2026年7月3日 AM その2
自宅から道路を挟んだすぐ目の前には、斜向かいの山本さんが所有している生産緑地が広がっている。
このあたりは20年くらい前に区画整理があって、当時農家をやっていた地主さんたちの中には、区画整理後も生産緑地として農地を維持している人たちがいるのだということを、この家に越してくるときに父が話していた。
自宅の裏も、裏の井上さんのご自宅に隣接する形で、一部の区画が生産緑地になっていた。
どちらも20m四方くらいの広さがある。
本当の都会に住んでいたら、こんなに近くに農地がある事はなかっただろうから、この家は今の私の状況においては本当に恵まれた環境だと、改めて思った。
とりあえず、山本さんの農地を見てみる事にする。
「おじゃまします。」
素人目にもきれいに整えられた畝に、夏の野菜たちが順調に生育しているのが分かる。
「これはナス。こっちはトマト。これは、…かぼちゃか。」
小さな実をつけはじめている時期のようだった。
おそらくどれも、今月中には収穫できるように育てていたのかなと思う。
「とにかく、写真に撮っておこう。」
先日、AIアシスタントと一緒に調べた内容を思い出しながら、現状を写真に残していく。
畝の高さや幅、作物の間隔、支柱の建て方やツルの巻き付け方、ビニールシートのかぶせ方、etc…
作物を育てるためのたくさんの工夫が、色々なところに凝らされているのが、今ならわかる。
これまで毎日、この光景を見ていたはずだったのに。
「いままで、真剣に考えたことがなかったけど、これって、本当にすごいことだよね。」
こんなに素晴らしい教科書を残してくれた、山本さんのおじいさん・おばあさんに感謝と尊敬の気持ちでいっぱいになる。
ただ本当に美しいと思って、写真を撮るのが純粋に楽しかった。
畑のわきのところには、金属パイプを組み合わせた櫓の上に、樹脂製の大きなポリタンクが置かれている。
おそらく、雨水や水道水を溜めておく設備なのだろう。
櫓の組み方も、いずれ何かの参考になるだろうと思って写真に収めていく。
一通り写真を撮り終えたところで、ふと気づいて、山本さんのお宅の門前に向かった。
「順番、逆だよね。ごめんなさい。」
そんなことを考えながら、山本さん宅のドアホンを押す。
"ピーンポーン"という、クラシックな音がする。
当然のように、誰かが出てくれることはない。
でも、私には必要な儀式だと思ったのだ。
もう一度、ドアホンを押す。
反応はない。
そのことを確認して、私はその場で、ドアホンのカメラに向かって頭を下げる。
「山本さんの畑の写真を撮らせていただきました。本当に、立派な畑を作ってくださって、ありがとうございます。」
本当に尊敬の念を抱いたときに、人の頭は勝手に下がるものなのだということを、私は人生の中で、初めて実感した。
”本当に尊敬の念を抱いたときに、人の頭は勝手に下がるもの”というのは、小野不由美先生の十二国記 月の影 影の海 の最終盤で登場する考え方です。小野先生の作品からは、気づいていないところでほかにもたくさんの影響を受けているだろうなと思っています。




