恐ろしい愛
優介は自分の部屋で胸をなで下ろしていた。
(『塾に行かせてもらえないから、東大も無理』と沙織に言って、高級官僚の件は
あきらめてもらおう)
区役所の職員程度なら、なれるだろう。以前の自分なら、考えてもみなかった仕
事だが。
それにしても夢を失うとは、なんとつらい状態か。
まるで生ける屍みたいな状態だ。
実際そうなのだ。
(このままなら、死んだほうがマシじゃね? てか、二時になったら死ぬんだった)
沙織が眠って想いが来なくなるからだ。そして自分の心臓は止まる。
(女ってのは分からない)
眠るとき意外、ずっと俺のことを想って、それで楽しいのか?
苦しいだけじゃないのか?
そうだ、よく再会番組で母親が「あなたを忘れたことは一日も無い」なんて子供
に言う。あれと同じかもしれない。
すごい根気だな。俺だったら、一年もしたら忘れるだろう。いや、半年持つかも
分からない。
いま自分は生きている。沙織が俺のことを想っている証拠だ。彼女の愛(?)で
生かしてもらっている。そして、彼女は俺が安定した職業に就き、俺と一緒に安定
した生活を送りたいと思っている。それによって、自分の心が安定するからだ。こ
れが彼女のいわゆる愛なのだ。俺の夢を奪って生ける屍のように――実際モノホン
のゾンビにしておいてだ。
「おお、こわ、愛って」
勉強する気など全く湧いてこなかった。
優介は机の引き出しからゲーム機を取り出すと、全てを忘れて画面に集中した。




