方向転換
優介はペットのように沙織の後について回るようになった。
沙織のほうは時々他の男子に気のあるそぶりをして、優介をいら立たせるゲーム
を楽しんでいた。
優介は不安にさいなまれながら、勉学にいそしまなければならなかった。沙織に
公務員――できれば霞が関官僚になれと命じられたため、どうしても一流大学に行
かねばならなかったのだ。
「俺が東大に入れるわけない」
落ち込む優介の背中をどやし、
「優君なら入れるって!」
沙織は漫才の時と同じように持ち上げた。
この女と結婚したら、「できる」と言われながら何でもやらされそうだ。優介は
溜め息をついた。
優介は夕飯の時、両親に告げた。
「俺、高級官僚になる」
父親はハシを持ったまま、ずっこけた。
「どうしたんだ、お笑いは」
優介は青白い顔でうなだれ、
「お笑い芸人なんて、俺には無理だよ」
「高級官僚のほうが無理だろう」
「そうよ、無理よ」
優介はムッとして、
「親がなんで子供の才能を否定するようなことを言うんだ。『やればできる』って
励ますのがフツーだろっ」
今度は父親がうなだれ、
「お前を大学にやる金ができるかどうか」
「やればできるよ」
今度は父親がムッとする。
「お前、簡単に言うがな」
「目指しているのは東大だから、そんなに掛からないよ」
「気軽に言ってるけど、東大なんて入れるのか」
「自力じゃ無理。進学塾に通わせて」
「そんな金は無い!」
父親が断言した。
「塾に行ったって、東大なんか無理よ」
母親が駄目押しをした。優介は首を垂れ、
「分かってるんだ、そんなこと……でも、僕は高級官僚を目指さなきゃならないん
だ」
「なんで」
軽く聞いた母親を、優介は恨めしそうに見た。
「言いたいけど、言えないんだよ!」
生気の無い顔によどんだ目。死体のような不気味な顔に、両親は身震いした。二
人とも優介が、いつもの息子ではない何ものかになっているように感じていたのだ。
しかし、なぜそうなったのか、聞きたいようで聞きたくなかった。原因が分かって
も、自分達では何もできないのではと恐れていたからだ。
優介のほうは言いたかった。なぜゾンビになったのかを――。しかし、言ったと
ころで信じてもらえないだろう。
三人とも無言でギョーザをかじっていた。
「ごちそうさま」
やがて優介が御飯を半分も残して、席を立った。
「食が細くなったわ……食べ盛りのはずなのに」
母親がつぶやく。
「やっぱり病気かなあ。医者に診せたほうがいいんじゃないか」
「だって、本人は絶対いやだって言うのよ」
「その点が怪しい」
「怪しい……って、どう怪しいの」
父親は唾を飲み、
「それは……優介が知っているんだ。大きな秘密があるんだよ。でも、言えるよう
な事じゃないんだろう」
「秘密……」
母親はゾンビのように青ざめた。




