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雛鳥の羽、あるいはアイドルの証

ダンスバトルから数日が経ち、ぴかりが丘学院の空気は一変していた。


放課後、レッスンルームの重い扉を開けた星空みゆきを待っていたのは、かつての敵意ではなく、どこか奇妙な、けれど熱い連帯感だった。 「あ、みゆき。遅いわよ」 なぎさが、鏡の前でストレッチをしながらぶっきらぼうに言った。その隣には、相変わらず無表情でタブレットを眺める月影ゆりと、おどおどとリズムを確認している黄瀬やよいの姿がある。


「ごめんごめん! ちょっと担任の先生に捕まっちゃって……」 みゆきが慌てて着替えようとしたその時、部長の日向咲が、大きなダンボール箱を抱えて部屋に入ってきた。


「はい、注目! 新入生のみんな、おめでとう。今日からあなたたちは、正式に『ぴかりが丘学院アイドル部』のメンバーだよ。これは、その証だ」


咲が箱を開けると、そこには漆黒のジャージが人数分収められていた。背中には、金色の糸で大きく『PIKARIGAOKA』の文字と、羽を広げた烏のロゴが刺繍されている。


「……かっこいい」 みゆきが震える手でそのジャージを手に取る。中等部時代、たった一人で練習していた彼女にとって、それは「仲間と同じ服を着る」という初めての経験だった。


「ふん、デザインは悪くないわね。……でも、中身が伴わなければただの布きれよ」 ゆりは毒づきながらも、迷うことなくその袖に腕を通した。やよいも、嬉しそうに自分にぴったりのサイズを選んでいる。


全員が黒いジャージを纏った瞬間、バラバラだった少女たちの意識が、一つの「チーム」として引き締まった。かつて「最強」と謳われ、今は「飛べない雛」と揶揄される烏野……もとい、ぴかりが丘の逆襲が、ここから始まるのだ。


「さて。形が整ったところで、副部長のせつなから発表があるわよ」 咲に促され、東せつなが手帳を開いた。


「今週末、合同公開リハーサルが決まったわ。相手は、市内の強豪——『私立ノーブル学園』アイドル部」


その名前が出た瞬間、レッスンルームの温度が数度下がったような気がした。なぎさの顔が、険しく歪む。 「ノーブル学園……。あそこは、私の北川第一時代の先輩がセンターを務めているチームよ」


「そう。通称『大王様』、青乃美希。彼女が率いるユニットは、完璧な調和と、相手の弱点を容赦なく突く戦略的なパフォーマンスで知られている。今のあなたたちがどこまで通用するか、試すには絶好の相手よ」


みゆきはゴクリと唾を呑んだ。「大王様……なぎささんよりも、すごい人なの?」


「……性格の悪さは私の比じゃないわよ。でも、パフォーマンスの精度と、客席の熱狂を支配する力は本物だわ」 なぎさの言葉に、ゆりが冷ややかな笑みを添える。「あら、女王様がそんな弱気なんて。でも、面白いじゃない。今の私たちが、そのエリート様にどこまで泥を塗れるか……楽しみね」


「よし。リハまではあと三日。新入生は、特にみゆきとなぎさの『変人コンビネーション』を完成させること。いい? 私たちはもう、一人で戦ってるんじゃないんだから」


咲の力強い言葉に、全員が短く、けれど鋭く返事をした。


その日の練習は、これまで以上に激しいものになった。なぎさの高速な刻みに、みゆきが目をつぶってでも合わせる。技術的に不可能なはずの動きを、みゆきは野生の勘と驚異的な瞬発力で「繋いで」いく。 それを見守る咲、せつな、そしてみなみの表情には、確かな希望が灯っていた。


「……ねえ、なぎささん」 練習の帰り道、夜風に吹かれながらみゆきが切り出した。 「私ね、このジャージをもらった時、本当に嬉しいって思ったんだ。一人じゃないんだって。土曜日、私、絶対に失敗しないよ。なぎささんのパスを、最高の形で見せてやるんだから」


「……当たり前よ。失敗したら、その場でセンター交代なんだから」 なぎさは相変わらず厳しい口調だったが、その瞳はみゆきの真っ直ぐな情熱を、真っ向から受け止めていた。


「小さな巨人」が羽ばたいたこの場所で、新しい烏たちが今、再び空を見上げている。 相手が「大王様」だろうと、エリート集団だろうと関係ない。 自分たちのリズムを、自分たちの「繋ぎ」を、世界に見せつけるために。


ぴかりが丘の夜空に、少女たちの誓いが静かに、けれど熱く溶けていった。

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