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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
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エルドアン王国


 アレクシスが公爵家に迎え入れられる中、ロアンは別邸でカイラスから授業を受けることになっていた。一方のカイラスも、真っ青になったメアリから『王子と遭遇してしまった』と報告され、頭を抱える。


「ロアン、お前なぁ~、公爵様達から言われてただろ。今日は“お客様”が来るからウロチョロするな、って」

「そうですけど……。でも、むこうから話しかけてきたんですよ?」

「でもじゃねえ。そもそも『本邸に行くな』って話なんだよ。今回の“お客様”はそこらの貴族と同等に扱っちゃいけない相手だからな。何故か分かるか?」


 ロアンは門前に立っていた自分より少し背の高かった少年を思い出し、首を傾ける。


「わからないです。お名前聞いてないので」

「はあ~……。そこからからよ……。いいか、ロアン。今回のお客様はこの国の『第一王子殿下』だ。王子様なんだよ」

「え! 王子様だったんですか?!」


 本当に知らなかったロアンが驚きを露わにすれば、後ろに立っていたメアリがコクコクと頷く。カイラスは改めてロアンの授業を真面目にしなければと頭を掻きながら、固まるロアンに「そうだ」と頷いた。


「丁度いい。王子が来たことだし、この国や辺境についての話をするか」

「はい! よろしくお願いします!」


 席に着いたロアンの前に立ち、カイラスは『教師らしく』授業を始める。


「まずこの国、エルドアン王国の成り立ちについて話すぞ」

「はい!」

「始まりは一つの小さな部族と一人の商人、一つの国が手を組んだ時だ。それが南東を纏めているセルディア公爵家、そして北西を束ねるグラディアス公爵家、最後に王家の始祖であるエルドリアス家になっていく」


 カイラスは公爵家が用意していた教本を開き、当時の簡易的な地図を見せる。


「国が興った時代──各国の領土争いが絶えなかった時代を『暗黒時代』と呼んでいるんだが、その時代に初代国王陛下となる一人の青年が立ち上がり、力を合わせようとセルディアとグラディアスに声をかけた。これに応じた二家と手を組み、今のエルドアン王国が出来たんだ」

「じゃあ、さいしょは国がなかったんですか?」

「あるにはあったが、国と呼ぶにしては小さかったな。そもそも『国』として存在していたのはグラディアスが治めていた公国ぐらいだ。つまり、ここも昔は『国』だったんだよ」

「おお……公爵様たち、すごい」

「厳密に言うとそのご先祖様だがな」


 ロアンが改めて『グラディアス家』のすごさを実感する中、カイラスは淡々と説明を続ける。


「で、新たに国を興した彼らの元に、今度は東西南北それぞれに『辺境伯』と呼ばれる存在が加わることになる。この四家も、元は違う部族や国だ。俺達『アルカディウス』もな。元々西部一帯を治める『王国』だったんだ」

「王国?! じゃあ、カイラス先生も『王子さま』なんですか?!」

「ああ。便宜上『第四王子』にあたる。ま、エルドアン王国では単なる『辺境伯の四男』だがな」


 それでもアルカディウス家は西部の住民にとって『王』という認識が強い。エルドアン王国の中央に王家がいることは分かっているが、顔も知らない王族より、身近な『元王族』である族長一家を敬うのは当然とも言えた。


「うちと似たような存在が東部の辺境伯──マルコス家だ」

「東部の辺境伯……」

「ああ。貿易の要とも言われている東部に住まい、海賊から我が国を守っている。元は隣国との間にある小さな島々を“連合国”として統べていたんだ。だから普通の『国』と違ってなんつーか……“貴族らしさ”はないな。海と共に暮らす住人だからか、男は荒っぽく、女性は明るいと聞く。ま、行ったことはないから噂でしかないがな」

「なるほどぉ」


 実際に東部に行ったことがないカイラスであっても、学生時代に東部出身の生徒とは接したことがある。彼ら、彼女らは良くも悪くも王都では考えられないような気さくさと明るさを持っていた。

 だが私的な話をする場面でもないので、すぐに講義を続ける。


「次に南部の辺境伯、ヴェルン家だな。ロアン。お前も南部出身なんだから名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないのか?」

「うーん……ぼく、おうちではあまりそういう話を聞いたことがなくて……」


 しょんぼりと肩を落とすロアンを見て、その過去を思い出す。普段明るく懐っこいから忘れていたが、ロアンは家族から背を向けられて育ったのだ。メアリからも首を横に振られたため、カイラスは「悪かったな」と謝罪する。


「知らねえなら教えてやる。南部ってのは国の食糧倉庫みたいな土地でな。殆どの作物が南部で育てられている。だから他国から狙われやすく、争いが絶えない」

「でも、ぼくあぶない目にあったことないですよ?」

「それだけヴェルン辺境伯が守ってくれてる、ってことだよ。実際、南部は最も戦地となった場所だ。北西と違って要塞となる山脈もない。他国が侵入しやすく、作物を焼き払えば打撃を与えることが出来る。南部の防衛線っていうのは、実のところ一番重要で大変なんだ」


 カイラスが示した地図には、北西の背後を守るようにして連なる山々が描かれている。だが南部にはそれがなく、他国と地続きであることが見て取れた。


「じゃあ、今もせんそうが起きているんですか?」

「最近は少ないみたいだが、前は大規模な戦いがあった。敵やスパイがいつ来るか分からないからな。辺境伯ってのは基本的に気が抜けない、大変な仕事なんだ」


 カイラス自身辺境伯の息子だから分かる。中央の貴族からは『田舎者』扱いされるうえに、常に危険と隣り合わせの生活だ。嫁ぎたいという女性も多くない。それでも辺境が突破されれば中央などすぐ崩されてしまう。


「──だからこそ『グラディアス』がいる」


 カイラスは見上げて来るロアンに対し、しっかりと言い聞かせるように目を合わせる。


「いいか。グラディアスは『公爵家』であると同時に『北部の辺境伯』でもある。そして国家全体の防衛を任された『軍のトップ家門』だ。だからこそ各辺境伯は自領が危険と判断した場合、グラディアスに救援要請を出す」


 何故なら『軍務』を一任されているからだ。グラディアスは『緊急時においては王家の命なく軍を動かすことが出来る』という特殊な権利を持っている。

 本来であれば危険な権利だ。軍を悪用されかねないのだから王家としては取り上げたいだろう。だが一度も国家を裏切ったことのない『国の剣であり盾』である公爵家だからこそ、この権利が許されている。


「つまり、実質グラディアスが『最後の砦』だ。ここが倒れたらどの道国は崩れる」

「そこまで、なんですか……?」


 今まで散々『公爵家はすごい』と思ってきたロアンだったが、この家が背負うものがいかに大きいか。ようやく肌で感じ始め、恐れすら抱く。だがそれを否定してやるほどカイラスは優しくない。


「そうだ。辺境含め、グラディアスは『国防のために存在する』家門だ。いざとなったら当主であろうと戦場に向かう。それが“グラディアス”の名の元に生まれた者の務めなんだよ」


 その一言はヴィエラを慕うロアンに取って酷く衝撃的で、重たくのしかかった。



すみません。予約投稿出来ていませんでした。

次回更新5/16予定です。

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