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『シン世界』、日本最強の九二歳が全てを斬り伏せるッ!!  作者: のっぽ童子


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ニホン最強

荒川防衛大臣を乗せた黒塗りの高級車が、新潟へ向けて走る。


ハンドルを握るのは護衛兼運転手の神橋。

黒髪で童顔。

爽やかな青年という言葉がよく似合う男だった。


〈今日は少し厄介な出張だ〉


しかし、今回は大臣がそう言うので、運転手を努めていた。

黒塗りの高級車に二人は乗っている。


「いや〜にしても、大臣が新潟に出張なんて珍しいですね」


黒スーツの神橋は周りを見ながら、ハンドルをきる。


「そうか? まぁ、言われてみれば......行ってない気もするが」


同じく黒スーツで、肥満体型の荒川大臣は思う。


「どう言った用向きで?」


「それは......着いてから話そう」


------数時間後。

そうこうしているうちに二人は、新潟のある町に着く。

そこは、絵に書いたような、のどかな町だった。

都会とは違って解放感が溢れ、気持ちの良い風が肌に触れる。


「よし......大臣、着きましたよ」


神橋は車を止め、外へ出ると、大臣の座っている方のドアを開けた。


「ああ、ありがとう」


大臣も車を降りる。


「あ、着いたら、話してくれるって言ってましたよね。ここで、何をするんですか?」


「う〜ん......交渉? いや、面会か......? なんて言えば、いいか分からんが、一つだけ言えるのは......今回のは、国が揺るぎかねない事態ってことだ」


「へぇっ......て、えっ!?」


神橋は声という声が出なかった。


「神橋君。先日、全世界首脳会議で......新たな方式が取り入れられた全面戦争が実行されることは、聞いているよな?」


「はい。各国の最強同士? を闘わせるってやつですよね。そういえば、うちの国も決まったんですっけ、その最強の人......って、もしかして!!!」


神橋は一つの考えに辿(たど)り着く。


「ああ、そうだ。今から、その『日本最強』に会おうと思っているんだ」


「は、はいいいいい!? マジですか、事前に教えて欲しかったですよ!」


「あれ、ほんのり言ってなかったっけ?」


「初耳ですよ!!!」


神橋は声を張り上げる。


「いや、確かに大事な出張って言ったはずだが......」


「それ、どんな出張の時でも言うじゃないですか!」


「神橋君、気持ちは分かるが、来てしまったものはしょうがない!!! あと、これは日本の存続に関わるものだから、くれぐれも失礼の無いように!」


「勿論ですよ......! それはそうと、大臣、これが終わったら、何か(おご)ってもらいますからね!」


「え......? あ、そんなことよりももう着いたぞ! ここだ!」


どうやら、目的地は町外れにある古い道場のようだった。

そこは、木材で組み立てられており、看板の文字はところどころ掠れている。

そのため、どういった道場なのかは読み取れなかった。


「大臣、ここですか? 随分と年季が入ってるところですね」


「この中に『日本最強』がいるそうだ。ワクワクするな」


そういう、荒川の表情は険しかった。


「は、はい」


緊張を垣間見せながらも、双方は道場に入る。

靴を脱ぎ、棚へ押し込む。

思っていたよりも、静かだった。

音が消えたと錯覚するほどに。


(そういえば、大臣に聞いてなかったけど、『日本最強』って、どんな人なんだろう。武術を使うのかな? それとも、スポーツ? どうであれ、国が決定した人物だ。気になるのもしょうがないよね......!?)


大臣より先に、神橋が一目見ようと戸を開け、中に急いで入る。

中は物々しい雰囲気だった。

壁面には、多くの武器が飾られており、まさにザ・道場という感じだ。


だが、そんな場所に『最強』に似つかわしくない者がいた。


その者は黒い袴を着付け、道場の中央で目を閉じ、正座している。


神橋は、正座する男を見て、眉をひそめた。


(この人が『日本最強』......?)


