シアイの鐘
これから、戦闘が始まるということなので、専門用語や難しいと思った漢字は後書きにて、注釈を入れます!
「ミスター轟道、なにか言い残すことはねぇのか?」
「はっ、ほざけ」
二人は槍を構え、体勢を整えていた。
「両者、準備はいいですか!」
デンマークの審判が進行役を務める。
「もちろんだ!」
ルウェットは気楽に声を発する。
逆に轟道は静かに頷いた。
「では、これより、デンマーク代表『ルウェット・ハサウェ』と日本代表『叉都 轟道』による闘いを始めます。すぅー......始め!!!」
審判が戦争の狼煙を上げた。
前と同じようにまたしても、先手はルウェット。
呼吸の合間に轟道のところまで移動し、長柄の槍を振りかぶった。
(速い......っが、少し荒いか)
轟道は反応し、横へ回避。
すると、轟道のいた場所に刃が空を裂きながら、振り落とされる。
「今のは小手調べのつもりだったが......案外、すばしっこいんだな!」
「これだけなら、誰にも負けんわ」
轟道は十字に広がる三又の槍で、ルウェットを突く。
「見え見えだぜぇ!」
しかし、ルウェットが強力なバックステップしたため、それは空振りならぬ空突きに終わる。
轟道はルウェットの眼前まで行くと槍を振り上げ、瞬く間に斬り下ろした。
「おっとぉぉぉ!」
彼は咄嗟に槍でその槍撃を受け止める。
轟道は十字の槍の片刃を奴の槍へ掛けると、思い切りに引く。
そうすれば、無論、ルウェットが轟道の方へ引っ張られる。
(マズイね、こりゃ......!)
その動きを利用し、轟道が強烈な蹴りで顔面をぶち抜く。
ルウェットの鼻からは血が飛び出るもののダメージが薄いのか、彼はピンピンしている。
「なんだぁ......? その槍、怖ぇな......!」
「これか? これは十文字槍と言ってな、昔の戦場では良く使用されていた代物だ」
十文字槍は使い古されているのか、傷や汚れが所々見えるが、それだけ、手に馴染んでいる。
「なるほどな、日本のセンゴクジダイ? の物か。実用性はありそうだが、そういうのはシンプルで良い! 俺の槍のようにさ!」
瞬間、パルチザンが呼応するように煌めいた。
「機能は幾らあっても、困りはせん......この槍は古い文書ではこう言われていた。『突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌、とにもかくにも外れあらまし』と、な!」
話終わりに一歩踏み出すと、左から右へ横薙ぎを放つ。
「速ぇ!」
(これは薙刀か! でも、流石に......回避出来ねぇな)
ルウェットは冷静に状況を見ていた。
予想通りに、その十文字槍は彼の腹を薄皮一枚で斬り裂いたが、その瞬間。
ルウェットがカウンターの刺突を飛ばす。
(やはり、一筋縄ではないな......だが、まだ甘い!)
轟道は十文字槍を引き戻すと、その左鎌でパルチザンを弾き落とした。
「やっぱ、えぐいな。想定済みだけど」
ルウェットが槍を捨て、闘いを近接に持ち込む。
そして、前へ急加速。
(むっ......!)
ルウェットは轟道に気付かれぬまま、懐に入り込む。
轟道の動体視力では彼を追えなかったのだ。
「ここなら、槍は使えねぇよなぁ!?」
ルウェットが強烈なフックを突き出す。
こんなの、躱せるはずがない。
フックの直撃する音が辺りを木霊する。
(俺の反応速度なら対処出来る!)
轟道は数メートル離れた住宅まで吹き飛ばされるが、その時、十文字槍を間に挟み込んで、ある程度のダメージを防き、そして、後頭部に手を置き、衝突の威力を最小限に抑え込んだ。
つまり、轟道は万全の状態で攻撃を受けている。
「ぐぅ......」
とはいえ、轟道にすぐ動けるほどのタフネスはない。
ルウェットが、またもや駆け出し、轟道に追いつくと、更なる追撃を仕掛けようとした。
(速すぎるのも、問題だな)
しかし、それよりも速く、轟道の袈裟斬りが落ちる。
ルウェットが防御を入れる隙もなく、その刃は体を深々と斬り裂いた。
「パルチザンを捨てるんじゃなかったぜ......ったく」
ルウェットがバックステップ。
轟道が逃すはずもなく、彼に急接近する。
(ん? なにか、違和感がある......な、まさか!)
