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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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挫折した噺家(はなしか)

 その夜、留奈はお守りを胸の上で握りしめ、ベッドに横たわった。

(これさえあれば、大丈夫だ)

 留奈の心は穏やかだった。そして眠りに入ろうとしたその時、体が全く動かなく

なった。


 留奈はドキドキではなく、ワクワクしながら霊の出現を待った。

 今日こそ、あのガングロはげガッパを撃退できるのだ。


 今までさんざんいたぶられたが、今度はこっちがいたぶってやるから、楽しみに

待ってやがれ。さあ、さっさと出てこいてんだ、ガングロはげガッパ。

 美少女にふさわしくないセリフを心の中で吐きつつ、悪霊の出現を待った。


 暗闇の中で、パシッという音がした。

 ラップ現象だ。

 自分を脅しているのだろう。


 気が付くと、ベッドの横にガングロはげガッパが立っていた。黒い顔を留奈に近

づけると、耳元でささやく。

「お前の命は今日で終わりだ。覚悟しろよ」

 留奈はニヤリと笑った。


 悪霊はギョッとして身を引く。

「な、何を笑っているんだ。なんなんだ、その余裕のある態度は」


「金縛りなんか解けているんだからね」

「なにっ、そんな馬鹿な。お前にそんな力があるわけがない。霊力などまるで無い、

ただの小娘のはず。さあ、心臓を止めてやるから覚悟しろ」

 ガングロはげガッパは留奈の胸の上に手をかざすと念を送った。


 どこ吹く風と口笛を吹く留奈。

「ピーピーピーのピー」

 悪霊は驚いて飛び上がった。

「なんだ、夜に口笛を吹くな! ヘビが出るぞ」


「あんたの術なんて全然効いてないってことよ、このガングロはげガッパ」

「勝手に変な仇名を付けるな! 俺には太兵衛という歴とした名前がある」

「何それ。古臭っ」

「古臭いとはなんだ、俺は生前、江戸時代の人間だったんだ」


「へえー、お仕事は」

「納豆の振り売りをしていた。あれは野菜より軽くて楽だった。朝のうちに長屋を

回って商売を終わらせると、酒屋に直行して夕刻まで飲んでいた。飲み過ぎたため

に三十を一つ出たところで死んでしまった」


「お酒でウサを晴らしていたんじゃないの?」

「なんで分かるんだ。その通りだ。実は噺家を目指していたんだが、小心者で舞台

に上がるとセリフをとちり、師匠に『お前はとてもモノにならないから、やめた方

がいい』と言い渡されたのだ。

 破門になった俺は毎日酒を浴びるほど飲んでウサを晴らし、若死にした……」


 留奈は胸がズキリとした。優介も夢を失ったら、悪霊化した太兵衛のような状態

になるのではないか。

(私は優君の夢が叶うように全力で助ける)

 留奈は心に誓った。


「太兵衛さんもつらかったのね」

「そうなんだ……って、人生相談に来たのではない! お前の命をもらいに来たの

だ。なぜなら、それをやれば魔女から墓を建て、酒を供えて供養してやると言われ

たからだ」

「あいにく、私から命を奪うことはできないわ」

「なぜだ」

「これを持っているから」

 留奈は袋から水晶を取り出すと、太兵衛に見せた。


「うわっ、やめろ! まぶしい!」

 留奈には光を放っているようには見えなかったが、霊には水晶のオーラが見える

らしい。

「さあ、掛かってきなさい!」

「できねえ~~……」

 悪霊は悲痛な叫びを上げながら、消えていった。

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