ゾンビの落ち着き
「おい、漫才!」
放課後、佳治がしつこく誘ったが、優介は「塾に行くから」とウソをついて断っ
た。沙織はそれを聞いて満足そうな笑みを浮かべ、美奈子と部活に行ってしまった。
華道部で、男子生徒は一人もいない。今日も一日、沙織に浮気されずに済んだよ
うだ。優介はホッとして教室を出た。
校庭に出ると、後ろから美しい声に名前を呼ばれた。
(留奈だ)
前ならびっくりして跳び上がっていたところだが、ゾンビになった今ではドキッ
とすることもない。今朝のように普通にしゃべれそうだ。
優介は元気の無いゾンビ・スマイルを浮かべて振り向いた。
留奈は爽やかなエンジェル・スマイルを浮かべて立っていた。
「一緒に帰らない? 嫌じゃなければ」
「えっ、マジ? もちろん嫌じゃないよ」
「だって、沙織と付き合ってるんでしょ?」
「別に付き合ってるわけじゃない。沙織が誰かと付き合わないように監視している
だけだ」
「意味分かんない」
「だろうな」
「ねえ、優介君、何かあったんじゃないの? だって、普通にしゃべっているもん」
いつもの優介は留奈の前に来ると、全身を震わせてろくにしゃべれなくなってい
たので、今のほうが異常に見えるのだった。
「どうして普通になったの? 何かあったの?」
「話したいけど、話したって信じてもらえないよ」
「そんなことない! 優介君はウソを言う人じゃないって信じてる」
「マジ? ありがとう!」
優介は冷たい手で留奈の手を握った。こんな行動は今まで考えられなかったこと
だ。
ゾンビになって良かった、と初めて思った。
「冷たい」
留奈は驚いて思わず手を引っ込めた。
(なんでゾンビになんかなったんだ。結局プラマイ0か?)
くだらないことを考えていると留奈が心配そうに、
「間違ってたらごめん……もしかして病気?」
「いや、むしろ二度と病気をしない体になったんだ」
「意味分かんない」