走り出した足にブレーキをかける。
しかし、もうルウェットは轟道の間合いにいた。
「引っかかったな」
そう言うと、ルウェットが懐に隠していた短剣を横へ一振りする。
「くっ......!」
轟道の胸が薄く斬られ、袴に血が滲む。
普通の人間なら、まだ持ち堪えれるだろうが、轟道は九二の老体、これを貰い続ければ、いずれは......
「初っ端から、この手札を解放することになるとは......ま、これもまた一興だな」
「パルチザンだろうが、ダガーだろうが、素手だろうが、全身全霊で、俺にかかってこい!」
轟道の覇気が増す一方。
見る者を圧倒するような、この戦闘を審判はじっと見ていた。
「なんだ、この戦闘は......異次元過ぎる」
神橋が小声で言う。
「それは同意見だ。だが、お前のところの『最強』......ルウェットさんと初っ端からかち合うなんて、本当に運が悪い」
デンマークの審判が口を挟む。
「え......あのルウェットって人、そんな強いんですか?」
「強いどころじゃないさ......」
ルウェットは昔、軍に所属していた。
そこでは、過酷な訓練が行われていたが、元々、才能のあったルウェットは、頭角を現していく。
入ったばかりでありながら、実力はベテラン以上。
だが、そうなれば、ルウェットを妬む者も多く現れる。
味方のはずなのに、周りには敵ばかり。
その中で、特に上層部は、彼を良く思わなかった。
本来、軍は国を守るべき存在であるのにも関わらず、自身の体裁のために、優秀な人材ルウェットを追放した。
ルウェットは軍を去った後、自分を『軍を超越する存在』に昇華させるように、自己研鑽を積んだ。
そうして、出来上がったのが、『ルウェット・ハサウェ』という人間だった......
「本気のルウェットさんは、あんなものじゃないぞ?」
「そんな......いや......それでも、俺は轟道さんを信じる......!」
神橋は自分の片手を強く握る。
二人は、その時に自国の勝利を掴むため、命を燃やしながら、戦闘をしていた。
(この動き方......槍を拾おうとしているな。やはり、得手は槍か。そんなもん、この俺がさせるわけなかろうが)
轟道が左側へ回り込み、槍で攻撃。
「くそっ」
ルウェットは悔しそうに、後退する。
「拾おうとしていたのは、合っているようだな」
瞬間、轟道は攻めの姿勢を取った。
(ここは、賭けか!)
ルウェットが勢い良くダガーを轟道へ投げる。
轟道はダガーを視認しながら、すぐに回避。
だが、その一瞬の隙が、この戦闘を変える。
ルウェットが槍の方へ猛ダッシュしていく。
(やられた......っ!)
轟道が行かすまいと薙ぎを放つが、それはルウェットを捉えるに至らない。
ルウェットが地面に落ちている槍を拾い上げる。
「これでお互い万全だな? ......槍同士、どっちが強いか決めようぜぇぇぇ!?」
ルウェットは極度の戦闘狂だ。
(こういう時は、冷静に対処すればいい。そう、対処すれば.....ふっ)
「そんな槍など、俺の技術で打ち破ってやるわ......!」
かくいう轟道も戦闘狂だった......
これは戦闘中に説明出来れば良かったのですが、くどくなりそうなので、ここで説明します。
十文字槍......穂(刃部分)の根元に鎌のような刃が左右対称に繋がっている槍。
パルチザン......両刃であり、穂の根元に小さな突起が左右対称に付いている槍で、十文字槍と見た目は似ているが、用途が異なる。
ダガー......突いたり、投げたりするのに向いている短剣。
ルウェットは斬りに使っていたが、それはルウェットの能力によって、為せるもの。