死人の顔色
沙織に聞きたいことが山ほどある優介は、学校を休む気などまるで無かった。
半眼で歩く優介の前に、左折してきた自転車がぶつかった。
「すいません」
謝ったのは優介のほうだ。相手が怖そうなお兄さんだったからである。
自転車が行ってしまうと、ぶつかった手に青アザができているのに気づいた。し
かし、ほとんど痛みを感じない。死体だけあって、鈍感になってしまったのだろう
か。
優介は微苦笑を浮かべて、つぶやいた。
「これだと注射した時、蚊に刺されたぐらいにしか感じないだろう」
学校に着いたら、こういう体にしてくれた沙織に、じゅうぶん礼を言わねばなら
ない。
肩を怒らせて教室に入ったゾンビは、沙織の姿を探したが、まだ来ていないよう
だった。
溜め息をついて自分の席に座ると、佳治がやってきた。
「よう、昨日の子とデートでもしたのかい?」
からかおうと思って優介を見た佳治はゾッとした。病人かゾンビのように顔色が
悪い。事実は後者であった。
「顔色が悪いんで驚いただろ」
「あ、ああ。女の子の日か」
いつもなら苦笑して佳治の胸をたたくところだが、そんな元気も無い。
「ふざけないでくれよ」
寂しげに微笑んだ。
「なんなんだ、その死にそうな風情は」
もう死んでるんだよ、とも言えない。優介は溜め息をついてうな垂れた。
「おい、そんなんでお笑いなんかできねーぞ。しゃきっとしろや」
「ああ」と言いながら顔を上げたその時、沙織が教室に入ってきた。
優介は、恐ろしい形相で沙織を睨みつけると、お年寄りのようにゆっくりと立ち
上がり、彼女の席に近づいていった。
「おい、沙織。聞きたいことが、い――――っぱいある」
「なに?」
シラッとした顔で聞き返す沙織。
「こんなところで話せる内容じゃない。一緒に来てくれ」
「あーっ、優介君、沙織に告るんだ」
沙織の親友・美奈子がはやし立てるように言った。
「違う! 大事な話があるんだ」
「だから『付き合ってくれ』って話でしょ」
「そんなこと絶対言わない!」
留奈が既に来ており、こちらをジッと見ていたため、優介は必死で否定した。
沙織はフッと笑い、
「まあ、そう興奮しないで。心臓に悪いよ」
「大丈夫だ。あれ以来、動悸が速まることは全然ない」
「あっそう。落ち着いたんだ。よかったね」
「よかった……?」
優介は沙織に対して殺意を感じたが、彼女を殺したら自分の心臓は止まってしま
う。
「とにかく、一緒に来てくれないか」
沙織はうなずくと、優介の後について教室を出ていった。




