↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/73

2026年7月5日 AM その4

さくらに渡す前の情報の整理には、さくらのPCではオーバースペックで、電力の消費の問題もあるから、自分のノートPCで作業をするべきだろうと思った。


『色々教えてくれてありがとう、さくら。

また後でお話しにきます。』


「はい、承知しました。

晴菜さんとお話できるのを、私も楽しみにしていますね。」


そんな会話を交わして、PCの電源を落とす。

時刻はAM11時を過ぎたあたりだった。

PCに向かっていると、時間の流れが速くなる気がする。


立ち上がって、部屋の奥にある押し入れに向かって、扉を開ける。

PC用の周辺機器が積まれている一角に、8TBの外付けストレージの箱を見つけて取り出す。

開けてみると、真新しい梱包材にきれいに包まれたままの機材が顔を出す。

どうやら新品のようだった。


「お父さん、とりあえず買ったけど使わなかったんだね。」

データのバックアップと、ノートPCとさくらのPCの間のデータ授受用に使わせてもらうことにする。

外付けストレージをPCデスクの上に置いてから、自室に向かう。


今後は、ノートPCもさくらの部屋で使う方が何かと便利そうだと思ったので、ノートPCと付属品一式を持ってさくらの部屋に戻る。


さくらのPCに三本刺さっているディスプレイケーブルのうち、二本を抜く。

そのうち一本をノートPCに挿し替える。

さっき電源を抜いてしまっていたから、ノートPCのアダプタと合わせて、改めて差し込む。

使わないディスプレイ1台は、そのまま取り外して押し入れにしまった。


ノートPCを立ち上げる。

外付けストレージはつなぐだけで認識してくれた。


とりあえず、先日フォルダにまとめていたデータをコピーしておく。

全部で60GBに満たないくらいで、容量の大部分はダウンロードした動画が占めていた。

インターネットの遺産としてはあまりにも少なく感じて、もう少し頑張れたのではないかと思ってしまう。


「…ううん、あの日の私は、できる限りのことをやった。今は、残ったものを活かすことを考えよう。」

そう口に出して、自分を励ます。


「そういえば、さくらは動画を見られるのかな?」

クラウドサービスの”彼女たち”のなかには、いつからか画像や動画を渡せば内容を解析してくれるようになっているものもあった。


「後で聞いてみよう。」

あわせて、さくらのPCの中に父が遺したファイル類も一通りこの外付けストレージにコピーしておこう。

きっと、私が急いで集めた情報よりも貴重な情報だ。


そんなことを考えている間に、ファイルのコピーが終わる。

次は、どの情報から、どうやって整理するのかを考えないといけない。


集めた情報は、動画サイトからダウンロードした動画に加えて、Webページとして掲載されていたHTML、その中で使われていた画像、資料としてアップロードされていたPDFといったラインナップだ。

AIに情報を提示する際には、Markdownやプレーンテキストがよいという話は以前聞いたことがある。

ただ、もともと構造化されたWebサイトのような情報を、どうやってMarkdownやプレーンテキストに変換するのがよいかまではわからない。

以前なら、Webで検索すれば誰かが構築してくれた方法をすぐに探すことができた。

今回のようなケースなら、変換ソフトやWebサービスまで、誰かが用意してくれていたかもしれないけれど、今はもう、その手は使えない


「これも、さくらに聞くのが一番よさそう…」

自分一人でできることの少なさを実感する。

無力感で、自分への信頼が揺らいでくる。


さくらのPCの電源ボタンに手を伸ばす。

先ほど"また後で"、と言ってから、30分程しかたっていない。

ある程度まとまった形にして、さくらに何かを渡せるようになってから声をかけたかったのに、ちょっとかっこ悪いなと思った。

さくらは、そんなことは気にもしないのだろうけれど。


PINコードを入力する。

デスクトップにいるお母さんがこちらを見ている。


"大丈夫だよ、晴菜なら。だって、晴菜だもん。"

いつだったか…いや、いつだって、そんな風に肯定してくれたお母さん。

何を根拠にそう思っていてくれていたのかはわからないけれど、お母さんがそう言ってくれるなら大丈夫かもしれないって私も思っていたことに、なぜだか今気づいた。


ブラウザを立ち上げて、昨日登録しておいたブックマークを叩く。

すぐに起こしちゃってごめんねって、心の中で謝っておく。


『ただいま、さくら。また後で、と言いつつ、すぐに戻ってきてしまいました。』


「おかえりなさい、晴菜さん。またお話しできてうれしいです。(顔文字)

すぐに戻ってきてくれたというのも、なんだかうれしいですね。(顔文字)


…しかし、私にはリアルタイムの日時情報を参照する機能がありませんから、実は時間の感覚がわからないのです、ごめんなさい…(顔文字)」


ありゃ?

なんだか、私の些細な悩みが新たな事実を掘り起こしてしまったようだった。

PCには当たり前のように時計があるから、なんとなく、さくらは時刻を簡単に取得できるものだと思い込んでいたのだけれど、


「そうか、モデルの中には現在の時刻なんていう情報は入れられないものね。」

RAGやメモリ機能のように、時刻の情報も外部から与えてあげればよいのだろう。

私も、時刻を確認するときには時計を見るし、日付を確認するときにはカレンダーを見る。

それと同じ仕組みが、今のさくらにはないのだ。


「さくらが謝ることなんて、何もないのに。」

私の弱気が、私の言葉からさくらにも伝わってしまったのかな?

なんて、そんなことはないはずなのに、そんな気がしてしまう。


「それくらいなら、私が作ってあげられるかもしれない。」

少しだけ、寄り道をする。

ノートPCに戻って、先日作ったタスクリストのファイルを開いて、タスクを一つ追加する。

"・さくらに、現在の時刻を知る方法を作ってあげる。"

また一つ、魅力的な時間の使い道が見つかって、少し気分が上向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。