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カン獄

荒川と神橋が『日本最強』の老人である轟道と合流した夜のこと。 


一同は既に新潟空港に集まっていた。


 空港の周りは警察と軍人がタッグを組み、厳重な警備を敷いている。

 そうとなれば、もちろん、中は貸切状態。

『日本最強』になにかあれば、責任を負うのは、この現場の人間。

その分、緊張感も増すというものだ。


「警備すごいですけど......これ大丈夫なんですか?」


「ああ、多少、信頼的に支障はあるだろうけど、君たちが出発したら、開けるつもりだ」


 荒川大臣は飛行機の方を見ている。


「厳重が過ぎるな。大臣よ」


「空港の人の中に、暗殺者がいるかもしれないんですよ? 怖いじゃないですか!」


(だからと言って、あんなに要るかな......?)

 神橋は軍人たちに視線を向けながら、二人について行く。


「もし、いるとしても、叩き割ってやれば良いさ」


轟道は背中にかけてある紫色の包みを軽く握った。


「流石に捕まりますって!」


(あの袋に何が入ってるんだろ......)

途端、神橋は好奇心に駆られた。


「そうか......」

悲しそうに、包みから手を離す。


「なんで、そんなに落ち込むんですか!?」

 

そうこうしているうちに、そろそろ、出発の時間になるようで、チャイムが鳴る。


「21:10分、監獄行き。叉都 轟道様と神橋 健治(けんじ)様はご乗車願います」


女性の声だった。


「ちょっと二人とも、あと、五分だよ! 急がなくてもいいから、急がないと!」


「どっちなんですか!」


「早歩きだな」

轟道は呆れる。


そして、二人は飛行機の方へ向かう。

 しかし、大臣だけは動かなかった。


「あれ、大臣は行かないんですか?」

神橋は足を止めた。


「空港の事後処理しなきゃいけないし......」


「確かに」


「まぁ、なんかあったら電話して」


「......はい、分かりました!」

神橋は前へ行こうとしたが......


「あ、大臣、最後に一つだけ言いたいことがあります」

なにかを思い出したようで、体を後ろに向ける。


「ん? なんだい?」


「その......なんていうか......行くのはいいんですけど、俺の荷物は後で送っといてくださいね! これ、鍵なんで!」

神橋は家の鍵を荒川に投げつけた。


荒川が受け取った瞬間、


(轟道さん、あんな遠くに......はやっ)

「じゃあ、お元気でぇぇぇ!」

神橋は轟道の後を追って、走り出す。


「あれ。荷物持ってきてって、言ってなかったっけ......」


------飛行機前。


「神橋君、遅いぞ」


「はぁ......はぁっ......! 轟道さん、少しぐらい待ってくれても、良いじゃないですか!」

神橋が体力を回復している間、轟道は飛行機に向かって行ったのだ。


「ちょっ、待ってくださいよ!」

遅れまいと、ついて行く。


「俺は確かに待った。五秒ぐらいはな」

そう言いながら、轟道は飛行機に入るための階段を(のぼ)る。


「はぁ、少しは待ってますけども!」

続いて、神橋もその階段を上る。


そうして、二人は飛行機に入った。

飛行機の中はというと、豪華、この一言に尽きる。

床は赤く、壁は真っ白。

備え付けられている椅子は全てを包み込むように優しく、ベージュで着色されていた。


キャビンアテンダントも二人が入って来た瞬間に、入口前でお辞儀をしていた。


「ようこそ、お越し下さいました。どうぞ、好きな席にお座り下さい。なにか、お困りなことがありましたら、お呼び下さい」

一人のキャビンアテンダントがそう説明する。


「あ、ありがとうございます」

神橋が言い終わると、キャビンアテンダントの一同は同時に厨房へ入っていった。


(何気に、こんな飛行機に乗るのは初めてだな! なんか、ワクワクする! さて、どこに座ろっかな......?)

突如、神橋は硬直した。

何故ならば、一番の奥の席に軍人らしき強面(こわもて)の男たちが鎮座していたからだ。


そうしているつもりは無いのかもしれないが、強面なのもあって、こちらを睨んでいるようにしか見えない。


神橋が足を止める中、轟道は軍人の目前まで歩を進め、当然のように軍人の前の席へと腰を降ろした。


(流れが綺麗過ぎて、なにも、言えなかった......)

しょうがなく、神橋は轟道の隣の席に座る。


「轟道さん。早速、席を移動しませんか......?」


「なんでだ? どこの席も変わらんだろう」


「いや......それはそうなんですけども......! なんというか、後ろの圧が......」


「俺たちを護衛してくれてるんだろう? なら、余計に心強いじゃないか。なにかあっても、なんとかしてくれるはずだ」


「ですが......」

神橋が言い終わる前に軍人の一人が神橋の座っている椅子に手をかけ、顔を覗かせた。


「ひっっっ......」

神橋は声という声が出なかった。


「轟道さんと神橋さんだったか、話は聞いている」


「え......?」

神橋の表情が(やわ)らいだ。


「アンタらには、現地に着く前に説明しておきたいことがある」


「ほう?」


「君たちが今から行くところは『監獄(ネオ・ゲート)』っていう場所なのは聞いてるよな」


「聞いてないです......」


荒川が()()()()と濁したことで、神橋に情報が行き届いていなかった。


「本当にあの大臣は......じゃあ、根本から話す。『監獄(ネオ・ゲート)』は『最強たち』や君らみたいなやつの生活基盤になる」


「なるほど」


「場所は世界一陸から遠い『到達不能極(ポイント・ネモ)』。古くなった人工衛星とかを落とすところだ」


「ほえー」

神橋が適当に反応する。


「君らには、そこで半永久的に生活してもらう」

その軍人は、サラッととんでもないことを言った。


「......半永久......?」


「ああ」


「聞き間違いじゃなく?」

表情には困惑と驚愕だけが残る。


「おう。これはきちんと、首脳間で決まったことだ。だが、安心していい。食べ物は自由に取れるし、国の文化を取り入れた建物だってある。中には、ゲームだってあるし、暇にはならないだろうさ」


「そんなことよりも、半永久的って......帰れるか分からないってことですか!?」


「場合によっては、帰ることも可能だ。だが、人材の入れ替えだったり、『最強』が降板する時とかだけだ」


「轟道さん! なんとも、思わないんですか!?」

話を轟道に振る。


「いや......俺は事前に聞いてたから......」


「えっ? んな、まさか......大臣めぇ!」

苦痛の叫びが飛行機内外問わず、木霊(こだま)する。


------時間が経過し、神橋と軍人たちは眠りについていた。

しかし、轟道だけは起きたままだった。


(この命、もう長くは無い。早く、己自身の武をより高みへ......)


彼らの行く末は、この真夜中に包まれ、そして、呑み込まれていく。




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