誰もが困惑するはずだ。

なぜなら、そこにいたのは......老人なのだから。

その風貌はどう低く見積もっても、九〇を越えている。


「来たか」


貫禄のある老人が声を発する。


「神橋君。そんな、焦らなくても......」


「焦ってなんかいません、『日本最強』がいるって聞いたら、誰もが覗くでしょうよ。不可抗力ってやつです」


「そうか、まぁ、確かに......? あ、これ、お土産です」


荒川が老人に饅頭(まんじゅう)の箱を手渡した。

抹茶味のようだ。


「荒川。相変わらず、気が()く男だな」


「神橋君。この人は『日本最強』の”叉都(またつ) 轟道(ごうどう)”さんだ。挨拶したまえ」


(本当にこの人が『日本最強』なのか、疑問に思う自分がいる......なら......!)

「......轟道さん、初対面で悪いですが、手合わせを願いたい」


それは突然の申し出だった。


「ん? 神橋君!? なにを......!」


「荒川、いい。聞かせるよりも体験させた方が早い」


轟道は荒川を制止する。


「了承ってことでいいんですよね?」


神橋が拳を構える。


「ああ、存分にかかってこい」


気付くと、轟道は独特に構えていた。

いや、構えじゃない。

自然体だ。


「二人とも!!! やめておいた方が......」


神橋は荒川の言葉を無視し、轟道を強く(にら)んだ。

荒川が胡座をかいて二人を見つめる。


(おっと、まずいことになった......人として止めるべきか? いや、ここは見守るべきだな。それに神橋君ならもしかすると......!)


神橋(かみはし) 健治(けんじ)、二二歳。

ボディガード訓練所において類を見ない天才と称された。

身体能力、格闘技、護衛術、武器術及び精神面に至るまでプロのそれとは一線を画す。



「怪我しても知りませんからね」


「治療費は貰えるんだろうな?」


轟道はその場からもう一歩、足を踏み出す。


一瞬にも満たない間。

スタートを斬ったのは......神橋だ。

一〇〇メートル走10.81秒を誇る足で老人に迫る。


「フンッッ!」


腰の力を利用して、体を左に旋回。

そして、放つは......強烈な左ストレート!


「よっと」


轟道はそれを皮一枚で左へ(かわ)して見せる。


それでも、神橋はその打撃から動きを繋げる。

右の横蹴りだ。

次の瞬間。

轟道が消える。


「なっ......!」


荒川は轟道の姿を捉えていた。

彼は膝を抜き、極限まで低い姿勢を保っている。

人としての気配はまるでない。


轟道が自分の懐に潜り込んでいる。

そのことに今、神橋は気付く。

だが。

気付いた時にはもう遅い。


既に轟道の右腕から閃光(こぶし)が繰り出されている。

神橋は反射的に右腕を立てる。

ダンッ。


衝撃とともにその右腕には裂傷のような傷が浮かび上がっていた。

その時には左拳が額に寸止めされている。

速度は動体視力で到底視認できなかった。


(......これが『最強』......か)


神橋は負けたという実感と驚きの後に、胸が高鳴っていた。


「だから、やめとけって言ったのに......轟道さんは正真正銘の『最強』だぞ」


「ふんっ、荒川も最初は疑っていたくせによく言う」


「ちょっ、それは言わないでくださいよ!」


驚いた表情で荒川が轟道を見る。


「というか、二人はもう既に会ってたんですか......じゃあ、大臣、止めてくださいよ! 俺がめちゃくちゃ失礼みたいになるじゃないですか!」


「どちらにしても、失礼だけどね?」


「ぐ......」


神橋は目に見えるレベルでしょげた。


「ただ、神橋と言ったか。お前は強いぞ。俺の打撃を防いだのだから」


「まぐれというか、なんというか......」


「まぐれ? お前は知らんのか、この言葉を。運も実力のうちだろう」


轟道が嘲るように笑った。


「あ、闘いですっかり忘れていましたけど、二人とも、そろそろ行きますよ」


「ああ、そうだな」


「行く? どこにですか?」


「着いた時のお楽しみさ」


「お楽しみって......まるで、俺が行くみたいな......まさか!!!」


神橋はビビッと察する。


「そう、君を連れてきたのは、轟道さんの護衛兼同行者としてだ」


「はぁ......」


「よろしく頼むよ? か、み、は、し、君」


轟道は邪悪な笑みを(こぼ)しながら、神橋の肩に手を乗せた。


「うっ、はい......」




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