乱戦3
すいません。脳死で今後の展開も考えずに書いてしまった結果グダグダになりそうだったので、本話のラストを大幅に変更しています。ご容赦ください。
戦いとは何だろうか。
主義主張のぶつかり合いだろうか。
正義の押し付け合いだろうか。
少なくとも互いに掲げるものを賭けて全霊で行うことが戦いだと克人は思っていた。
であるならば、今目の前で繰り広げられているのは戦いとは呼べないのではないかと思ってしまう。
「あははは!!」
少女が笑いながら人の隙間を縫うように駆け、そのたびに鮮血が舞い、空間を染めていく。
生臭いその匂いが段階を増すごとにどんどんと濃くなっていく。
朱利がナイフを振るえばそれだけ濃くなる。
「あいつ、なんなんだ」
自分の援護をしながらも至近距離の敵を一人で捌いていたマスターに対してもすごいと思っていた克人だが、朱利に関してはもはや同じ人なのか疑うレベルでの隔絶した差を痛感していた。
「あいつは天才なんだ。お嬢様が拾ってきたときはそりゃ...人間味のない、人形みたいなやつだった。だが、試しに武器を握らせてみたら誰に教わったわけでもなく最初からアレが出来ていた」
「............あの動きを?」
「ああ、おかげで最初の頃は私も手合わせで本気を出していたよ」
マスターの言葉にさらなる驚愕を覚える。
朱利は今もなお、跳んで駆けて、マフィアたちを蹂躙し続ける。
暗闇のせいで正確にその動きを理解できてはいないが、身に纏う葬備が残す残光のおかげで何とか目で追えていた。
距離がある程度離れており、コンタクト型の葬備の効果により動体視力に多大なブーストのかかった状態である克人をして目で追えるのが限界という戦闘能力。
それが、初めからできていたというのはなかなか信じがたいものではあった。
「くそっ!こんなバケモノがいるなんて聞いてねぇぞ!!」
「持ちこたえろ!アレが来るまでなんとか持ちこたえろ!!」
才能によってもたらされた蹂躙の中で、すでに指示を出していた男も失ったのに男たちは諦めない。
諦めることができずにまだ抗っていた。
「なにを待っているんだ?」
「さあな、しかし奴らにとって朱利を相手にしても逆転できる力があると判断しているみたいだな」
「そんなのあれば最初から使ってるんじゃないか?」
「そうだな、それが奴らのものならな」
マスターの言い方にすこし引っかかりを覚える。
待っているならばここにきてそれを使おうとしているということ。
ならそのままそれは奴らのものじゃないかと克人は思う。
であれば、克人たちがここに来た時点で何者かの襲撃を受けていたような状況でそれを使っていないのにも違和感を覚えていた。
「そもそもだが、私たちがここに来た理由は何だった?」
「?そりゃ、怪しい取引があるから調査と追跡?」
「なんで、そんなことをしているか覚えているか?」
「なんか危ない機械が出回っているからって...」
そこまで思考して克人はようやく一つの可能性に気が付いた。
そうだった、ここにはその機械の取引があるって来たんだ。
ならば、奴らのものであって、奴らのものじゃない。
商品ならこの場にあるのかもしれない。
商品だから、ギリギリまで使えなかったというのはなるほどしっくりくる。
むしろ、朱利があのリーダー格のような人間を殺したことによって、下っ端の判断で使えるようになったのかもしれない。
「むしろその機械の性能を確認できるという意味では好都合かもしれないな」
「どんな効果があるんだ?」
「わからん。だからそれを確認できるのは好都合ということだ」
その時、これまで響いていた悲鳴と血しぶきの音と、命をなくした肉体が倒れる音以外の甲高い金属音のようなものが初めて響いた。
その音に思わず視線を奪われると、いつの間にか朱里とマフィアたちの戦いに変化が訪れていた。
「...っむ!!」
朱利がどこか不機嫌そうにナイフを振るう。
天井を切り落とし、人体も抵抗なく切り裂く鋭利なナイフ。
それが相対している男の首に迫り―
カイィッン!!
