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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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エクソシスト優介

 昨晩と同じように二人は路上漫才をするべく駅前に行ったが、始める前にあたり

を確認した。

「来てねーよな、沙織」

 優介は、かなりビビッている。


「いねえよ、あれだけ言ったんだから大丈夫さ」

「あのわざとらしい笑いは、実に迷惑だった。今日はのびのびとできるぞ」

「美人OLが足を止めても、のびのびとやれよ」

「それは分かんない」


「しっかりやれ! プロになると決めたんだろ? 客席には整形美人がいっぱいいるぞ」

「そうだな。美人だからってビビってたんじゃ、やってけねえよな」

「その通り。それじゃ、いくぞ。漫才やりまーす!」


 相変わらず誰も足を止めない。

 いや、一人だけタコのような女の子が。

「お前!」

 沙織は屈託の無い笑顔で拍手した。

(今日も目茶目茶にされるのか)


 佳治は溜め息をつくと、力無く手を上げた。

「佳治でーす……」

「優介で―――すっっ!」

 相方が自分より何倍も大きな声を出したので、佳治は隣でぶっ飛んだ。

 優介のそれは、あたかもエクソシストが「キリストの力が汝を滅ぼす!」と叫ん

でいるかのような迫力があった。見ると、優介は血走った目でタコを睨んでいる。

タコのほうもひるまず、丸い目で睨み返している。佳治もセリフを忘れて二人を見

つめる。三すくみ状態だ。


 数秒して我に返った佳治が咳払いをし、ネタをしゃべり出した。

「お前さあ、イケメンだからもてるだろ? ストーカー被害なんてあった事ない?」

「今あっている」

 優介は沙織を睨んだまま、押し殺したような声で言った。


「そんなセリフねーだろ!」

 優介はかまわず沙織を指差し、

「お前、帰れ! タコつぼに」

「何言ってんだよ!」

「お客さんにそんなこと言っていいの?」

 沙織は腕を組むと、皮肉な笑みを浮かべた。


「お客さんじゃない、ストーカーだ!」

「違うわ、追っかけよ。優君、プロになるんでしょ? それなら私みたいなウザい

ファンはいっぱいできるわよ。その時、ブチ切れて怒鳴ったりしたら仕事干される

んじゃない? 今からファンに対する態度を養ったほうがいいと思う」


 優介は唇を震わせながら黙った。佳治はうなずき、

「タコ……じゃない、沙織の言う通りだ。お客さんを怒鳴るなんて芸人にあるまじ

き行為だぞ」

「芸人……」

 優介はその本質が分かった気がした。と同時に自分の甘さを悟った。大した覚悟

もせず、他にやりたいことも無いからと、厳しい芸人の世界に足を踏み入れようと

していたのだ。


「俺が悪かった」

「そうか。分かればいいんだ」

「俺みたいな克己心の無い者が、厳しい芸能界に入ろうなんて間違っていた」

「そーゆー反省じゃなくて! 克己心を身に付けようと決意するんだよ」

「優君なら、できるよ。頑張って!」

「うるさい! やるから君は帰ってくれ」

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