えば今日ってこの後はバスで移動になるのよね?」
「ああ、一時間くらいはバス移動らしい」
校外研修は隣県で行うため、少なくないバスでの移動時間が発生する。何故わざわざ県外まで行って研修をしようとしているのかは分からないが、バスを手配するのも大変だと思うので何かしらの意図があることは間違いないはずだ。
ちなみに一周目の時はバス移動で酔った記憶があったため、朝食のタイミングでしっかりと酔い止めを飲んでいた。前回はマジで気分が悪過ぎてクラスメイトとの交流どころではなかったからな。同じ轍を踏むほど俺も愚かではない。
「そっか、じゃあ隣の席は瑛人で決まりね」
「ちなみに、俺以外と一緒に座るって選択肢はないのか……?」
当たり前のように一緒に座ろうとしていた天音に対して俺はそう質問をした。天音がクラスで浮いている理由は俺以外のクラスメイトと必要最低限しか交流していないことが要因だと思っている。
間違いなく天音は友達が多いタイプだと思うし、てっきりこのクラスでもたくさんの友達に囲まれて青春を謳歌すると思っていた。だが、実際はそうなっていない。
天音はクラスメイトから話しかけられたら普通に対応こそしているが、何故か積極的に周りと関わろうとはしなかったのだ。当然自分達のグループに入れたがっていたクラスメイトもいたが、天音はそれをやんわりではあったが明確に拒絶していた。
その結果、天音は容姿的にはクラスの一軍グループの中心にいても全く違和感がないにも関わらず、入学から二週間が経ってもなおどこにも所属していない状態になっている。だからそれを何とかしたいと思っての発言だったのだが、天音の様子が明らかにおかしいことに気付く。
「……ねえ、それってどういう意味? もしかして他の誰かと座りたいの?」
普段の明るい表情とは違い、今の天音は完全に無表情だった。何も映し出していないその表情は明らかに異質であり、もし立って会話をしていたら思わず後ずさったかもしれないと思えるほどのプレッシャーを感じていた。ひとまず誤解されていることだけは分かったため、俺は慌てて補足説明をする。
「別に他に座りたい相手はいないし、むしろ天音と一緒に座れるのは嬉しいくらいなんだけど、俺以外の相手とも仲良くなった方がいいんじゃないかと思ってさ。他のクラスメイトと全然話してる姿をみたことがなかったから」
「そっか、瑛人は私のことを心配してくれてたんだ。ありがとう、その気持ちだけで嬉しいわ。でも、私は全然大丈夫よ」
俺の言葉を聞いた瞬間、呼吸ができなくなるほどのプレッシャーは完全に消え去った。誤解が解けたことでむしろ上機嫌になって席から立ち上がり鼻歌まじりにどこかへ歩いていく天音を見て安心する一方、先程の表情がどうしても頭から離れそうにない。
天音があんな表情を浮かべる理由が全く分からなかったからだ。上手く言葉には出来ないが、とにかく先程の天音は明らかに普通の様子ではなかった。俺の返答次第では一体何をしでかすか分からない危うさすらあったと思う。
「……一体天音は今までどんな人生を歩んできたんだ?」
尋常ではない距離の詰め方をされたおかげで出会ってから二週間とは思えないくらいには天音と仲良くなった。だが、それでもまだ二週間の関係であり、天音について知らないことは圧倒的に多い。
年相応かと思えば急にめちゃくちゃ大人びて見えることもあるし、先程のように不安定な雰囲気になることもある。恐らくそれは今までの人生が関係しているのだとは思うが、今の天音は知っていても、今までの天音については知らないため、どれだけ考えても分かりそうになかった。
やはり俺は一色天音という人間のことをまだ全然理解できていないのだと思う。経験値が無さすぎるため恋愛的な意味なのかまでは分からないが、俺の暗い世界を明るく照らしてくれた天音に惹かれ始めていた。だからこそ、もっと天音のことをよく知りたいと強く思っている。




