第10話 鮮やかに色付く世界
気付けば人生の二周目が始まってから一ヶ月、二回目の高校生活が開始してから二週間ほどが経過していた。最初は戸惑っていた俺だが、時間が経つにつれて二周目の世界にも慣れてきたように感じている。もし二周目の人生が小学生からのやり直しだったらこうは行かなかったと思う。
周りよりも明らかに自分だけが精神年齢が高い状態で、小学生を演じるのは相当大変だったはずだ。そう考えると高校三年生から高校一年生へのやり直しは遥かに難易度は低い。そんなことを考えながら登校する準備をしていると部屋の扉が開く。
「おはよう、瑛人。今日も来てやったわよ」
「ああ、おはよう」
扉を開けて部屋に入ってきたのは制服姿の天音だった。そして天音はそのまま俺の勉強机の椅子に座る。二回目の高校生活初日に知り合った時から天音は明らかに距離感がバグっていたが、それは翌日以降も相変わらずだった。
いや、むしろ初日よりも加速していた気すらする。高校生活が開始してから二日目以降の放課後も天音は毎日俺の家にやって来た。
母さんにはますます気に入られ、さらに仕事終わりの父さんとも仲良くなった。気付いた時には天音は我が家の準レギュラーくらいのポジションを獲得しており、我が物顔で入り浸るようになったのが先週の話だ。
そして今週に入ってからは朝から迎えにくるようになっていた。朝から天音が部屋にやってきた時は驚いたがだんだんと慣れつつあるため、人間の適応力は凄いと思う。
「今日も相変わらず朝から嬉しそうだな」
「それは瑛人が返事を返してくれて嬉しいからね!」
「それは俺が返事すら返さないやつだと思われてるってことか?」
「挨拶をしたら当たり前のように返事が返ってくる日常が嬉しいってことよ、こういう当たり前の幸せすら叶わない人もいるんだから」
そう口にした天音の表情は本当に幸せそうだ。天音とはまだ二週間ほどの関係しかないが、先程の言葉は嘘も偽りもない本心ということは疑いようがない。
「それならもっと気合いをいれて返事をしないとな」
「そこは自然体で全然大丈夫よ、むしろ気合いを入れて不自然になると萎えるから辞めてほしいわ」
「……せっかくやる気を出そうとしてたのに水を差してくるなよ」
「ごめんごめん、つい本音が漏れちゃっただけよ」
天音はそう口にしつつも楽しそうな表情を浮かべていた。一周目の人生が不幸のどん底のような状態で明らかにバッドエンドな結末を迎えたため、二周目の人生は正直嬉しさ以上に不安や心配の気持ちの方が強かった。
高校三年間で習う範囲を既に勉強済みというアドバンテージはあるが、それだけでは到底強くてニューゲームにならないことは分かり切っていたのだから当然だろう。だが、天音と関わるようになってからそんな不安や心配はどうでもよくなりつつあった。
それは距離の詰め方が明らかにおかしい天音に振り回されっぱなしではあったが、そんな彼女と過ごす時間が楽しかったからに他ならない。天音と出会ってから灰色一色だったモノクロな俺の世界にカラフルな色彩が灯ったように感じた。
「よし、準備出来たからそろそろ行こう」
「ええ、そうしましょうか」
俺と天音は家を出て学校に向かい始める。四月中旬に突入したこともあって一ヶ月前の同じ時間帯よりも明らかに暖かい。
「今日は校外研修で一日授業がないから気楽でいいわね」
「確かに授業を受けるよりもそっちの方が楽しそうだしな」
今日は高校に入学してから二週間後くらいにある一年生の校外研修の日だった。研修というめちゃくちゃ堅苦しい名前はついているが、クラスの同級生との交流を深めるために開催されるため実質は楽しい行事と言える。
ちなみに一周目の世界でも同じ日に開催されていた記憶がある。ホームルームで研修の説明を聞いた感じだと内容も前回と全く同じだと思う。一周目の世界とはクラスが違うため人間関係も全然違っている。だから今回の校外研修を利用してしっかりと交流しておきたい。
ぶっちゃけ今の俺はクラスの中で少し浮いている。そしてそれは天音も一緒だ。天音は俺に絡みまくっており、それが原因で俺達はクラスの中でも異質な存在として見られている。
浮いているのが俺だけであれば別にそのままでも構わなかったが、天音までそういう扱いを受けていることに関しては何とかしたいと思っていた。




