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「あなたの身体、いただきますよ。」
本当にこれはなんなんだ?とりあえず魔力の化身だから『魔身』とでも名付けよう。
「実に面白い闘いでしたよ。私の魔力を与えているのにああもあっさり負けるなんてね。」
それは俺が強いというよりも、アイツが弱かっただけだ。
「俺の『不可視の右拳』を流せるだけの力があるのに、その力を使わずにバカ正直に突っ込んでくるから勝てただけだ。」
実際に俺はもう少し戦闘が長引くと考えていた。
「これはこれは、あなたは頭もいいようだ。ますます欲しくなりましたね。」
俺が今言いたい事は一つ。
「気持ち悪いんだよ!」
そう言って『不可視の玉』を投げつけた。ただの魔力玉だが、威力は非常に高い。まともに食らえば余裕で人を殺せるだろう。が、
「残念、効きませんよ。」
魔力玉は『魔身』の体内に吸い込まれていき全く効いていない。むしろ、
「わざわざ私の強化をしてくれるなんて、優しいんですね。」
魔力がさっきよりも上がっている。そして俺は気が付いた。こいつが何で出来ているかを。
「俺の魔力を吸い取りあがったな。」
こいつは魔力で出来ている。つまり俺の『不可視系』の技はもちろん、魔法によって生み出されるあらゆる技が効果をなさないということになる。
「さすが、理解が早い。魔法使いにとって私は相性が悪いでしょ?」
余裕の笑みで話しかけてくる。
「特にあなたの魔力を使った攻撃は、最高の奥の手のようですけど、私に使っても意味がありませんよ。」
これはかなりヤバい状況だ。そもそも魔力攻撃が俺の奥の手とバレている時点で相当ヤバい。
「なあ、提案があるんだが。」
恐らく、今の俺ではこいつには勝てない。このままでは身体を乗っ取られるだろう。
「ほう、聞きましょう。」
よし、乗ってくれた。
「俺の身体を乗っ取るのはいい。たた、後3年待ってくれ。」
我ながらアホみたいな提案だが、今はこれしかない。
「私に待てと。何か理由があるのですか?」
「あぁ、ある。俺はまだ好きなやつに告白ができてないんだ。」
なんて恥ずかしいことを言わせるんだこいつは。まぁ、言っているのは俺なわけだが。
「それは可哀想に。しかし私には何の利益もありません。そもそも関係がありません。それに、それだけなら1日あれば充分でしょ?」
この返答は予想の範囲内だ。
「あぁ、それは承知の上だ。3年であるのも理由がある。これはお前にも関係があるだろう。」
「一応聞いてあげましょう。」
たのむ、上手くいってくれ。
「俺はあと3年経てば、この学園を卒業する。それまでには今よりもっと強くなっているだろう。どうせ身体を乗っ取るんなら、より強い体の方がいいはずだ。」
「確かに一理ありますね。どうにか時間を伸ばして、私を殺ろうとしているのでしょうけど、どうせどんなに強くなったって私には勝てませんしね。いいでしょう。その提案を受け入れましょう。」
ふぅ、なんとかなったか。
「では3年後。どれだけ強くなっているか楽しみにしていますよ。」
そう言って『魔身』はどこかに消えていった。確かにあいつの言う通り、どんなに強くなっても勝ち目は少ないだろう。それでも何かしらの策は練れる。俺は身体を乗っ取るんなんて真っ平ゴメンだ。
その後、『魔身』の事は伏せて、あったことを脳筋教師に報告して、ノースとウィンの身柄をあずけた。多分ノースはウィンではなく、あの得体のしれない魔力に操られていたんだろうから、多分もう術は解けているはずだが、念の為起きるまでは拘束具は取らないでおいてもらった。
その頃には既に日は昇り始めていて、俺は寝ているアルルに気付かれないように、そっと布団に入り寝たふりをした。はぁ〜。3年後には『魔身』と再戦か。なんでこんなことになったんだ。めんどくせーな!
ノースが無事でなによりです。そしてリオルに新たな敵がっ!