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ゾンビの恋人  作者: 鳥原 麻生
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命乞い

 留奈は、湧きあがる恐怖に震えが止まらなかった。

 一人で震えていると、優介が能天気な顔で教室に入ってきた。

 佳治と「あれはウケたな」とか言っている。


(こっちは、お笑いどころじゃないってのに)

「ちょっと、こっち来て!」

 優介を廊下に連れ出すと、留奈は声を落として昨夜の出来事を話した。優介は困

惑の表情を浮かべ、

「幽霊? そんなものいるのかなあ。ゾンビは信じるけど」

「ふざけないで!」

 留奈は鼻の穴を広げ、歯を剥き出しにした。美少女が台無しだ。


「こっちは、どれだけ怖い思いをしたと思ってるの!」

「俺だってトイレで死にそうになって、怖い思いをしたよ」


「何それ。優介なんかいいわよ。もう死んでるんだから。でも、私はまだ生きてる

の! それなのに悪霊に殺されかけて……きっと沙織の差し金よ」

「えっ、沙織の」

 優介は青い顔をさらに青くして、群青色になった。


「な、なんで沙織が君の命を奪おうとするんだ」

 留奈は優介の耳に口を寄せ、

「それはね」

「やめてくれ、耳は性感帯なんだ」

「ふざけないで!」


 お笑いのサガで、深刻な時でもギャグを言ってしまう。優介は顔を引きしめ、

「悪い、真剣に聞く」


 留奈はもう一度優介の耳に口を寄せてささやいた。

「たぶん沙織が私達のやったことに気付いたのよ」

「えっ。バレたか」

 留奈はうなずき、

「それで私を殺そうとしているのよ。もちろん直接あの子が手を下すんじゃなくて、

魔女に依頼したんだと思う。昨日出た霊も魔女のしわざよ」


「そうか……。やっぱり沙織は自分から離れた僕を許せなかったんだな。なにしろ

僕に夢中だったから、どうしても君から僕を取り返そうと必死なんだろう」


 その時、後ろから肩をたたかれ、優介が振り向くと、皮肉っぽい笑みを浮かべた

沙織が立っていた。

「ちょっと、私が留奈から優君を取り戻そうと必死だって? バッカじゃね!? 

今まであんたが飛ばしたギャグの中で一番傑作だわ」


「それはありがとう」

 優介は引きつった顔で礼を言った。沙織はイラッとして、

「ふざけんじゃないよ! 私はもうあんたの事なんか、これっぽっちも想ってない

ってか、もうウザいぐらいに思ってるんだからね! でも忘れられないで困ってん

の! それで」

 沙織は周囲を見回し、声を落とした。

「あんた達、二人とも消えてもらうから」


「ひっ」

 留奈は両手で口を押さえ、優介は教室に入ろうとする沙織に追いすがった。


「すいませんでした、すいませんでした! 君の好意を踏みにじった僕が悪かった

です。どうか許してください! どうか命ばかりは」

 沙織は半眼で振り向くと、

「悪いけど、優君には消えてもらわないと、私が救われないの。それに、もう魔女

に頼んじゃったんだから、今さらどうにもできないの」

 優介の手を振り払って教室に入っていった。


「今度こそマジで死ぬのか……俺にはもう先が無いんだ……まだ十六だってのに」

 優介は茫然と立ちつくした。そこへ担任がやってきて、怖い顔でうながした。

「さっさと中に入れ。チャイム鳴ったろ」

 感傷に浸る暇もなく、時はどんどん流れていく。

 優介も留奈も肩を落として、教室に入った。

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