と、金属音とともにナイフを弾いた。
男が首に頑丈な装備を付けているのかとも思ったが、そうではない。
ただ、男の体が淡く輝きオーラのようなものを発していた。
それ以外は生身の首だというのにあのナイフの一撃を弾いた。
男は自身の肉体に傷がないか手を首にあてて、無傷であることを確認すると獰猛な笑みを浮かべて朱利に迫った。
その手にもつ鉄パイプを振り上げて、朱利めがけて振り下ろす。
それを紙一重で躱しながら、その手に持ったナイフを二度三度素早くふって男の腕を斬りつける。
ギャリギャリと金属同士がこすれるような音とともに、切り落とされたのは鉄パイプ。
男の腕は先ほどのように無傷だった。
「なんだあれ」
「あれが連中が待っていたものか?奴自身が異常なのか...」
その様子を見ていたのは克人とマスターだけではなく、マフィアの男たちもまたしっかりと見ていた。
「おお!これマジだったんだな!」
「これならいける!生き残れるぞ!!」
「おい!よこせ!!」
「俺にも貸せ!」
その言葉からマフィアたちの一部が騒がしく一か所に集まり始める。
それによって暗闇でよく見えていなかった克人とマスターもさすがに敵のおおよその位置が分かるようになってきた。
「マスターこれって...」
「ああ、ちょっとやばいかもな」
克人とマスターが現在、ある程度の余裕をもってこの場にいることができているのは偏に朱利が強かったからだ。
克人としてはマスターもやろうと思えば似たような蹂躙はできると思っているが、それでも間違いなく克人が余裕を持つことができるのは朱利のおかげだと理解していた。
そんな朱利の攻撃が効かない敵が現れた。
そして、恐らくそいつはマフィアたちが待ち望んでいた何かを使っている。
それを見たマフィアたちが一斉に何かを取りに一か所に集まった。
つまり、これから朱利では倒せない敵が増加することを意味していた。
「朱利!援護する、一度下がれ!!」
マスターがそう叫びながら、朱利と相対していた男に発砲する。
それは先ほどまでは簡単にマフィアの男たちの命を刈り取ってきた正真正銘の殺意のこもった銃撃のはずだった。
しかし―
「はあっ!!」
男は一言気合を入れて、防御の姿勢を取ると銃弾を待ち構える。
本来ならそれでも銃弾は命に届くはずだったのだが、それは男の皮膚に触れた瞬間なにか硬いものに当たったかのように火花を散らして弾かれてしまった。
「行けるぞ!」
「アレが来る前に早くこいつ等殺して脱出するぞ!」
「おお!!」
朱利もマスターも決定打を出すことができない相手。
それも恐らくはあの機械を使用してからそうなった相手。
機械はまだ複数あるようで、今もまた何人かがその機械を自身の首に押し当てていた。
「っ!予想以上に硬くなってるな」
「どうする?どうしよっかマスター?」
「朱利、アレは切れなさそうか?」
弾かれたとは言え、銃弾を受け止めるために足を止めた男。
それに見向きもせずに一瞬で下がった朱利が克人たちのそばまで戻り、指示を仰ぐ。
「うーん、急に硬くなって感覚が変わったからビックリして力を弱めちゃったから弾かれたけど、最初からあの硬さだって分かってたら切れるかも?でもでも、多分深くは無理だと思う!能力者相手にしてるみたい!」
「だろうな、実際その通りなんだろう」
二人がそう話合っているのを傍から聞いていた克人は頭に疑問符を浮かべていた。
(能力者.........?)
そんな言葉を聞いたことがなかった。
一体それはどんな存在だと言うのか、あの鉄パイプすら両断してしまった朱利の斬撃を防ぐのが普通かのように語られる存在が本当に居るのだろうか。
「とりあえず、このままじゃマズイ。今は逃げるぞ!朱利はここに来るまでに道は把握しているか?」
「うん!もちろん!マスターにいつも言われているから自分が通った道や見た道は覚えるようにしているよ!」
「よし、なら最短で駆け抜ける道を教えてくれ。克人、こっからはあいつらを振り切って逃げる。朱利の後を追うだけだ。いいな?」
「りょ、了解」
「あ、でもでも―」
疑問はある。
しかし、この状況では聞けない、聞く暇なんてない。
だから飲み込んで、指示通りに動き出そうとしたところ、案内役の朱利が待ったをかける。
「どうした?」
「そろそろ、騎士が来るよ」
朱利がそう言った瞬間。
朱利が切り落として開け放たれた天井に太陽が現れた。
「ッッ!!」
太陽は莫大な熱と光を放ちながらこの倉庫に落ちてくる。
あまりの光に痛みすら感じそうになり、小さく悲鳴を上げる克人。
太陽は燃え盛りながら、そのまま倉庫の中央に着地した。
その衝撃であたりを熱と炎が倉庫中を駆け巡り、染め上げた。
燃え上る倉庫の中で、マフィアの男たちが何人か火だるまになって転げまわる。
暗く、大して物も見えなかった倉庫は昼の外を想うほどに明るく照らされていた。
「やれやれ、こうも逃げ回れると困るんだよね。僕はほら、結局のところ一人しかいないわけで、いちいち探し回るのも面倒ではあるんだよ」
着地と同時にその身を燃やしていた炎が散ったのか、今は太陽のようではなくちゃんとその姿が見える騎士服を着た奇妙な男が呆れたようにそういう。
克人はその姿をよく覚えていた。
なにせ自分のコーヒーを提供した初めての客だ。
そして、同時にそんなエピソードがなくたって忘れられないような印象を与えられた客だった。
「さて、もう一度だけ言うよ。魔女にまつわる機械を差し出せ」
人の良さそうな、優しい声音で、しかし有無を言わさぬ強い意志と圧力を伴った矛盾したかのような言葉をマフィアの男たちに放つ。
その体は、未だに炎が立ち上っていた。




