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「というわけで、今回は初めての体育なのでクラスの親睦もかねて男女合同バレーをしましょー!」
体育の時間。
ぱちぱち、という体育の女の先生の拍手とともに授業は始まった。
男女それぞれクジを引いて4チームに分かれて、同じ番号の男女でチームを組むそうだ。
まずは準備運動からね、という先生の声を聞きながら、私は真っ青になっていた。
バレーが嫌いなのである。
デカいからと最初は重宝されるのだが、私の運動神経はかなり悪い。
重宝される分がっかりされるのも人一倍で、試合の終了後はいつもデカいのに役に立たない申し訳なさで悲しくなる。ちなみにバスケもそう。
私が準備運動もせず立ち尽くしていると、前にいた大林くんが私のお腹を小突いた。
「何ぼーっと突っ立ってんだ。」
「う、うん…」
伸びをする大林くんはとても可愛く、クラスメイトの視線を集めている。
「ペアでストレッチだって。一緒にするか?」
大林くんは大きな瞳で真っすぐ私を見ていて、私はなんだか少しほっとした。
彼がいると、なんとでもなる気がしてくるから不思議だ。
大林くんが手を差し出してきたので、その手をつかもうとしたーーー
が。
「大林くん!!やっぱ大林くんは体格的に里美とペアいいと思う!ね、みんな!!」
「そうそう!!」
ドタドタと園田さんを連れた女子達がやってきた。
そして、一人の女子が私たちの間に無理矢理入ろうと私の体にぶつかって
「きゃっ!!」
倒れた。ーーー女子が。
「いったぁー…ち、ちょっと!!」
「あ、ご、ごめんね?私でかいから…」
私が上から見下ろすように手を差し出すと、その女子は何故かビクッとした後、
「あ、や、別に…」と私の手を取って立ち上がった。
そのあとも女子達が私を見上げて居心地悪そうに苦笑いしている。
一部始終を見ていた大林くんは
「これが純粋培養か…」と訳の分からないことを呟いていた。
「めいこって、女子にいじめられたことある?」
「え!?ないよ!身長を弄られることはあるけど、悪質なのは全然。女子はみんな優しかったから。」
私が言うと、大林くんはニッコリ笑った。
「めいこ、デカくてよかったな。」
「え!?よくないよ!!?」
結局私は上機嫌な大林くんとストレッチをした。
そしてバレーのチームわけが行われたのだが…
「あ、小野田さんじゃん。よろしくなー」
「よっしゃ!俺らのチーム鷲尾と小野田がいるって、これ圧勝だろ!」
「…。」
鷲尾くんがいる3番のチームに属することになった。
チームの他の4人は2人がいるなら安心とかなんとか言っている。最悪である。
ちなみに大林くんは隣の4番のチームで園田さんと一緒だ。
二人とも小動物みたいで可愛いなぁ私もあっちがよかったなぁと涙目で4番チームを見つめていると、大林くんに鋭い眼光で睨みつけられた。何故…。
私ははぁ…とため息をついた。
チームのみんなはテンション高くフォーメーションを話し合っている。
(これ、鷲尾くんもいるから期待値分みんなを失望させるいつものパターンの乗算になるのでは…。)
そして私の心配は見事に的中した。
「…。」
円形になってパスやトスの練習をすることになったのだか、私はパスされたボールを全て綺麗に後ろに飛ばしてみんな無言状態である。
挙げ句、オーバーハンドパスを顔面で受け止めてしまった。
チームの一人の男子(たしか吉岡くん)がわなわなと震えている。
「…お、小野田ー!!お前デカいくせに運動神経悪いとか、でくのぼ…」
ガッ
「いってぇ!!!」
吉岡くんが言い終わる前に、彼の頭に隣のチームのボールが当たる。
「あー、ごめん。吉岡。」
「ごめんねぇ吉岡くん!」
「た、たいちゃん!?園田さん!いや、いいよ!全然いいよ!」
どうやら大林くんのアタックが吉岡くんの頭に直撃したようだ。
私の時と大分対応が違うじゃないか吉岡くん…。
私はパスが当たってひりひりする顔面を摩りながらちらりと隣チームを見ると、大林くんが(せ、い、と、う、ぼ、う、え、い)と口パクして舌を出してきた。うぅ、天使のテヘペロまぶしい…。
しかも、また助けられてしまった、のか…。
「ねぇ小野田さん。もうちょっと腰を低くして、腕を閉じてみて。」
「えっ!?…こ、こう?」
「そうそう。」
へこんでいる私に、横からいきなり声をかけてきたのは鷲尾くんだった。
彼はさわやかな笑顔でパスのフォームを教えてくれた。
鷲尾くんの長い腕から、優しめのパスが下りて来る。
「腕の力じゃなくて、腰から掬うようにボールを上げて…そう!できるじゃん!」
私が受け止めたボールは見事綺麗な円を描きながらチームメイトの方に飛んでいった。
私は嬉しくて、鷲尾くんの方を見上げた。
すると、
「めいこちゃん!ナイスパス!」
(め、めいこちゃんだって!!!)
