シン撼
『中国最強』が離脱したことによって、進世界は更に盛り上がってきていた。
武術大国の一角が落ち、日本に白羽の矢が立つようになっていた。
そんな中、轟道は道場で考え事をしている、
(インドか......死合ってみたい)
と。
しかし、もう次の死合が決まっているのだ。
その対戦相手はフランスである。
そして、もう一つの闘いが決定していた。
「今までの修行の成果を解放する時!」
ルウェットが槍をきれいな布で拭く。
デンマークVSカナダである。
師弟同士が二日に分けて闘うのだ。
これほど、胸に来る展開はないだろう。
「ルウェット......あまり、俺の技術を過信するなよ。お前のは、まだ未完成なのだから」
「いや、違う、この闘いで完成させるんだよ。だから、問題はない!」
おちゃらけたところは現存しているようだ。
「俺は二人とも、勝てるって信じてますよ!」
神橋は道場の片付けをしながら、そう言う。
「神橋先輩〜良いこと言うじゃねぇの」
「アハハ......」
轟道に技術を習い始めたのが早かったからか、ルウェットは神橋を先輩と呼んでいた。
ただ、それが神橋にとってはむず痒くて堪らなかった。
この二人の闘いはどうなるのだろか......
------一方その頃。
『カナダ最強』エス・F・テータがバーで呑んでいた。
エスは大人びた顔に雪のように白い長髪を靡かせている。
隣に座るのはオドオドとした赤髪の女性審判だ。
周りには客はおらず、バーテンダーがいるだけであった。
「今回の相手......決して油断出来ないわ」
「どうして、そう思うんですか.......? まだ、一目すら見てないですよ」
「いや、1回だけ合同訓練の時に会ったことがあるのよ。あの時はどっちも若手だったら、意識はしてなかったけど、思い返してると凄かったわね」
「え......?」
「脚のバネがえぐいのよ。世界陸上に出れるレベルでね」
そうだ、ルウェットの強みはその速度にある。
「そんな相手に......勝てるんですか......?」
「勿論よ。じゃなきゃ、上に申し立てする必要ないもの」
そう言うと、エスは紙タバコを出そうとしたが、周りを気にして電子タバコを取り出した。
「紙でも別に構いませんよ......? 私は気になりませんから」
「私はな、私の周りにいる奴らには長生きして欲しいんだよ」
「私はエスさんだって、長生きしてほ......」
その空気を掻き消すかのように、男の集団がエスらを囲む。
「ねえ、お姉さん。俺らと呑まない?」
「これほどまでの技術があるってのに、治安がなってないわね......」
(しかも、軍人......酔っ払ったのかしら)
「なんか言ったか?」
「お断りよ」
その言葉とともにエスが拳を鳴らすと、その男たち
は下がり気味に戦闘態勢へ入った。
「どうなっへも、知んねぇふぁらな!」
元々悪い呂律が回らなくなる。
「お前ら、今から相手にするのは......雪原の天変地異よ」
それと同じくして、六人の酔客が策略も持たず、殴り掛かる。
(エスさん......武器は今持っていないはずなのに、なんで立ち向かうんだろう......?)
審判はバーテンダーと一緒にカウンターの裏へ隠れて、その様子を見守る。
(武器はないけど、武器になる物はあるわ!)
エスはさっきまで吸っていた電子タバコを掴み、それを一人の側頭部へぶつけると、その衝撃で欠けた歯を手に取り、もう一人の眼球目掛けて投げつけた。
二人は回避することが出来ず、地面を転がり回る。
それでも、残りの奴らは止まらない。
もう軽い仕置きでは済まない領域だ。
「お前らは酒という娯楽のために軍人としての誇り、プライドを捨て去った......よし、歯あ喰いしばれ」
エスが懐から警棒のような黒いものを取り出すと、体を一気に回転させて、四人の顎を撃ち抜いた。
その一撃は意識を昏倒させるには十分だった。
彼女は一歩も動かずして、軍人六人を倒したのだ。
エスは意識のある一人に近づく。
「なんなんらぁ!」
すると、目が見えず、音だけが拾える状態で恐怖した奴が発砲しようとした。
「いくら酔っているとはいえ、恐怖しているとはいえ、人にはね、越えちゃ行けない一線があるの」
引き金が引かれるより前に懐から短くも閃光のような刃が走り、一瞬で男の右手の五指を刈り取った。
「ぎあぁぁぁぁ」
男が痛みでのたうち回っている間、エスは銃を奪って、奴の頭に振り下ろした。
バーの酔客事件はこれで幕を閉じる。
エス・F・テータは武器の扱いが長けている、いや......長けすぎているとしか言いようがない。
速度に武器は勝てるのか。
武器に速度は勝てるのか。
これはそういう闘いなのである。




