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ギルドを出た俺達は冒険者について話し合っていた。
「結局本格的に冒険者って言えるのはCランクになってからだな。」
「そうですね。まぁ、冒険者としての適正とか仁徳とかを見るにはDランクの依頼が必須なんでしょう。」
それはあるだろう。いくら腕のたつ冒険者でも、依頼をまともに受けれないようでは話にならないからな。
「私は今日のような休みの日にはできるだけ依頼を受けていきたいと思っています。」
「そうか。なら、その時は俺にも声かけてくれ。予定があえば一緒に受けようぜ。」
「私は問題ありませんが、マルクスはいいんですか?」
そりゃあ、
「一緒にやった方が効率いいだろ。…ってのは建前で、同じ日に登録をしたのに、エバンスだけがランクを上げたら、なんかあれだろ?」
本心は隠すつもりだったが、エバンスが疑り深い顔をしていたので言ってしまった。
「ふふ、マルクスって子供っぽいところがありますね。ミレイさんも言ってました。」
「おいおい、俺はまだ健全な子供だぞ。」
精神年齢はもっと上だかな。
「そうですけどね。でも言動が大人びていますから、そんな気がしないんですよ。」
「それは仕方ない。俺は大人だからな。」
「さっきと言っていることが矛盾していますよ( 笑 )」
うん、エバンスは真顔よりも笑っている方が可愛いな。ま、ノースにはかなわないけどな!
「それで、これから俺は魔法練をするが、エバンスはどうするんだ?」
「とくに予定はありませんが。」
「なら、ちょっと俺に付き合ってくれ。相手がいた方が実験がはかどる。」
「私は構いません。むしろこちらからお願いしたいくらいです。」
よし、決まりだな。
「なら、1回戻って学校でやるか。」
あそこは、なんだかんだいっても広いしな。
「あぁ、魔法練なら私、ちょうどいい場所知ってますよ?紹介しましょうか?」
ほう、学校よりも魔法練に向いた場所か。
「お願いしていいか?」
「わかりました。では付いてきてください。」
そう言ってエバンスは歩き出した。
☆
エバンスに付いて歩くこと10分。エバンスは迷いなく街を出て、そのまま、近くの森に入っていた。そして今いるのは森の中の広場である。ただ、自然にできたというよりは、木を無理矢理伐採して広場を作ったって感じの違和感がある。広さは学校の闘技室の2倍はあり確かに魔法練にはもってこいだ。そしてなにより、
「この森の魔素濃度、異常に高いな。」
魔法があるこの世界では体内の魔力の他に魔素というものがある。どちらも俺の考えでは酸素みたいなものだ。体内の魔力が高ければ魔法の威力が上がり、場の魔素濃度が高ければそれに上乗せされて威力があがる。また、魔素は植物の成長にも影響していて、魔素濃度が高いと植物の育ちがいい。先程感じた違和感はおそらくこれだ。こんなに魔素濃度が高いのに、ここだけ木のない広場ができるわけがないのだ。
「さすがすぐに気が付きましたね。この森はなぜか魔素が異常に濃いんです。私の家は王都の近くで、この森からも近いので、この場でいつも魔法練をしていました。」
「この広場は最初から?」
「いえ、ここは元々母の練習場所だったところで、母がいうには最初は周りと同じように木々が生い茂っていたそうなんですが、母の師匠が精霊に訴えかけてこのようにしたとかなんとか。」
精霊か。確かクルーナ先生の師匠はハイエルフだったからこの前アルルが言っていたことが関係してるんだろう。
「そうなのか。でも確かにここなら遠慮なく魔法が撃てるな。いい場所だ。」
「そうでしょ?それで私は何をすればいいでしょうか?」
今日の題材はさっきも出てきた精霊だ。アルルは魔法を使う時に、より上位の精霊に干渉すると言っていた。それが天属性の特殊なところだろう。では普通の属性でその干渉をするとどうなるのだろうか。と、考えた俺氏。できれば標的が欲しいところだ。さすがにエバンスに標的になってもらうわけにもいかないので、
「じゃあ、魔獣を探してきてくれないか。出来るなら生け捕りがいい。」
「わかりました。幸い魔素が濃いのですぐに見つかると思います。」
そうそう、魔素濃度が高いと動物もよく魔獣になる。ただ、これはどういう原理かわかっていない。
「ああ、頼んだ。」
エバンスはそれを聞くと、魔獣を探しに行った。俺はその間に精霊への干渉に付いて考えてみる。確かアルルは普通の魔法では詠唱の時に精霊に干渉していると言っていた。なら定形の詠唱ではなく、自分なりに変えてみるか。ファイヤーボールの詠唱は確か…
「火の精霊の眷属よ、我が手に火をやどしたまえ」
俺の手には火の玉が出来上がった。ここで普通は放出をする。だがここからさらに、アルルの詠唱を真似てみる。事前にアルルには火を扱う時の詠唱を聞いておいた。
「火を司る神よ。我は其方に干渉せん。我に力を貸し魔法の力の補助をしろ」
詠唱はつつがなく終ったが、手にある火はさっきと変わらない大きさだ。これは失敗か?と考えているとエバンスが猛スピードで帰ってきた。
「マルクス、逃げてください。ワーウルフがすぐに追いついてきます!」
ワーウルフだと!?あれは魔獣じゃなくて、魔物の部類だ。性格は凶暴かつ好戦的で、普通は群れをなす狼だが、奴らは一体での行動を好む。そして何より魔法を使ってくる。といっても身体強化の部類だ。しかし元々の強靭的な脚力に上乗せで使ってくるので凄まじいほどのスピードがでる。
「ちょうどいいな。エバンス、いい獲物を見つけてきてくれた。」
「なに言ってるの!いくらマルクスでもさすがに魔物の相手は無理よ。王都の冒険者ギルドに戻って報告に行くわよ!」
おいおい、敬語が崩れてるぞ。てか、
「もう手遅れだ。ほら、見ろ。」
既にワーウルフは俺達を視界に捉えていた。
「うそ!今日やっと冒険者登録が出来たってゆうのに、私はまだ死にたくないわよ!」
「そう焦るなって。ちょうど魔法の詠唱も終わっていることだしいっちょ試してみますか。ダメだったら諦めてくれエバンス。」
「嫌よ!ただのファイヤーボールにしか見えないけど、絶対に倒しなさいよ!」
「全く我儘なお嬢様だな。いくぜ犬公。『火属性初級ファイヤーボール!』」
俺は手にある火の玉を今にも襲いかかろうとするワーウルフに向けて全力で放ったのだった。
果たして2人の運命は!?次話に続く…。