鷲尾くんが手を挙げていたので、私もちょっと興奮気味にハイタッチした。
「ありがとう!鷲尾くん!」
そして何とか私はパスを回すことには成功したーーーのだが、
やっぱりチームの中では下手くそ認定されたので、私は試合の時は前方真ん中ネット前でブロックに徹することになった。
試合は1・2番と3・4番チームが始めに対戦し、勝った方が決勝戦をするトーナメント方式だ。
私たちは3番チームなので、4番の大林くんのチームと今から対戦なのだがーーー。
「な、なんかたいちゃん怒ってね?」
「里美ちゃんのやる気すごいね…。」
「里美、元バレー部だから…。」
「そ、そうなんだ…。」
小動物のような二人がネット越しにすごい圧力で私を見上げてくる。
さながら私は虎に囲まれたゾウの気分である。
「なんか二人とも気迫すごいな。」
私の隣で鷲尾くんが笑っている。
笑い事ではないほどの気迫なのだが…。
そして、無情にも試合は始まった。
「きたよ!パス!」
「ナイス!」
「めいこちゃん、ブロック!」
「は、はい!!」
スカッ
私の出した腕は空を切り、園田さんの綺麗なトスと大林くんの驚異的な握力から放たれた剛速球は後衛の吉岡くんの顔面にヒットした。
「いてぇーー!!!」
園田さんと大林くんはハイタッチを交わす。
「里美とたいちゃんお似合いー!」
「かわいいー!」
吉岡くんの悲鳴も虚しく、他チームの女子達は二人に夢中である。
隣の鷲尾くんは何が面白いのか手を叩いて笑っている。
「やるね、二人とも。」
(鷲尾くんて、変…)
私が何とも言えない顔で鷲尾くんを見ていると、相手コートから大林くんのサーブが何故か私の頭に当たった。
「え!」
「あ。」という大林くんの声が聞こえたので多分手元が狂ったのだろうか。
あまり痛くはなかったが、そのボールはうまく円を描き鷲尾くんの真上に来た。
そして、その隙を逃さず、鷲尾くんは軽く飛んでアタックをした。
ボールは後衛の女子たちの間をすり抜ける。
ピーッという音とともに私たちのチームに得点が入った。
「めいこちゃんナイス!…頭大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。鷲尾くんいいアタックでした。」
鷲尾くんが片手でグーを作っていたので、私もそれにグーで返した。
私の頭トスがナイスだったかは疑問だが、鷲尾くんといるとなんか青春で嬉しい。
それに比例してどんどん暗黒オーラが漂って来る相手コート…。
運よくさっきは鷲尾くんのアタックで点が入ったけど、大林くんと園田さんがいるチームはめちゃくちゃ強い。
次の点で向こうの勝利が決まってしまうところまで、すぐにきてしまった。
(これ以上迷惑かけないために、ブロックに徹しよう…。)
吉岡くんのサーブを受け止めた相手チームの後衛女子が、大林くんにパスを回す。
「園田!」
大林くんが園田さんにトスをあげると、私がブロックするのと同時に園田さんの小さな体が驚くくらいの脚力で飛び上がった。
その高さは、私がジャンプして園田さんの顔と真正面に向かい合うくらい。
園田さんの顔は正に死闘に繰り出す兵士の顔だった。
バシンッ!!
しかし、園田さんのアタックは見事私の胸当たりに直撃し、アタックを防ぐことができた。
(やった…!)
ーーーそして、その反動で私の下手くそなブロックは園田さんの可愛らしい顔面にぶつかった。
「きゃぁっ!!!」
「里美!」
「園田ちゃん!」
ドンッという痛々しい音がして園田さんがコートに倒れた。
「うぅ…」とこもった声が聞こえる。
「園田さん…っ、え?」
私は慌てて園田さんの所に駆け寄ろうとした。
しかし、先ほど園田さんを応援していた女子達が素早いスピードで私の腰を掴んだ。
「園田、立てるか?」
「う…」
その時、大林くんが園田さんの体を支えながら彼女を背中に乗せるのが見えた。
「先生、園田を保健室に連れていくんで後よろしくお願いします。」
そう言って、大林くんは体育館を出ていった。
クラスメイトは騒然としていて、先生が「とりあえず園田さんのことは大林くんに任せて、試合に戻るよ!」と手を叩いている。
私は加害者なので大林くんについて行こうとすると、後ろの女子達が今度は私の腰に手を回して阻止した。
「ちょっと!小野田さんは行っちゃダメだって!」
「で、でも謝らないと!私のせいで園田さんが…」
「だーかーら!空気よんでよ!!」
「…?」
私が訳が分からなくて困った顔をすると、一人の女子がはぁ…とため息をついた。
「…もうクラスの女子はほとんど知ってるんだけどさ、里美は、中学の時からたいちゃんのことが好きなの。」
「え…。」
私は衝撃で一瞬何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
「だからさ、冗談半分で小野田さんが大林くんと付き合ってるの見てると、いらいらするんだよね。」
「ちょっと愛美言いすぎ…」
「だってそうじゃん!小野田さん、本当にたいちゃんのこと好きなの?たいちゃんに好きだって告白されたの?ーーーもしそうじゃないなら、里美がかわいそうだから早く別れてよ。」
ドクン、ドクン、と嫌な音を立てて心臓がなっている。
私は俯いたまま、呟いた。
「わ、わ…」
「「わ??」」
「…分からない…けど、」
そして、顔を上げて女子の肩に手をかけた。
「恋愛感情とかは別にして、人として、園田さんに謝らないといけないから、行く。ーーー大丈夫。時間をずらして大林くんには会わないようにするから。」
「ちょっ…!」
そう言って、私は足早に体育館を出た。
廊下を小走りしながら、私は自分の足元が揺らいでいるのが分かった。
"里美は、中学の時からたいちゃんのことが好きなの。"
"小野田さん、本当にたいちゃんのこと好きなの?たいちゃんに好きだって告白されたの?"
