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レディ・ヴィエラは揺るがない  作者:
幼少期-領地編-
48/55

ヴィエラの天敵


 エルドアン王国の第一王子ことアレクシス・ラディウス・エルドリアスは、現在馬車に揺られていた。


(公務とはいえ、さすがに疲れるな……)


 六歳と言えばまだ遊びたい盛りだが、アレクシスは王族だ。課せられた義務がある。そのうちの一つが『婚約者候補』の家々を回る──俗にいう『お見合い』を笠に着た『視察』だった。


(名目上は『婚約者候補』との交友だが、父上はもっと別のなにかを見てこいと言っている気がする……。おそらく王家に不満や反乱の意思がないかの確認をしてこい、ということだろうが、本当にそれで“合っている”のだろうか)


 アレクシスは父親であるセリオスと会話をすることが殆どない。国王という忙しい身だ。普通の父子のように過ごすことは難しい。だが父親と対峙する度、アレクシスは思うのだ。


 あの何の感情も宿していない、どこか空虚な父親と積極的に接する気にはなれないな、と。


 母も同じ気持ちなのか、ミリアンナもセリオスと積極的に関わろうとはしていない。勿論公務や必要な確認事項があれば言葉を交わしているが、精々その程度だ。『恋愛結婚をした』と噂される夫婦にしてはあまりにも義務的だった。


(だが、それが『王族』なのだろうな。僕たちは、それが”つとめ”なんだ)


 アレクシスは賢いが故に、六歳であるにも関わらず分かってしまった。己の立場や役割が。

 だからこそ揺れる馬車の中で、ようやく見えてきた北部の公爵邸を見て呟く。


「なにか、おもしろいことがあればいいのだが……」


 どの家も面白みがなく、ただ令嬢たちのご機嫌伺いをするだけの空虚な時間だった。

 だからこそアレクシスは自身を嫌悪するヴィエラと向き合えば何か得られるのではないかと、そんなことを考えていた。


 一方その頃、ヴィエラはアレクシスが来ると聞かされておらず、いつになく憤慨していた。


「どうして教えてくれなかったのです?! あの凡骨──第一王子が来ると!」

「あら。お前に怒る権利があるかしら。王子と二回目のお見合いを仮病で断ったお前が。いいこと? ヴィエラ。あの時王子は口頭でも伝えてきたし、書状も渡してきた。仮病を使い、その場にいなかったお前は『責任を放棄した』と判断出来るわ。そのうえ何があったのか、代わりに私がどんな対応をしたのか、聞きもしなかったわね? だから私も伝えなかったのよ。責任を放棄するとどんなことが起きるのか、お前に学ばせるいい機会だったから」


 辛辣ではあるが、立場ある者として正論と責任を説くセラフィアに返せる言葉はない。


 実際、ヴィエラは第一王子であるアレクシスと顔を合わせることが嫌で、二度目のお茶会兼お見合いを仮病で断ったのだ。その代わりに王子を迎え入れ、もてなしたのは母であるセラフィアである。

 アレクシスの叔母にあたる関係とはいえ、今は公爵夫人。自身の行動がどう繋がるのか、娘に教える必要があった。

 だからこそ秘匿していたセラフィアは、苦虫を噛み潰したような顔をするヴィエラを静かに見下ろす。


「使用人たちが用意している間も、お前は無関心だったわね。ロアンと過ごす時間を大切にするのは悪いことではないわ。ですが、上に立つ者として、統治する者として、周りの変化に無関心でいることは許されることではありません。分かったのなら今後は気を付けなさい」

「……はい、お母様……」


 ヴィエラもセラフィアの言い分が『正しい』と理解出来たからこそ、悔しさを飲み込み頷き、頭を下げる。

 だがそれはそれとして、あの『空っぽ王子』の相手をするのは心底から嫌だった。


「では、愚かなわたくしにお教えください。あの凡こ……王子はいったいいつまで我が家に滞在するのですか?」

「三泊四日よ。その間しっかり、義務として『婚約者候補』として王子をもてなすこと。いいわね?」


 ヴィエラは心底から「最悪……」と口にしたくなったが、どうにか耐えた。これ以上の失態を晒すわけにはいかないからだ。

 それに今回は自身の行いが悪かったことも自覚している。学んだ以上生かさなくてはならない。


 ヴィエラはスカートの裾を摘まんで退室の挨拶をし、これから訪れる憂鬱に深く息を吐き出したのだった。



次回更新5/12予定です。

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