憑依
留奈はガッツポーズをすると、スマホを手に取り、優介を呼び出した。
〈どうした、留奈! 悪霊は出たのか〉
「優君、やったよ! 水晶を見せたら、消えていった」
〈マジか! よかった……〉
「うん。もう、これがあれば大丈夫だよ。心配しないで」
〈分かった。それじゃ、安心して寝ろよ。俺は死ぬから〉
「ごめんね。でも朝になったら生き返れるから」
〈ああ。明日また会おうな〉
「うん。早く会いたい」
〈留奈。俺、前は死にたいって思ったこともあったけど、今は生きてて良かったと
思ってる。生きていたから君にも会えたし、人間にとって大切なことも分かった〉
留奈は大切なことが何なのか、聞かなかった。それは彼女にも分かったからだ。
「じゃ、おやすみ」
電話を切ると、留奈は幸せな気持ちで眠りについた。
一方の沙織は留奈と正反対の生き地獄を味わっていた。
「優介の奴、まだ生きてる。一体どうなってるんだろ。留奈と結婚するなんて言っ
て。もうっ! 悔しい悔しい!」
沙織は自分の部屋で枕を殴り続けていた。
もう宿題もブログ作りもゲームも手につかなかった。優介と共に留奈の顔も浮か
ぶようになっていたのだ。
「なんで、こんな想いをしなきゃならないの!」
悔しく悲しい想いを枕にぶつけ続けた。
一時間もそんなことを続けていると、さすがに疲れてきた。時計を見ると、午前
二時を回っている。
「げっ、いいかげん寝なくちゃ朝起きられない」
沙織は焦ってライトを消し、ベッドにもぐり込んだ。
眠りに入りかけた時、沙織はおかしな気配を感じた。
部屋の中に誰かがいる。
驚いて目をこらすと、頭頂のハゲた黒い男がベッドの横に立っていた。
沙織は悲鳴を上げようとしたが、声が出ない。
「お前は留奈の殺害を魔女に依頼した娘だろう……」
黒い男がささやきかけた。沙織は無言でうなずく。
「留奈は強力なお守りを持っている……だから殺すのは無理だ……」
沙織は全力でベッドから飛び起きると、
「じょーだん! 私は高額の料金を支払ってるの! 『無理です』で済むと思った
ら大間違いよ。もう一度トライしてきなさい!」
鬼の形相で言い渡した。悪霊はうなだれ、
「だって……無理なんです……水晶の強力な光で、近づくこともできねえ」
「だらしないなあ! それでも悪霊!? だいたいラーナ先生も、こんな弱いの使
わないで、もっと魔王みたいな」
「俺だって、一生懸命やってるんですけどっ。しかもガングロはげガッパなんて言
われて、そんな屈辱に耐えながら……でも、仕事だから歯を食いしばって」
「まさか泣いてるんじゃないでしょうね」
「悪霊だって、泣きたい時はあるんだ!」
「あっそう。それじゃ、泣くだけ泣いたら、仕事ちゃんと行ってよね!」
「無理だ! じぇええええったい無理!」
「甘えるんじゃないの!」
沙織が枕を投げつけたが、素通りして床に落ちた。
「分かった……どうしてもやれと言うなら、お前の体を貸してくれないか」
「ええっ、なんで」
「肉体を持っていれば、なんとか水晶に邪魔されずに殺れると思う」
「そんな! 私に取り憑いたら」
皆まで言わせず、悪霊は沙織の体に踊り込んだ。
「うっ」
一瞬白目をむいた沙織は仰向けに倒れた。そしてゆっくりと起き上がった時、そ
の目は異様な輝きを帯びていた。