大林くんのことを好きかと聞かれるとよくわからない。
綺麗だとは思うし、一緒にいるとドキドキするけど、それは私がそういうものに耐性がないだけ…な気もする。
しかも彼女たちに言われた通り、大林くんは私に一度も、「好き」と言ったことがない。
なんか、「凸凹カップル面白いから付き合う?」みたいなノリだ。
そう、だから、あんまり深入りしちゃいけないと無意識に自分に言い聞かせていた。
大林くんはきっと、大きい女が珍しいから付き合ってみただけで、飽きたら園田さんみたいな自分より小さい子が良いって思うはずなのだ。あくまで自分は被害者なんだって。
でも。
さっきの二人の光景を思い出す。
天使みたいな大林くんに、妖精みたいな園田さん。その間に立つ、でかくて可愛くもない私ーーー。
さっきまで何とも無かったのに、今はボールが当たった胸がじくじくと痛む。
(私って、かなり不釣り合いで、邪魔な存在なんだ。
こんな当たり前のことに、今更気づくなんてーーーー。)
保健室の前で中を覗くと、園田さんがティッシュで鼻を押さえながら椅子に座っていて、大林くんはいなかった。
私は思いきって保健室に入り、驚く園田さんの前で手をパン!と合わせた。
「ご、ごめんね園田さん…!!」
「お、小野田さん…。」
「その、手が当たっちゃったことはもちろんなんだけど、クラスの女子に色々、大林くんのこと聞いて…。本当に、色々ごめん…。」
私がそう言うと、園田さんは分かりやすく顔を真っ赤にした。
「…小野田さんが謝ることないよ。なんか、うちが小野田さんのこと勝手にライバル視してたっていうか……もう二人は付き合ってるのに…。」
「あ!そのことなんだけど、私たち本当に付き合ってるわけじゃなくて!冗談!ノリ?みたいな感じなの!」
私が笑いながら言うと、園田さんは困惑した表情を見せた。
私だって訳が分からないけど、とりあえず私は邪魔者じゃないということを伝えなくてはいけない。
「…え?で、でも、二人で登校したりお昼も一緒に…」
「あー…あれは、なんか、訓練?みたいな…」
「く、訓練…?」
「そ、そう!だって普通に考えて私と大林くんが付き合うなんて変じゃん。」
私、今何を言っているんだろう。
なんだか体と心がばらばらだ。
「廊下歩いたり駅前とか歩いててもめっちゃ皆に驚いた顔で見られるもん。そういうの恥ずかしいし。わ、私、自分より背が高い男の子がタイプだし、それに大林くんだって園田さんみたいなーーー」
バンッ!!!!
突然、後ろの保健室のドアが勢いよく開いた。
驚いて後ろを振り返ると、そこには
「楽しそうな話してんな。」
絶対零度でこちらを見据える大林くんの姿があった。
「あ、お、大林くん…。」
「た、たいちゃん、私…」
「園田、先生呼んどいたから。もうすぐ来るって。」
「う、うん…。」
それだけ言うと、大林くんはすぐにその場を立ち去った。
ハッと気づいた私は慌てて彼の後を追いかける。
「まって、大林くん!園田さんが…!」
「ーーーあのさ。」
立ち止まった大林くんがこちらを振り返る。
その瞳は暗くて、思わず私は息をのんだ。
「…お前にとって、俺は恥ずかしい存在か?」
大林くんの低い声が人気の少ない廊下に響いた。
私の体が一気に冷たくなる。
「ち、ちが…あれは」
言葉がでない。
否定したいんだけど、何を否定したいのか、私はどう思っているのか、その言葉が出てこない。
今までずっと私は私自身が傷つかないために何かを纏って生きてきた。
私は、私の気持ちが分からないのだーーー。
大林くんは私の様子に呆れたのか、それ以上何も言わずに去って行った。
その凍てついた瞳が、いつまでも私の脳裏から離れなかった。




