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ショセン決着

轟道は元々、槍術の師範だった。

師範にしては若いながらも、実力を兼ね備えており、武術界でも有名になっていた。

しかし、ある日、轟道は忽然(こつぜん)と姿を消す。


轟道の存在が忘れられ、数十年が経過した時、彼は幽霊のように、道場に現れた。


しかも、前より実力を付けて帰ってきたのだ。


そんな轟道が使う槍術は......『宝蔵院流槍術(ほうぞういんりゅうそうじゅつ)』!!!


胤栄(いんえい)という男が水面に映る三日月を見て編み出したとされる槍術で、あの宮本武蔵も教わったという。


そして、その歴史を継承し、日本に勝利をもたらさんと、今、轟道は闘う!!!



「おい、ジャパン! 速く逃げるぞ......!」

デンマークの審判がそう呼びかける。


「え?」

神橋は困惑する。


「良いから、速く......!」

(ルウェットさん、あの技をやる気だ......!)

戦場から、二人の審判が去っていく。



「待ってくれるなんて、優しいじゃねぇか」

ルウェットが挑発するようにして、笑う。


「じゃあ、行くぞ。先のお返しだ」

轟道の十文字槍が最短の軌道を描き、ルウェットへ(うな)りを上げる。


(ちっ、これが寝起きの動きかよ......!)

ルウェットは完全に回避仕切れないと悟り、パルチザンを間に挟み込んだ。


ルウェットの驚異的な腕力で支えられたパルチザンが十文字槍を受け止める。


それでも、威力が殺し切れず、ルウェットの左胸にパルチザンの刃が斬り込みを入れる。

しかし、強靭な筋肉が食い止めたおかげで大事には至らない。


(常人離れした耐久力だな)

轟道はその光景に内心驚くが、表情を崩すことなく、戦闘態勢に入る。


(追撃が......来る!)

ルウェットは自身の血で染まるパルチザンを引き抜き、正眼に構えた。

「来てみろォ!」

ルウェットが上げるは、魂の雄叫び。


「これが受けれるか」

轟道がするのは、いつもの突きの構えだ。

しかし、放たれるそれは、常軌を逸していた。

刃が拡大して見えたのだ。

そうとしか表現のしようがない。


「まだ、ここまでの余力を残していたか! だがな......!」

ルウェットが全集中。

(極限まで引き寄せる)

ルウェットは槍撃が届く直前に体を横に逸らす。

それでも、槍を横腹にもらうが、お構い無しにパルチザンを回転させる。


「正直、ここまでやれると思ってなかった。尊敬に値するぜ、ミスター轟道」

ルウェットは螺旋を描くように槍を突き出す。

槍の速度は轟道のと比べても遅すぎるが、その刃には巨大な岩を砕かんとするパワーが秘められていた。


槍を放ち終わった轟道にとって、それは絶体絶命の一撃。


勝負は明白......誰もが、そう思っていた。


「おっと、忘れてしまったか? 十文字槍の三つの機能を」

そう言うと、轟道は十文字槍を手繰り寄せる。


(悪あがきか)

その行動に気付き、ルウェットがまた、体を逸らして槍を回避する。


「はっ......まさか!」

ルウェットが勘づくも、時すでに遅し。


轟道が引いた十文字槍の右鎌で、手と手の間にあるパルチザンの柄部分を斬ったのだ。

「引けば、鎌......思い出したか?」


すると、必然的に回転は停止し、猛攻の勢いは無くなる。


「斬られようがな、パルチザンの可能性は無限大なんだぜ!」

柄が斬られもなお、ルウェットは片手で螺旋状の突きを繰り出した。


(片手でこの圧か......! 受けは通じんだろう......が)

しかし、当たるよりも速く、轟道がパルチザンの穂を綺麗に斬り落とす。


「なっ......!」

ルウェットは狼狽(うろた)える。


(さらに斬れば、問題ない)

