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珠景姫 Mikage hime  作者: 美珠夏/misyuka
第5章 夢を見つけた日( 紬 )
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朝の教室、演劇ごっこ

 

 忘れられない夏休みだった。

 今日から新学期。始まりの朝を迎えた。

 制服に袖を通し、鏡と向き合って寝癖を直す。

(つむぎ)、準備出来たか?」

「出来た!」

 迎えに来てくれた(なぎ)と合流し、(つむぎ)は早足で玄関へ向かう。

「いってきまーす!」

 元気な声を響かせて、朝の世界へ飛び出した。

 涼しげな夏木立のなかを、並んで歩いていく。

 二人が通う『奥島高校』は、海辺にある公立高校だ。

 電車通学の生徒も多く、朝の夢奥島(ゆめおくしま)駅は高校生で溢れてしまう。

 その時間帯を避けるために、(つむぎ)(なぎ)は普段から早めに登校している。

 静かな商店街を歩いていると、(なぎ)が話を切り出した。


珠景(みかげ)も、だいぶ慣れてきたんじゃないか?」

 今日までの一週間。

 オンラインショップで服を購入したり、スマホの使い方や最近の言葉を教えたり。

 珠景(みかげ)が現代で暮らす為の準備を、少しずつ進めてきた。

「今どきの若者って感じだよね」

「誰目線なんだよ」


「つむ婆。だって、凄いんだよ? リンさんから貰ったお古のスマホ、もう使いこなしてるもん。なんか流行りにも詳しいし、私より現代っ子。とにかく飲み込みが早い」


(つむぎ)がそれ言うか」

「私は食べ物の飲み込みが早いだけで、感性はお婆ちゃんだから」

「違いねぇや」

「そこは否定せい」

 にやっと笑う(なぎ)の腕を、(つむぎ)はパシッと軽く叩く。


珠景(みかげ)はポテンシャルもエグいからな。この前、(らい)とキャッチボールしてたけど、二十球くらいノーミスだったし」

「どうせ、私はへたっぴですよぉー」

「確かに、キャッチボールするなら珠景(みかげ)だな」

「ほら、またそうやって……あとタカアシガニだから」

「大いに納得したらだろ? 普通に納得したから、確かにで合ってる」

「タカアシガニ」

「結局、出るのかよ」

 笑みを浮かべる(なぎ)を見て、(つむぎ)も表情を緩めた。

 いつもはクールな表情なのに、二人で居る時は素直な笑顔を見せてくれる。

 (なぎ)の朝練に合わせて早起きするのも、この幸せなひとときを過ごす為だ。

 高校に通うのが楽しいのは、全部(なぎ)のおかげ。

 感謝の思いを抱きながら、(なぎ)の隣を歩き続けた。


 朝の教室には、先客が一人。

 海色に染まる窓辺の席で、(らい)がスマホを眺めていた。

 荷物を置いた(つむぎ)は、(らい)の顔を覗き込む。

「おはよー」

「おはよう。指示した通り、エースは連れてきてくれたかね」

「えぇ、あちらに」

 片膝をついた(つむぎ)は、荷物を整理する(なぎ)に視線を向けた。

 視線を誘導され、(らい)(なぎ)に目を向ける。そして、立ち上がった。

「おお、これはこれは。私が求めていた至高の左腕! 間違いない、エースだ」

 わざとらしい拍手を送り、(らい)(つむぎ)に視線を落とす。

「褒美をつかわそう。一体何が欲しい? 金か、権力か、それとも……」

「私が欲しいのは、山岡(らい)の失脚ただ一つ!」

 (つむぎ)は立ち上がって、小刀を握った設定の拳を(らい)の腹部に当てた。

「なっ、おい、待て、よすんだ、ぐわあぁぁぁぁあ!」

 刺された設定の(らい)は、大きな声を上げながらその場に崩れ落ちる。


「こうして世界は、山岡(らい)の支配から解放され、平和な日常を取り戻しました。そして、みんな幸せに暮らしましたとさ。おしまい」

「はい、カット!」

 床に倒れていた(らい)が大きな声を出すと、(つむぎ)も表情を緩めた。

 そんな二人を見て、(なぎ)は微笑を浮かべる。

「演劇ごっこは終わったか?」

「終わったぁ」

 呑気に答えた(つむぎ)に対して頷くと、(なぎ)(らい)に声をかける。

「朝練行くぞ」

 グラウンドに向かう二人を見送って、(つむぎ)も教室を後にする。

 誰も居ない図書室へと入り、文庫本が並ぶ本棚を眺めた。

 気になるタイトルの本を手に取り、中身を軽く確認して本棚に戻す。

 その作業を繰り返していると、ある歴史小説を見つけた。


姫奥島(ひめおくしま)の伝説 ―最後の姫となった少女― 」


 タイトルを小声で読み上げて、(つむぎ)は年季の入った本を開く。

 昔から置いてあった本だが、魅力を感じたことは一度もなかった。

 珠景姫(みかげひめ)は島の偉人であり、先祖の一人。

 それくらいの認識で、関心を抱くきっかけも無かったから。

 しかし、珠景(みかげ)が家族になったことで、珠景姫(みかげひめ)の物語にも興味が湧いたのだろう。

「……これにしよ」

 本を借りた(つむぎ)は、静かに図書室を後にした。


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