No.34-それぞれの高み(前編)-
塔に創られた異次元空間は、各々の修行スペースになっていた。
此処では様々な設定を行える上、時間経過は外の世界よりも圧倒的に速い。
外の世界で一日たつと、この空間内ではおおよそ134日と16時間32分41秒も経過してしまう。
それ故に、短期間で物凄い実力アップを図れるのだが、空間内に居る使用者への身体にかかる負担が大きく、
また空間を開いているウェポン使用者の身体にも多大な影響を及ぼす。
多くて三日間連続使用が限界なのだ。
そして、今回の修行時間は丸三日。
キュウと対峙した時の為に対応できるようにと。
修行自体には全員賛成だったが、どうも気に食わなさそうな顔をしているのが一人。
「なんで俺が蠅と一緒なんだよ。」
紗衣純哉はかの魔王、気高き蠅の王ベルゼブブと同じ空間に放りこまれていた。
そう、彼は他のメンバーに比べて攻撃の種類が非常に少ないのだ。
応用はいくらでも効くが、結局全て空間を歪ませて放つ空気圧の槍や弾丸なのだ。
「まぁ、お前自身知っての通り、攻撃パターンがヒッッッジョーに少ない。これを徹底的に強化しちゃる。」
そう言うとベルゼブブは何処からともなく緑色の剣を取り出した。
ショートでも、ミドルでも無いような何とも微妙な刀身を持った剣だった。
「まぁまず、やろうぜ。ちなみにお前の既存の攻撃モーションは、この空間内じゃ威力を持たないただの塊になるぜ。」
ひどい設定だと、純哉は心の中で呟く。
これも新しい技作成の一環なのだろう。
そう、考えているとベルは一気にこちらに飛び込み、目にもとまらぬ高速剣術を見せた。
純哉はベルの超絶技巧を辛うじて避けきったが、その後の一撃が腹に直撃してしまった。
この修行空間では死なない、と言っても激痛はしっかりとフィードバックする。
しかも、確実に死ぬ一撃をうけても死なないのだから、苦痛以外の何物でもない。
ベルのコンボを喰らって生きていける自信は無い、と純哉は考える。
尚更、新しい技を要求されるがもっと落ち着かないと思いつかないだろう。
「こりゃぁ、思った以上にきついらしい。」
カシス・フランバースと望月仙寿は同空間内にいた。
お決まりの二人だが、「何故俺らまで」とそろって愚痴をこぼしていた。
二人は元々、今回の戦争ではサポートに徹する予定だった。
しかし、ノリで純哉達と同じ場所にいたら、一緒に放り込まれてしまったのだ。
そして、放り込まれた直後に「あーごめんねぇ。まちがえちった。テヘッ☆」
とルシファーがわざとらしくアナウンスしてくれた。
仙寿は「ヒュヒュ……殺す」と呟き、カシスは自前のパソコンが使えないことが分かり「殺す」と呟いていた。
何はともあれ、放り込まれたという事は修行が必要だという事だ。
そう、二人の思考がその答えにたどり着く前に、倒さねばならないモンスターが大群で押し寄せた。
だが、仙寿やカシスにとって、相手にならないザコばかりだったようで、仙寿のオーバーナパームにて一掃されていた。
「なぁ……仙寿よ。俺ら……何時までここにいりゃぁいいんだ?」
「ヒューヒュヒュ。134日を二セット。」
「考えただけで気が遠くなるな……」
カシスがポツリと呟く。
実際の時間経過は置いといて、134日間もこの暇な空間に居るというのは意外と苦痛だ。
「ヒューヒュヒュ。まぁ、そのうち楽しいことも見つかるだろーよ。」
仙寿はそう言うと、一人で妨害系睡眠ウェポンで居眠りし始めた。