「これが宝蔵院流槍術、ひいては十文字槍の真骨頂だ。攻撃でも防御でもなく、相手を無力化する力に特化している」

轟道、この男の底が知れない。


「そうか......よっ!」

ルウェットが斬られた柄を投擲(とうてき)する。


轟道が、それを容易(たやす)く回避。


ルウェットは、すかさず、轟道の真逆の方へ駆け出すと、窓ガラスを突き破り、外へ飛び出た。

そして、受け身を取り、ダメージを最小限に抑える。


轟道も同じように動くと外へ行き、壁を伝って地上に降りた。


「なるほどな、降りた理由はそれか」

轟道の視線の先にいたのは、右手にパルチザンの刃、左手にダガーを(たずさ)えるルウェットであった。


「おう、目には目を、歯には歯を、日本には日本を......ってな。日本だと両手に刀を持っている侍をこう呼ぶのだろう? 二刀流と......!」


今に至るまで、ダガーを手元から失い、パルチザンも三分割にされたルウェットの苦肉の策だ。

しかし、彼の異様とも言える脚と腕力なら、もしかすれば、先の一刀流を上回るかも知れない。


「そちらが宮本武蔵ならば、こちらは佐々木小次郎と言ったところか......面白い!」

先に仕掛けたのは、轟道。

相手へ、稲妻の如き速度で鋼の牙を振り下ろした。


「誰だァ、そいつら! 強ぇのかァ!?」

ルウェットが二本の刀を交差させ、受け止める。

続けて、両手の塞がった彼が前蹴りを放つ。


(なんて、体幹だ!)

轟道は、蹴りをもろに貰い、後ろへ吹き飛ばされるが、自らも飛ぶことによって、衝撃を分散させる。


この隙とも言えない隙に、ルウェットが類を見ないほどの脚力で轟道の眼前まで移動する。


そして、ルウェットはパルチザンの刃で斬りつけ、ダガーを突きを行う。

つまり、ルウェットは防御を捨て、攻撃に身を任したのだ。


「ここで、防御を捨てるか」

轟道がルウェットの様子を見て、肩を隆起させると、有り得ない速度で横薙ぎをした。


「防御したら、追撃が来るでしょーが!」

だが、それはルウェットにとって、読めていた。

ルウェットは半歩下がって攻撃を避けると、また爆発的な加速。


(今の俺なら出来る!)


轟道がこれまでに無いほどの力を込めると、放ち終わった槍を無理やり止め、先とは逆の軌道上へ横薙ぎを繰り出す!


「ルウェット、破れたりィィィィィ!」

これが佐々木小次郎の使う、『燕返(つばめがえ)し』である。


(はァッ!?)

その行動は予想外だったのか、回避することが出来ず、ルウェットの腹には深い傷があった。


「カフアッ......」

ルウェットが激しく吐血する。


「今度は俺の番だなァ!」

それでも、ルウェットの闘志は途切れない。

しかし、彼が轟道に近づこうとした、その時。


......ルウェットは突如、地面に膝をついた。

体が言うことを聞かないのだ。


(え......なんで......?)

当然と言えば、当然なのだろう。

この戦闘でルウェットは、深手を肩と胴体に三つほど負っている。

軽傷だけでも、かなりの出血量だ。

いくら肉体が強靭で、精神が強くとも、血が無ければ、人間は動くことすら出来ない。


(やべぇ......これは......ダメなやつだ)

ルウェットは動けずにいた。


トドメを刺そうと轟道が寄っていく。


(せめて......防御を)

しかし、それも虚しく、ルウェットの腕は呼応してくれなかった。


そして......

「お前と闘ったこの時間、とても楽しかったぞ、ルウェット・ハサウェ」

轟道が、正拳突きでルウェットをノックアウトさせる。


「カハァッ......」

その一撃でルウェットの意識が徐々に無くなっていく。


(世界には......強ぇやつがいるんだなぁ......)

ルウェットは意識が朦朧(もうろう)とするも、世界という広いものの強大さを噛み締めながら、ゆっくりと倒れていった。


「はっ!」

デンマークの審判が急いで、ルウェットへ駆け寄る。

少し時間が経つと、その審判が左手を挙げた。


「しょ......勝者は叉都! 轟道!」

デンマークの審判は悔しそうに、そう言った。


「やりましたね! 轟道さん!」

神橋が轟道へ歓喜の声を上げる。


「当然だろう......? 経験の重みが違......って」

轟道は威勢は張っていたが、勝利の瞬間、気が(ゆる)んだのか、地面に倒れ伏せた。

そう、轟道もとっくのとうに限界を迎えていたのだ。


「なっ......轟道さぁぁぁん!」

その場に神橋の叫び声が残る。




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