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デザイア・ルーツ  作者: 時ノ宮怜
叶わぬ夢、欲望が這いよる
1/13

プロローグ

せっかくなのでGW期間は毎日投稿します。したい。出来るといいな...

 願いが叶うと言われて人は何を願うだろうか。

 富だろうか、名声だろうか、見果てぬ夢を見るだろうか。


 その願いに代償が伴うと聞いて、それでも願う人は何を願うのだろうか。

 代償すらを考慮しない、狂気的な願望だろうか。

 陶酔の中で溺れる、理想的な妄言だろうか。

 極限に迫られる、直感的な救いの一手だろうか。


 少なくともこの街では、その多くが救いを求めていた。


 この地獄を何とかしたい、この苦しみから解放されたい、不安を取り除きたい、痛みを和らげたい、そんな、誰もが願うような事を、真剣に願っていた。そこに代償があろうとも、今この苦しみから解放されるなら、


 喜んで毒を呑もうと、そう願っていた。



 ―――

[中位八層:商業地区]


 商業ビルが立ち並ぶ区画で、それは起きていた。

 街のいたるところに仕掛けられたスピーカーから電子音声が垂れ流される。


『8-3-5ビルにて、現在、テロ行為を確認。警軍が対応いたします。市民の皆さんは、速やかに退避し、警軍の支援をお願いいたします。8-3-5ビルにて、現在―』


 それは機械的にプログラムされたメッセージ、同じ内容を繰り返しているだけであった。空虚で感情の無いそれは―


「げ、マジかよ.........結構近くね?」


 それは街の隅々まで届くようにと設計された警告だ。例え、部屋に引きこもっていても、入浴中でも、防音室に籠っていたって、そこに電子機械さえあればそれを通じてこの警告は届いていた。


