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ぴかりが丘学院アイドル部

「……なんで、あなたがここにいるのよ!」 「それはこちらのセリフ! あなたこそ、もっと『まともな』ところへ行くんじゃなかったの!?」


鏡張りのレッスンルームに、二人の少女の怒号が響き渡る。星空みゆきは、あまりの衝撃に足が震えていた。三年間、ずっと倒すべき「壁」として見据えてきた美墨なぎさが、あろうことか自分と同じぴかりが丘学院の制服を着て、目の前に立っている。


なぎさは苛立ちを隠そうともせず、長い髪を乱暴にかき上げた。「ベローネ学院の高等部に上がれなかったわけじゃない。あそこは……組織が大きすぎて、私の『理想』とはズレが生じただけよ。それよりあなた、その実力でよくこの学校の門を叩けたわね」


「な、なによ! 私だって、ここで『小さな巨人』みたいに輝くんだから!」


二人が今にも取っ組み合いを始めそうな勢いで睨み合っていると、レッスンルームの重い扉が再び開いた。


「おーおー、朝から元気だねえ。新入生かな?」


入ってきたのは、柔和な、けれどどこか芯の強さを感じさせる瞳をした三年生の日向咲だった。その後ろには、控えめながらも知的なオーラを纏った東せつなが続いている。さらに、背が高く鋭い目つきをした海藤みなみが腕を組んで二人の背後に立った。


「あ、あなたが部長の……」 みゆきが息を呑むと、咲は快活に笑って手を差し出した。「そう、アイドル部部長の日向咲。こっちが副部長の東せつな。で、こっちがダンスリーダーの海藤みなみ。よろしくね、期待の新人さん」


なぎさは一瞥して、短く「美墨なぎさです」とだけ名乗った。その名前を聞いた瞬間、咲たちの表情がわずかに変わる。 「美墨……あの中等部MVPの、『センターの女王』か」


みなみが一歩前に出て、なぎさを値踏みするように見つめる。「評判は聞いてるわよ。精密機械のようなリズム感と、周囲を切り捨てるような冷徹なパフォーマンス。でも、ここは『チーム』の場所よ。一人で踊りたいなら他所へ行きなさい」


なぎさの眉がピクリと跳ねる。その一触即発の空気を割ったのは、意外にもみゆきの叫び声だった。


「あの! 私、星空みゆきです! 初心者ですけど、一生懸命頑張ります! だから、なぎ……美墨さんになんて負けません!」


なぎさは鼻で笑った。「『一生懸命』が通用しないって、あのオーディションで学ばなかったの? あなたのその無駄な動き、見てるだけでイライラするのよ」


「なんですって!?」


二人は再び言い争いを始め、ついには練習用のフォーメーションを巡って、互いのダンスの未熟さや性格の難しさをなじり合う泥沼の展開に突入した。それを見ていた咲は、ふっと笑みを消し、静かに二人を制した。


「……二人とも、そこまで。ぴかりが丘アイドル部はね、かつては『全国ドームツアー』も成し遂げた名門だった。でも今は、見ての通り部員も減って、実力も落ちてる。私たちがもう一度あのステージに立つために必要なのは、いがみ合う二人の天才じゃない」


咲はレッスンルームの片隅に置かれた、公式戦用の揃いのライブ衣装を指差した。


「『仲間』として背中を預けられない子に、この衣装を着せるわけにはいかないの。お互いを認め合って、一つのユニットとして機能するまで、あなたたち二人の『入部』は認めないわ」


「えっ……!?」 みゆきが絶句する。なぎさも、信じられないという表情で咲を見つめた。


「ちょっと待ってください! 私は……!」 なぎさが食い下がろうとするが、咲の決断は固かった。


「今ここで二人で即興のペアダンスを踊ってみて。一箇所でもリズムがズレたら、今週いっぱいはレッスンルームの使用を禁止するわ。外で二人で頭を冷やしてきなさい」


咲から提示された課題は、基礎中の基礎であるはずのステップだった。だが、お互いに反発し、相手のリズムを全く信用していない二人のステップが合うはずもない。みゆきはなぎさの高速ステップに合わせようとして転びそうになり、なぎさはみゆきの不規則な躍動感に苛立ってわざと自分のテンポを突き通した。


「……最悪」 せつなが小さく呟いた。


「話にならないわね。二人とも、外へ。協力して何かを成し遂げる覚悟ができるまで、このドアを叩かないで」


咲のその言葉と共に、みゆきとなぎさはレッスンルームから放り出された。春の冷たい風が、廊下を吹き抜ける。


「……あなたのせいよ。この、運動神経だけが取り柄の素人!」 「何よ! あなたが可愛げがないから、部長さんに怒られたんじゃない!」


廊下でも言い争う二人だったが、みゆきはふと、自分たちを拒絶したはずの咲の瞳を思い出した。あれは、突き放したんじゃない。試されているのだ。


「……ねえ。私、絶対にあきらめないから。あなたを倒してセンターに立つって決めたけど、それ以上に、このぴかりが丘で歌いたいんだ」


みゆきはなぎさを真っ向から見据えた。 「協力してあげてもいいよ。あなたが私に、ちゃんとパスを……リズムを回してくれるなら」


なぎさは忌々しそうに顔を背けたが、その拳は固く握られていた。 「……私が合わせるんじゃないわ。あなたが私の完璧なリズムに、死ぬ気でついてきなさい。それができないなら、今すぐアイドルの夢なんて捨てなさい」


最悪の相性。噛み合わないリズム。 けれど、二人の共通点はただ一つ——「ステージの上にいたい」という狂気にも似た渇望。 ぴかりが丘学院の渡り廊下で、凸凹な二人の特訓が始まろうとしていた。

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