単細胞の誓いと、月夜の挑戦状
「お願いします! もう一度だけ、チャンスをください!」
ぴかりが丘学院の長い廊下に、星空みゆきの声が響いた。
閉ざされた第2レッスンルームの前で、みゆきは腰を直角に折っている。隣では美墨なぎさが不本意そうな顔をしながら、それでも同じように頭を下げていた。
重い扉が開き、部長の日向咲が姿を現す。
「昨日はあれだけ言い争っていたのに、今日は二人そろってお願い?」
「はい! 土曜日に、新入生の顔合わせライブがあるんですよね?」
「誰に聞いたの?」
「廊下の掲示板に書いてありました!」
咲が苦笑する。
みゆきは胸の前で両拳を握った。
「そこで、私となぎささんが同じユニットとして踊ります。ちゃんと一つのステージを作れたら、入部を認めてください!」
「ちょっと、勝手に話を進めないで」
なぎさが低く言う。
「だって、なぎささんも入部したいんでしょ?」
「当たり前よ。でも、私はあなたと仲良しごっこをするために来たんじゃないわ」
「私だって仲良しごっこなんて言ってないよ。勝つために協力するの!」
二人の視線がぶつかる。
数秒前まで一緒に頭を下げていたとは思えない険悪さだった。ダンスリーダーの海藤みなみが額に手を当てる。
「こいつら、本当に大丈夫なの?」
「だからこそ、試す価値があるんじゃない?」
咲はそう答え、二人に向き直った。
「いいよ。土曜日の顔合わせライブを、あなたたちの入部試験にする。ただし、条件がある」
咲は人差し指を立てた。
「新入生二人と、上級生のサポート役一人で組む三人ユニット。同じ条件の相手ユニットと、十五分間のパフォーマンスをしてもらう。見るのは、ダンスの技術だけじゃない。歌、表情、構成、そして三人が一つのユニットとしてお客さんを惹きつけられるか」
咲は言葉を切り、なぎさをまっすぐに見た。
「美墨なぎさ。あなた一人が目立っても合格にはしない」
なぎさの眉がわずかに動く。
「わかっています」
その日から、みゆきとなぎさの放課後は一変した。昼休み、二人は空き教室を借りて振り付けを合わせた。だが、最初はまるで噛み合わない。なぎさが正確なリズムを刻めば、みゆきは勢い任せに動いてタイミングを外す。みゆきが思いきって跳べば、なぎさの音がその高さに追いつかない。
「もう一回」
「もう一回!」
何度も繰り返すうちに、日は傾いていく。
「なぎささん。昨日の一拍、覚えている?」
「うん」
「私の足を見るんじゃない。音の入り口を見るの」
「音に入り口なんてあるの?」
「あるわ。私が作る」
なぎさが息を吸う。
みゆきは膝を曲げ、床を踏みしめた。音楽が流れ、最初の八拍で右へ移動、四拍でターン。二人の靴音が、昨日より少し長く重なった。まだ揃ってはいない。それでも、昨日までは互いを押し退けていた二つのリズムが、初めて同じ方向へ進もうとしていた。
土曜日、午後二時。ぴかりが丘学院第2レッスンルーム。壁際には審査役の日向咲と東せつなが座り、中央には記録用のカメラが設置されている。向かい合う二つの三人ユニット——月影ゆり、黄瀬やよい、二年生のサポート役。そして、星空みゆき、美墨なぎさ、三年生の海藤みなみ。
みなみが二人の背中を力強く叩いた。
「いい? 私が合わせてあげるなんて思わないで。自分たちで私を巻き込みなさい」
「はい!」
みゆきが大きく返事をする。
なぎさは短く息を吐き、正面のゆりを見据えた。
咲が立ち上がる。
「制限時間は十五分。歌、ダンス、表情、構成、そして三人の連携を総合して判断する。これは勝った方だけが残る試験じゃない。自分以外の誰かと、一つのステージを作れることを証明するための選抜ライブだ」
みゆきは隣を見た。なぎさは正面を向いたまま、右手をわずかに開いている。昨日までなら気づかなかった、小さな合図。最初の移動方向を示す合図だ。みゆきは同じように、指先だけを動かして応えた。準備はできている。
咲が手を上げる。
「それでは、新入生選抜ライブを始めます」
イントロが流れ出した。なぎさが最初の一歩を踏み出す。みゆきも、同じ瞬間に床を蹴った。