 そう、ビルとビルの間でも。薄暗い街の死角でも。

 複数の男が倒れ伏し、それを踏みつけにする青年の元にも当然届いていた。


「はぁ、面倒に巻き込まれる前にさっさと帰るか」


 青年は、今まさに踏みつけにしていた男の懐をあさり、小さな機械を取り出すとそれを持って立ち去ろうとする。


「グゥ.........ま、待て......それが無いと俺たちは......」


 青年の脚を捕まえ、決して離さないと決意を固める男。

 しかし、そんな男を全く持って感情の乗らない冷たいまなざしで見下ろしながら青年は、掴まれていない方の脚で男の顔面を蹴り飛ばす。


「しつけぇ!お前がどうなろうが知るか!誰だって生きるのに必死なんだよ!!」


 ドグッ、という生々しい音を響かせながらも何度も何度も蹴り続ける。

 このビルとビルの間の路地裏、そんな凄惨な光景が広がっていても誰も止める人間はいなかった。

 それは彼ら以外に人がいないからというわけではない。


 社会のはみ出し者は吐いて捨てるほどいて、ここにも数人のホームレスの姿があった。


 だと言うのに、誰も何も言わない。

 それは青年がこの場で誰よりも強いという事も確かにある。

 ここで止めに入ったところで何一つ得はない。


 だとしても、一人ぐらいはそれを不快に思っていもいいはずだ。

 それすらない。


 理由は単純。

 こんなことはこの街では日常茶飯事だからだ。

 この程度の事でいちいち助けに入っていたら自分の身が持たない。

 あるいはここでホームレスをしている何人かは、そんな正義の味方ごっこをしたことで全てを失ったのかもしれない。


 ともかく、テロが起きているとアナウンスがあったとしてもこの街は何一つ変わることなく動いていた。


 脚を掴んでいた男が気絶し、手を離したことで青年もまた蹴るのを止める。


「ッち!」


 青年は吐き捨てるように、舌打ちをしてその場を去った。

 警軍に見つかってとやかく言われるのは青年にとっても不都合だったからだ。


 そうすると青年が向かう先とは逆方向。

 先ほどアナウンスがあったビルの方向で大きな爆発音がした。


「うぉ!」


 青年が振り返って、爆発音の方を見れば、もうもうと立ち上る黒煙。

 そして、さらに爆発。


「今回は、派手な奴がはしゃいでんな」


 テロとは言っても、街の治安を維持している警軍がかなり優秀なのか、テロという事になっているだけで実際はそんなこともないのか、事件はあっけなく終わる事の方が多い。

 だから青年がこの規模で破壊される街を見るのは久しぶりな気がしていた。


「お、機械武装兵団も来てんじゃん」


 そんな対岸の火事を眺めていると、爆発のあったビルの周りに複数の人影を見つける。

 それらは明らかに人間には出来ない挙動でビルの屋上や壁を駆けて、現場へと急行する。


「やっぱり急いで正解だな」


 目を着けられれば面倒な上、振り切るのも難しい相手とは関り合いになりたくないと足早にその場を去る。


 怪しく写らないように避難を始めた人達で溢れる大通りを通ったり、誰とも会わない様に路地裏を移動し続けてたどり着いたのはこの区画の端。

 そこにある、小さなビルの地下。

 上階には普通の商業店のような看板がかかっているが、地下に続く階段を一つ降りるたびに世界が塗り替わっていくかのように重く、暗く、湿った空気に変わる。


 そして階段の底。

 奥まった空間にあるいかにもな扉。


 金属製の冷たいそれは、人の気配など欠片もなくそこに鎮座している。

 青年は慣れた手つきで、その扉を決まったリズムで叩く。


 トン、トトン、トトン、トン


 そうしてから、ドアノブを回す。

 鍵はかかっていない。


 キィという金属同士がこすれ合う甲高い音が響く。

 あっさりと中へ入ることが出来たが、中は薄暗く一か所だけライトが付いている机があった。


 青年はその机に置かれている箱型の機械に指を指しこみ、しばらく待つと、ガゴンッと大きな音が響いて一瞬の浮遊感の後、少しだけ床が震える。


 何処からか微かに聞こえるモーター音を聞きながら待つこと数秒。

 先ほど感じた浮遊感と打ち消す様に、少しだけ強くなったような重力を感じて先ほど入ってきた扉に戻る。


 そして、その金属の扉を開くとそこは先ほど下ってきた階段はなく、薄明りの中、テーブルとソファが鎮座した空間になっていた。


 青年はそのソファの入口側に座って、待つ。

 そのまま数分だろうか、青年は特に何をするでもなく、ただじっと待っていた。


 そうしていると、黒いスーツの男たちが数人反対側の扉から出てきた。

 男たちは青年に一瞬目をやり、その後すぐに興味を失ったかのように視線を合わせることなく一人の男だけが青年の対面に座った。

 そして残った男はその男の背後に付き従う様に立った。


「それで?手に入ったのか?」

「ああ」


 前置きも挨拶もなし、あるのはただお互いにお互いを利用しようとする意志のみ。

 青年は先ほど路地裏の男たちから強奪した、小さな機械を取り出しテーブルに置く。


「それがターゲットが持っていた機械だ」

「.........ふん」


 座っていた男はその機械を乱暴に取り上げると、改めるようにじっくりと観察し始める。

 しばらくそうやって観察をしていると男が唐突に質問を始めた。

 まるで、世間話でもするかのように、アイスブレイクのように空気を和ませるかのような軽い調子で。


「お前、これが何なのか聞いたか?」

「......いや、聞いてない。興味もないからな」

「.........そうか」


 男はゆっくりと手にしていた機械をテーブルに置いて懐に手を伸ばす。

 そして、


「質問には正直に慎重に答えろよ?」


 一気に銃を抜き放った。

 そして、男の背後に控えていた男たちもまた同様に銃を手に、その銃口を青年へと向けていた。


 青年はそれを冷めた目で見つつも、逆らう気もなく、手をあげて降伏を示す。


「これについて何を聞いた」

「............聞いてない」

「嘘つけ、これにどれほどの価値があると思っている」

「知らねぇ」

「知らない訳がねぇ、俺ら見たいなのが軒並み高い懸賞を駆けてんだ。お前みたいな金に困ったチンピラがそれを知らないはずがねぇ」

「そりゃ、そういう意味では察することは出来るけど、あんたたちみたいなのを敵に回すほど馬鹿じゃない」

「.........はっ」


 男は吐き捨てるかのように花で笑い、引鉄を引いた。

 火薬が炸裂する激しい音と光と共に、簡単に人の命を奪う破壊の鉄塊が解き放たれた。

 それは青年の顔のすぐ横を通りすぎて背後の壁と激突して、その破壊力の反動によって粉々になった。


「なら、俺ら以外の組織に喧嘩を売るこの行為はどう思ってんだ?」

「直接関わったあんたらとそれ以外の組織じゃ意味が違うだろ。俺が下っ端のチンピラだって誰だって分かる。だから、今回のは俺が喧嘩売ったというより同じ目標を取り合った同業が競争に負けた程度だろ?そういうの拾って生きている俺らみたいなチンピラにいちいち目くじら立てんのか?」


 少しだけ挑発したような物言いを放つ。


「状況が見えて無いようだな」


 男はその言葉に、銃を握りなおして照準を改めて青年の眉間に合わせる。

 青年は何もしない。

 何も語らない。

 ただその銃を握る男の目だけを見ていた。


 男にとってここでこの青年を撃つことは簡単だった。

 この街において、底辺で言われたままの仕事をしているチンピラなんていくらでもいる。

 だが、その中で信頼できる。信用のおける、しかしいざという時簡単に切り捨てられる人間というのは貴重だった。


 人は状況が変われば簡単に裏切る。

 それを身をもって知っている男にとって、大金を手にする可能性があったのに真面目に仕事をこなしてきたこの青年は、それだけで評価に値した。


「おーけーだ。今回の報酬だ」


 男の中で折り合いが出来たことによって、男は銃を下げて話を戻す。

 後ろに控えていた部下のような男の一人が、そっと封筒を渡す。


「約束通りのもんが入っている。確認してくれていいぜ」

「......いや、いい。もう帰らせてくれ」


 それだけ青年が言って封筒を受け取ると、席を立つ。

 男たちはそれに不快感を見せることもなく、青年が立ち去るのを見送った。

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