2026年7月1日 AM6:15
2026年7月1日 AM6:15
いつも通りに目覚まし時計のアラームが鳴って、いつも通りの朝を迎えた。
いつも通り、その時の私、有島晴菜はまだ、そう思っていた。
部屋を出て、洗面所で顔を洗って、歯を磨いて、髪を整える。
ここまではいつも通りだったのだ。
最初の異変には、歯磨きを終えてリビングに向かった時に、気付いた。
いつもなら、朝ご飯を作りながら、「晴菜おはよー」と迎えてくれる母がいなかった。
時刻はAM6:32、もう、起きていないと間に合わないような時間。
まだ寝ているのかな?ひょっとして体調を崩しているのかも……
心配になって、2階にある両親の寝室をのぞきにいく。
そこには、母だけでなく、いつもこのくらいの時間にようやく起きだしてくるはずの父の姿もなかった。
「お母さーん? お父さーん?」
呼びかける声が、自然と大きくなる。
その分だけ、呼びかけた後の静寂が不気味だった。
ほかの部屋も覗いてみたけれど、両親の姿は見当たらない。
自分の家にいるはずなのに、自分の知らないどこか別の場所のように感じられて、不安が募る。
今日どこかに出かける予定でもあっただろうか?
田舎のおばあちゃんが急に亡くなったとか?
そんな考えが頭をよぎる。
そうであれば何かメッセージが残されているのではないか?と考えてスマホを確認してみたけれど、チャットもメールも、来ていない。
私がスマホをもっていなかった頃に何度か書置きがおかれていたダイニングテーブルにも、それらしきものは見当たらなかった。
「…もう、どこにいったの?」
不安を通り越して、少しイライラしてきたので、お母さんに直接電話をかけてみる。
「プルルルルルルル、プルルルルルル…」
『プルルルルルルル、プルルルルルル…』
え?
自分のスマホのスピーカー以外にもう一つ、家の中から着信音が聞こえた。
音源をたどると、どうやら両親の寝室からだとわかる。
改めて両親の寝室に入ると、両親のスマホは、ベッドのサイドテーブルの上で、2台仲良く並んで充電器につながれていた。
スマホも持たずに出かけた? どこに???
家の中を確認して回る。
両親がいつも使っている鞄も財布もそのままだった。
玄関には両親の靴がそろえられている。
家の鍵も、去年新居に合わせて買い替えた車の鍵も、キーホルダーに掛けられたまま。
ほかにあてもなくて、家中のクローゼットや押し入れも開けてみた。
…どこにもいない。
心拍数があがって変な汗が背中を伝う感覚がする。
怖い、こわい!
「やめてよっ! いい歳して質の悪い悪戯なんて!」
そんなことをする両親ではないことはわかっているのに、湧き上がる恐怖心を抑えるために思わず叫んでしまう。
静かすぎて、自分の声の反響が聞こえた気がする。
無音。
静寂のなかに、時計の音だけが聞こえてくる。
時計の音があまりにも頭に響くので思わず仰ぎ見ると、いつの間にかAM6:55を指していた。
そうだ、学校。
瞬間、時計の音が頭から消える。
足早に自室に戻って、ドアを強く閉めてから、制服に着替える。
両親のことは気になるが、とりあえず学校に行こう。
本当はすぐにでも警察に連絡した方がよいのではないかという、頭の片隅に残った意識を無理やり追いやる。
…両親が失踪?そんなことが起こるわけがない。
きっと学校から帰ってきたら、いつものように「晴菜おかえりー」って迎えてくれるはずだって。
いつもの"現実"に、無意識に逃げ込もうとする。
問題を先送りにして、心に壁を作る。
大丈夫、大丈夫…
そんなことを考えながら身支度を整え、鞄をもって、玄関で靴を履く。
朝食を食べていないことに気付いたけれど、電車の時間が迫っている。
一刻も早く、家を出なければ、始業時間に、間に合わない。
「いってきまーす!」
静まり返る家の中へ、半ば怒鳴るようにたたきつけた"いってきます"の声。
しかし、『いってらっしゃい』の声は、やっぱり返ってこなかった。
短編『2036年9月13日』の本編に相当する内容です。
初投稿のつたない作品ですが、お付き合いいただけますと幸いです。
短編の世界か、さらにもっと先の未来の話にまでつなげていければよいなと思っています。
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260801
初期投稿版から大幅に表現を改訂しました。




