ゾンビの相談
留奈は衝撃のあまり、どうやって家に帰ったか憶えていなかった。
脳内に「ゾンビ」の言葉が繰り返され、これが何を意味するのかを考え続け、気
がついたら自室のベッドに座っていた。
「優介君、カッコよかった……」
以前のような全身を震わせながら口ごもる優介ではなく、今日のような落ち着き
払って愛の言葉を語るゾンビの優介が素敵に思えたのだ。
「でも、ゾンビって生ける屍なのよね。子供も作れないのよね?」
家庭の医学の本を調べても、「ゾンビの症状」など出ているわけがない。だとし
たら、彼は医者にも治してもらえないのだ。医者以外で彼を元に戻せる者がいるの
だろうか。
留奈は誰かに相談したくてたまらなくなったが、クラスメートに話したら、あっ
と言う間に学校中に広まるだろう。いや、全国に広まり、マスコミが取材に来るか
もしれない。そうなったら、優介は家から一歩も外に出られなくなり、引きこもり
になってしまうだろう。
もし、優介がポジティブな考えの持ち主で、マスコミに騒がれるのをチャンスと
とらえたら、ゾンビ漫才師として全国的に売れるという可能性もある。でも、沙織
のご機嫌取りをしている間はそれもできない。
それでは沙織がいなくなればいいのか。いや、優介の心臓は彼女の想いによって
動いているのだ。沙織が死んだら、彼も死んでしまう。だとすれば、優介がカミン
グアウトしてゾンビ漫才師としてやっていくことを沙織に認めてもらばいいのでは
ないか。
でも、その前に優介がカミングアウトする勇気があるかどうかを聞かなければな
らない。自分の宿題や勉強で忙しいってのに、なんでこんな事を考えなければなら
ないのだ。
留奈は溜め息をつきながら塾に行くしたくを始めた。
「沢野さん、聞いてますか?」
「は、はい」
塾の女性講師にとがめられ、留奈はあわてて鉛筆を握り直した。
考えまいとしても、優介のことが頭に浮かんでくる。
ゾンビになったことが本当なら、どうしても助けてあげたい。でも、どうやって
助けたらいいのか全く分からなかった。そうだ、優介は魔女にゾンビにされたと言
っていた。それなら、別の魔女に相談すれば解決方法を教えてくれるのではないか。
そうだ、魔女に相談――って、そんなのどこにいるのだろう。
「沢野さん! 聞いてるの?」
目の前に講師が立っていた。
「すいません」
よっぽどポカンとした顔をしていたに違いない。こんな事をしていたら、勉強が
手につかない。早く解決しなければ。それには魔女を探すことからしなければなら
ない。陰陽師のほうがいいかな? ゾンビとはミスマッチな気がする。やっぱ魔女
でしょ。ネットで検索すれば、いっぱい出てくるわよ。相談するなら近場にいる魔
女がいい。遠くだと行くのが大変だし。
「沢野さん」
女性講師がワイパーのように留奈の目の前で手を振った。
「すいません!」
夢から覚めたように留奈はノートを取り始めた。




