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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
51/55

上辺だけの言葉たち

次回更新5/18予定です。


 ロアンが授業を受ける中、ヴィエラ達は客間で第一王子ことアレクシスを歓待していた。


「殿下。よろしければこちらのクッキーもお召し上がりください。西部辺境伯の第一夫人、ラディア様に教えていただいた隣国のお菓子ですのよ」

「隣国ですか。それはうれしいですね。ありがたくいただきます」


 アレクシスが手を伸ばしたのは、料理長が焼いたジンジャークッキーだ。子供にとっては刺激的とも言えなくはないが、アレクシスは笑顔を浮かべたまま食み、変わらぬ声音で「おいしいですね」と答える。


 ヴィエラはその姿を「心底つまらない」と思って眺めていた。


 同じクッキーを食べたというのに、ロアンとアレクシスでは全く反応が違う。せめて少しでも表情が変われば可愛げを感じただろうに、何も変わらないのだから白けるのも無理はなかった。


「殿下は北部に到着するまでの間、いかがお過ごしだったのでしょうか」


 そう問いかけたのは長子のエルディオンだ。幾ら見合いを兼ねた視察とはいえ、今のヴィエラに相手をさせるわけにはいかない。そう判断した全員がその場に残り、こうして会話を繋いでいる最中だった。


「二週間ほど、婚約者候補のご令嬢たちの家門を回っていました」

「それは大変でしたね」

「いえ、有意義な時間でしたよ。みんな歓迎してくれましたから」


 穏やかな空気の中、ヴィエラは無言で紅茶を嚥下する。そんなヴィエラの隣に座っていたイリアスは、妹の凍てつくような空気に「居心地悪ぃ……」と肩を縮めた。


「みなさまはどのようにお過ごしだったのですか? やはり、領地の視察でしょうか」

「それもありますが、西部の辺境伯にも挨拶をする必要があったため、先日まではアルカディウス家にいました」

「アルカディウス家……。西部の辺境伯ですね。僕はまだ一度もお会いしたことがないのですが、どのような方なのでしょうか」


 自分から口にしておきながら、アルノアはどう答えるべきか悩んだ。

 何せ現当主であるレオニスは王家を嫌っている。それにあの豪快な男を穏やかな言葉で伝えるのは難しい。思わず口を噤んだアルノアに代わり、セラフィアが「賑やかな方ですわ」とうまくぼかす。


「西部は過酷な土地ですから。ですが、士気の高い兵が多く、活気がございます。殿下にとっても勉強になると思いますわ」

「そうですか。西部には行ったことがないので、一度立ち寄ってみたいですね」


 ヴィエラからしてみれば茶番にも感じる表面上だけの会話が続き、気もそぞろになる。そんな中、ヴィエラの限界を察したイリアスがアレクシスにこんな提案をした。


「殿下。殿下も剣術を習い始めたと耳にしました。よろしければ兵士の訓練を見に行きませんか?」

「え。いいのですか?」

「ええ。構いませんわ。エルディオン、イリアス、殿下をお願いね」


 遠回しに自分とヴィエラは参加しないことをセラフィアが伝えれば、二人も「了解」と言わんばかりに頷く。


「それでは、私は仕事がございますので、これで失礼いたします」

「ああ。公爵も忙しい中ありがとう」


 アレクシスが席を立ったアルノアに礼を告げる中、エルディオンとイリアスは両側から間に座らせたヴィエラにこっそり話しかける。


「今日は僕達が殿下の相手をするけど、明日からはヴィエラも頑張るんだよ」

「殿下のことは俺達が引き受けるから、夜までに機嫌を戻してくれよな」

「……感謝しますわ。お兄様」


 ヴィエラも自分がここまで我慢出来ない人間だと思っていなかった。だが本当に嫌う相手とは一秒も一緒にいたくないのだと改めて実感する。

 結局その後アレクシスはエルディオン達と共に訓練場へと赴き、そこでひと汗流した。


 一方ヴィエラは、いつも通り専属侍女のフィリアとリゼルを伴い自室へと戻り、着替えを済ませる。

 そのまま一息つくかと思いきや、ヴィエラは止まることなくその足で別邸へと向かった。



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