表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第4章 価値観( 珠景 )
20/66

賑やかな朝、二つの夢

 

 私の好き。を思い出した。 

 失いたくて、心の底に埋めていた感情。

 百年の時が経っても、朽ちずに残っていた。

 珠景(みかげ)は玄関近くの廊下に腰掛けて、遠くの海を眺める。


「桜が無いだけなのにな」

 夕陽の光に包まれた桜色の世界。

 海が見える爽やかな夏の中庭。

 過去から現在へ。 目に映る景色が、変貌を遂げていく。

 昨夜、沢山泣いたのだろう。

 空の表情が清々しい。


「おーい、親友! 起きているか」

 元気な声が聞こえ、珠景(みかげ)は玄関へ向かう。

 ゆっくり玄関戸を開けると、(らい)が待っていた。

 グローブを括り付けた金属バッドを肩に乗せ、野球帽を後ろかぶりしている。


 珠景(みかげ)は人差し指を唇に当てて、しぃーっと小さな声を出した。

(つむぎ)寝てるから、静かにね」

 (らい)は数回瞬きをすると、流暢に喋り出した。


「綺麗な女性しか居ないと噂の民宿ってここで合ってる? まあ、おいらの目的はクールに決めてるエースピッチャーの方なんだけど」


(なぎ)君なら、起きて準備してたよ」


「それなら好都合だ。ただ困ったな……美少女に出迎えられたら、練習じゃなくてデートに行きたくなる。ほら、彼女の家まで迎えに来たみたいな?」


「……ごめん。良く分かんない」

「そりゃ残念。今日は練習着だし、デートの服装じゃない……また今度で良いかな?」

「誰も誘ってないけど」


「ど真ん中直球ありがとう。あまりの球威に心のミットが持っていかれそうになったよ。危うくボール判定されそうでヒヤヒヤした」


 わざとらしく胸を撫で下ろす(らい)を見て、珠景(みかげ)は微笑を浮かべる。

「朝から口説いてんじゃねぇよ。早く始めようぜ」

 対応に困る珠景(みかげ)に代わり、(なぎ)が廊下から声をかけてくれた。

「へいへい。んじゃ、お邪魔しますね」

 中庭に出た(なぎ)(らい)は、早速キャッチボールを始めた。

 珠景(みかげ)は廊下に座り、二人の間を行き交う白球を目で追う。

 静かな朝。グローブが鳴らす乾いた音が響く。


「ねぇ、野球ってどんな事するの?」

 珠景(みかげ)の問いとボールを受け止めると、(らい)は動きを見せながら教えてくれた。

「投げて、打たれて、トンネルして、悪送球からの失点、怒る監督、項垂れる選手達」

「喧嘩売ってんのか?」


「違いますやんっ。そう怒らんでくだせぇな。お兄さんは良い球投げてましたで? バッターが打たなければ、おいらのミットに収まっておりましたさ」


「……」

「仰る通りでございます。何も言ってませんね。たこ焼き門左衛門のトンネル工事、干物グランプリの宇宙開発。これが全てでございます。うるさい人居ますか? 私ですね」


「いよいよ、何言ってんだよ」

 呆れる(なぎ)を見て、珠景(みかげ)は安堵の笑みをこぼす。

 良かった。(なぎ)君も理解出来ないみたい。

 変な空気のまま、二人はキャッチボールを再開した。


「お、やっとるねぇ。未来のプロ野球選手たち」

「リンちゃん。おはよ」

「おはよー。今日も暑くなりそうだねぇ」

 髪を結びながら歩いてきたリンは、珠景(みかげ)の隣に座った。


「姉貴。珠景(みかげ)に野球の動画見せてやって。興味あるらしいから」

「おいおい、弟よ。お姉様に指示を出すってか」

「黙って従ってくれ。間違ってそっち投げんぞ」

「投げてみなさいよ、バックスクリーンにぶち込んでやるから! ほら来いや!」

 リンはスマホを両手で握ると、打ち返す構えを見せる。

 (なぎ)はため息をつくと、山なりのボールをリンに向かって投げた。

「ちょっ! 本当に投げる馬鹿がどこにいるの、ここに居たよ!」

 リンは咄嗟にスマホを足の上に落とし、両手でボールをキャッチした。


(らい)君のせいだぞ」

「理不尽!」

 リンは(らい)に向かってボールを投げると、ふんっと鼻を鳴らした。

 ショートバウンドしたリンの球を上手くキャッチした(らい)は、哀れな表情を作る。

 ボールの流れが止まり、珠景(みかげ)はくすっと笑った。

「良いね。こういうの」

 (つむぎ)が居れば尚良いのだが、きっと今も夢の中。

 起きる気配すら感じない。


「さて、そろそろ行きやすかねぇ」

「どこか行くの?」

「我々、未来のプロ野球選手は、野球部の練習を探しにアマゾンの奥地へと……」

「一人で勝手に行ってろ」

 淡々と呟き、(なぎ)珠景(みかげ)に目を向ける。

「悪いな。野球の事は姉貴に聞いてくれ」

「分かった。練習頑張ってね」

 二人が居なくなると、民宿は静寂を取り戻した。

 言われた通り、珠景(みかげ)はリンに野球のことを聞いてみる。

 野球のルール、ポジションの違い、変化球の種類、高校野球とプロ野球について。

 野球観戦を楽しめるレベルの知識を、リンは動画やノートを使って丁寧に教えてくれた。


 いつか、(つむぎ)と一緒に試合を見に行きたい。

 小さな夢を抱く珠景(みかげ)、夢心地の(つむぎ)

 民宿は、正午を迎えた。




珠景姫 Mikage hime を読んで頂き、ありがとうございます✩.*˚

このエピソードで、4章は終わりです!


物語はまだまだ続きますが、コメントや感想は大歓迎です! 気軽に送ってくださいね(*´꒳`*)


第5章もお楽しみに!


美珠夏/misyuka の宮本でした˙ᵕ˙ )ノ゛

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