天才ゾンビ漫才師
公演の日がやってきた。
佳治は激しい貧乏揺すりをしながら舞台袖に立っていた。
「落ち着けよ」
「チキンの優介にそんなことを言われるとはな」
「俺はもう、貧乏揺すりなんてやる生気も無いんだ。ゾンビになってマジよかった」
「ギャグは舞台で飛ばせ」
漫才コンビ・インサイド紹介のアナウンスが終わると、二人は勢いよく舞台に飛
び出した。
何百人もの生徒達の視線が一斉に集まる。
優介の心臓は一瞬高鳴った――が、すぐに元に戻った。
佳治のほうは――いつもより倍の速さでしゃべり出した。かなりテンパっている
ようだ。これほどの観衆を前に漫才をやった経験は無いのだから、当然と言えば当
然だった。
「はい、佳治君、落ち着いていきましょうねー」
優介が猫背に半眼で注意した。
「お前が落ち着き過ぎているんだよ!」
「なにしろ、もう孫がいますから」
「ジジイか!」
「ジジイと言えば、元気なお年寄りが増えましたね」
アドリブが発展しそうになり、優介は冷静にネタに戻した。
緊張のあまり暴走しそうになる佳治を優介が上手にコントロールしながら話を
進める。
初めて漫才をやった時とは月とスッポン、拾ってうれしい財布と悲しいキーホル
ダーほどの違いがあった。
二人は確実に笑いを取りながら、しゃべり続けた。
留奈はドキドキしながらも、目を輝かせて見守った。
もう一人、憎悪の目をぎらつかせながら見ている者がいた。
沙織だ。
(優介の漫才がうまくなったのは、私がゾンビにしてあげたからよ)




